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欧州標準化2024年行動計画について

2024/04/03

欧州委員会は、毎年、欧州標準化にむけた行動計画(Annual Union work programme on European standardisation)を発表している。 2024年計画は、2月2日に公表され、2024年の優先分野が明記されている。2024年の優先分野は、過去の行動計画と比較して、かなり変更になっており、 今年の行動計画の概要を過去の計画と比較しつつ紹介したい。


1. 2024年計画の概要
2024年の優先分野として、① 高いパフォーマンスのコンピューテイング技術及び量子通信インフラ、② 永久磁石のリサイクル及び重要原材料の開発、抽出、精錬及びリサイクル、③ 信頼できるデータ・フレームワーク(Trusted Data Framework)、④ デジタルによる同一証明、⑤ エアコンやヒートポンプのDPPなどが掲げられた。また、これを含む72の行動がリストアップされている。

これらの72の行動は、1)強靭化のための行動、2)デジタルへの移行のための行動、3)グリーンへの移行のための行動、4)域内市場形成のための行動の4つの目標に含まれている。この4つの目標は、2022年に策定された欧州標準化戦略において規定された以下の3つの目的、a)欧州単一市場の形成のため標準が活用されること、b)グリーン及びデジタルへの移行、及びc)単一市場の強靭性確保のため欧州標準化システムを活用するに基づくものである。

また、今年の2024年計画の特徴として、それぞれの項目について欧州委員会が進めている規制措置との関連が打ち出されている点があげられる。例えば、重要原材料については、重要原材料法の発効(2023年11月政治合意)、信頼できるデータ・フレームワークについては、データ法(昨年11月成立)、エアコンやヒートポンプはネットゼロ産業法(2024年2月政治合意)との連携した活動と記載され、規制と標準の連携が特徴となっている。

このように、今年の欧州標準化戦略は、今までと異なり、特定産業政策的な色彩が強いものとなっている。

2. 過去3年間の優先順位の変化
2022年版、2023年版、2024年版と比較すると、順位が大きく変化しているのがわかる。この中で、データ・フレーム、デジタル同一性証明、DPPの中身、EV充電器は、2024年に初めて優先分野に登場した分野である。時代の流れに合わせ、EU委員会も立法措置や標準策定に対応しつつ政策の重点を変えている様子がうかがえる。

優先分野の遷移

2022年 コロナ 重要原材料 低炭素セメント 水素 半導体
2023年 水素 太陽光 重要原材料 サイバーセキュリティ DPP
2024年 量子 重要原材料 データ・フレーム デジタル統一性 DPP(AC,HP)


3. 2024年計画で優先分野とされた項目における規格開発の方向性


  1. 高いパフォーマンスのコンピューテイング技術及び量子通信インフラ:欧州の経済安全保障の上で重要技術という観点から優先分野に取り上げられた。モジュラー量子コンピュターや通信アーキテクチャのサプライチェーンに向けた規格開発。欧州量子通信インフラの高いパフォーマンス技術確保のための規格。量子コンピュターにおける安全、プライバシー、サイバーセキュリテイの規格開発
  2. 重要原材料:重要原材料法の実施及び強靭なサプライチェーンの確保のための優先分野とされた。永久磁石のリサイクルに関する標準化、重要原材料の開発、抽出、精製、リサイクルを促進させる規格開発
  3. データ・フレーム:データ法の実施のため2024年計画から新しく優先分野になった。信頼がおけて、法的にも問題がないデータ共有化に関する標準化、実践、ルール化の包括的対応策。データカタログの標準化、オントロジー標準などを含む。
  4. デジタル・アイデンティティ:欧州市民が世界的に認められた安全でユーザー親和性のあるデジタル・アイデンティティを確保する。欧州デジタル・アイデンティティ・フレームワークを包含しつつ、欧州標準と国際的標準を調整する。
  5. DPP(エアコンとヒートポンプ):ネットゼロ産業法とその実施のための標準化を踏まえ、ヒートポンプが優先分野とされた。エアコンとヒートポンプの最高技術水準にむけた、信頼性があり、正確で、再現性がある測定方法の規格開発
  6. サイバーセキュリテイ:サイバー強靭化法に対応するサイバーセキュリテイ仕様に対応する規格開発
  7. 水素の技術と要素:欧州単一市場における水素インフラと技術的要素の開発を進めるための水素技術と要素に優先を置く。水素の生産と利用のための品質、技術及び安全に関する規格開発
  8. EV充電器インフラ:多様なメーカーにおける相互接続を確保するための充電インフラとEVの間での自動接続(automatic connectivity)の促進。e-モビリテイ(プラグ&チャージ)のための公開鍵基盤(Public Key Infra)に向けた規格開発。オープン・チャージ・ポイント・プロトコル(充電設備と管理設備の間の通信プロトコル)とIEC 63110(充電プロトコル)との統合。


一般財団法人 日本規格協会
標準化研究センター 研究員
堀 史郎