標準化関係の調査研究
図記号データベース形式規格動向 (2012年2月9日更新)
1. データベース形式規格の概要
IEC/TC 3、IEC/SC 3Cでは、長年にわたり、データベース形式図記号規格を所掌してきた。IEC/TC 3が所掌するIEC 60617 電気図面用図記号、IEC/SC 3Cが所掌する 機器・装置用図記号である。近年、マルチ言語化の動きが高まっており、これらのデータベース規格を日本語で閲覧できる日は近い。
1.1 一般的特徴
図記号、用語、コードなど、パーツの国際規格がIEC, ISOによりデータベース形式の規格として一般に公開されている。 データベース形式規格の特徴は次のとおりである。
- 規格の対象が、基本的(構成要素的)パーツであったり、手段のパーツである。
- IE等のブラウザで閲覧できるので、特別なビュアーを必要としない。
- 検索機能(項目別、全文)を備えている。
- 関連情報(注釈、適用図記号、被適用図記号等)とのハイパーリンクがある。
- マルチ言語化が進行している。
- データベース形式規格審議手順(IEC Supplement Annex J)で審議を行なう規格は、一般的規格に比べ遥かに迅速に新規提案、改正提案を審議し国際標準化できる。
2. データベース形式図記号規格
2.1 IEC, ISO図記号規格データベース
現在、表1に示すような図記号がデータベース形式規格として公開されている。 以下、IEC 60417、IEC 60617について動向を説明する。
2.2 IEC 60417とIEC 60617の図記号データベース形式規格の経緯と計画
図1にIEC 60417とIEC 60617の今までの経緯と2012年度以降の計画を示す。両者は、似て非なる歴史を歩んできたが、マルチ言語の本格化により、両者とも、日本語GUI(Graphical User Interface)で操作できる国際規格となりつつある。
図1 IEC 60417とIEC 60617の今までの経緯と2012年度以降の展望
2.2.1 IEC 60617 電気図面用図記号 データベース
図1に示すとおり、2001年にデータベース形式規格の先駆的なものとして運用を開始した。日本は、IEC/TC 3国内審議委員会が、データベース審議手順の委員会(VT 60617)に参加しデータベース審議手順による審議に参加してきた。2005年から、対応JIS C 0617の改訂にあたり、データベース形式規格としての調査・研究を行い、以下の提言が纏められた。
- データベースとして公開可能なこと。
- 従来のJIS規格票に準じた形態(PDF形式又は印刷物)としても公開可能なこと。
- 図記号を電子媒体にダウンロードできること。
しかしながら、この提言は実現せず、JIS C 0617の改訂は、従来のJIS規格票として2011年1月(1部から11部)及び3月(12部、13部)の全13部構成の規格書として発行された。規格書の解説には、「国際規格の整合性の観点からの検討が必要」と明記された。
IEC/TC 3国内審議委員会は、JIS C 0617:2011の発行後、週単位、月単位で更新されるデータベース形式国際規格とJISの整合方法を検討してきた。
一方で、マルチ言語化は順調に進み、IEC/TC 3国内審議委員会及びJSAは、2011年8月に、日本はIEC 60617のマルチ言語化に対して、対訳を提供することが可能である旨IEC中央事務局に伝え、歓迎、奨励された。これを受けて、2011年12月に、IEC 央事務局より、マルチ言語用対訳入力フォーマットファイルを提示され、JIS C 0617の2次利用として対訳をIEC中央事務局に提出した。
2.2.2 IEC 60417 機器・装置用図記号 データベース
図1に示すとおり、2002年にデータベース形式規格として運用を開始した。機器・装置用図記号は、利用分野(国内外TC,SC、工業会など)に関わることもあり、対応JISは存在しなかった。
しかし、ISO/IEC Directives 6.6.5.6に「機器・装置に用いる図記号は、IEC60417及びISO 7000によらなければならない。」と明記されていること、また、IEC/Guide 108が規定する「Horizontal Standards」(基本的で横断的な規格)に指定されており重要性が高い。また、IEC/SC 3Cに対して日本は長年幹事国を務めており、国際幹事及び国内審議委員会は早くから対応JISの必要性を認識しており、IEC/SC 3C国内審議委員会は自発的に和訳を進めてきた。2012年1月に、この国内審議委員会の成果である和訳をIEC中央事務局に提出した。
これに先立ち,2008年のIEC総会にて、IEC 60417マルチ言語版のプロトタイプが紹介され、英語、フランス語に加えて、ドイツ語、そして日本語のデモが行われた。図2にIEC 60417マルチ言語版プロトタイプの日本語表記と英語表記の画面例を示す。検索機能、ハイパーリンク機能など従来の機能は損なわず、必要なテキストは日本語になっている。
3.データベース審議手順
データベース形式規格の通常手順の審議期間は、図3に示すとおり規格書の審議期間に比べ遥かに短い。準備期間(NP)2~4週間、評価期間(EV)8週間、決議1週間、準備4週間、承認期間8週間(VT)、発行1週間、合計24~26週間で審議が一巡する。提案準備から規格発行まで6ヶ月程度で終了する。 決議を通過できないものについては、データベース形式規格の拡張手順(通常の審議手順)が適用される。
4. まとめ
データベース形式の図記号規格について、筆者が事務局を務めているIEC/TC 3が所掌するIEC 60617 電気図面用図記号データベース、IEC/SC 3Cが所掌するIEC 60417 機器・装置図記号データベースの現状について述べてきた。
平成24年度には、マルチ言語として日本語対応が加速的に立ち上がるよう、IEC/TC 3国内審議委員会、IEC/SC 3C国内審議委員会、またIEC/SC 3C幹事国として活発に活動する計画である。
一方で、JIS C 0617とIEC 60617の不整合の解決が必要である。技術的には、お互いのデータを連携させることで解消する手段はあるが、週単位、月単位で更新されるデータベース形式国際規格に迅速に対応できるJISの制度が急がれる。
参考文献
「データベース形式で出版された電気用図記号規格」標準化と品質管理 Vol.62 No.7
「データベース形式で出版された機器・装置用図記号規格」標準化と品質管理 Vol.62 No.4