
JIS C 60300-1:2025(IEC 60300-1:2024) 総合信頼性マネジメント-第1部:総合信頼性のマネジメント
2025/08/28
◆制定の趣旨
この規格は、総合信頼性(ディペンダビリティ)マネジメントの国際規格であるIEC 60300-1:2024(以下「対応国際規格」といいます)を基に作成したJISです。この規格は、2023年度にJIS C 5750-1の改正として作業を開始しました。その後、2024年度に入り、規格番号をIEC規格に合わせてJIS C 60300-1と変更することになりました。
今回の制定は、対応国際規格の2014年版から2024年版への改訂でなされた以下の事項を反映しています。
- 総合信頼性マネジメントの価値や重要性について、マネジメント層にも広く認識されるよう説明しています。
- 総合信頼性およびその4属性について、他のトップレベル規格でも共通に使用する説明文言を定めています。
- 組織のマネジメントシステムへの総合信頼性の統合について、マネジメントシステム規格の構造に沿って説明しています。
- 総合信頼性に関する諸活動を、目的・成果・タスクから構成される総合信頼性活動として、一定の様式で体系化しています。
- 変化するシステムに対応する開放系総合信頼性の側面(説明責任の達成や合意形成)を取り入れています。
- ソフトウェアに関する記載を強化しています。
- 総合信頼性分野の他のトップレベル規格および詳細規格への道しるべとして機能するよう、参照を含めています。
- ISO/IEC/IEEE 15288のシステムライフサイクルプロセスと総合信頼性活動との関係を示しています。
◆制定の経緯
この規格は規格番号の変更に伴い新しく制定されましたが、その背景には対応国際規格の改訂が大きく関係しています。そのため、JIS C 5750-1の改正、この規格の制定、対応国際規格の改訂の経緯についてご説明します。
この規格の実質的な初版は、JIS C 5750-1:2000です。初版は、IEC 60300-1:1993(Dependability management-Part 1: Dependability programme management)に基づく国際一致規格であり、当時のISO 9000-4:1993(Quality management and quality assurance standards-Part 4: Guide to dependability programme management)と同一の内容でした。ディペンダビリティマネジメントは、当時、品質マネジメントシステム(QMS)の一部として位置づけられていました。
第2版にあたるのは、JIS C 5750-1:2010であり、IEC 60300-1:2003(Dependability management-Part 1: Dependability management systems)に基づくものです。2000年にISO 9000シリーズとしてQMSの再構築が行われ、ディペンダビリティマネジメントはQMSから独立することとなりました。IEC/TC 56(ディペンダビリティ)は、独立したDependability Management System(DMS)の構築に取り組み、大幅な改訂を経てIEC 60300-1:2003を発行しました。この規格は、マネジメントシステムの国際規格化の流れを踏まえ、ISO 9000シリーズとの整合性を強く意識して策定されました。
その後、対応国際規格は2014年に見直され、IEC 60300-1:2014(Dependability management-Part 1: Guidance for management and application)が発行されました(これに対応するJISは制定されませんでした)。
その後、IEC/TC 56は総合信頼性分野における規格群の体系化を目指し、トップレベルの規格群を整合的に改訂する計画を進めました。その一環として、対応国際規格の改訂作業が2020年から開始され、IEC 60300-1:2024(Dependability management-Part 1: Managing dependability)が発行されました。これをJIS化したこの規格が、実質的な第3版となります。
◆規格群の体系化
IEC/TC 56では、以下のように規格群を体系化しています[1]。
・Core standards:総合信頼性の基本概念またはプログラムマネジメントに関する概要を提供する規格群。
▶Dependability management
▶Application guides for reliability, availability, maintainability and maintenance, and supportability and support.
・Process standards:マネジメントの側面、またはライフサイクル段階に関連する総合信頼性の問題に対する指針を与える規格群。
・Support standards:さまざまな総合信頼性の問題に関する技術情報を提供する規格群。予測、測定、検証のためのツールが含まれる。
このうち、冒頭の”Core Standards”の”Dependability management”にあたる規格が、IEC 60300-1:2024であり、JIS C 60300-1:2025です。その他の規格の詳細は、一部の情報がIEC TC56のウェブサイトにあるほか、今後SQ誌やSQオンライン上でもご紹介ができればと考えています。
[1] Jean Cross, International Standards on Dependability, 神奈川大学情報学研究所彙報 2025-0005 号, ISSN 2759-3908
JIS C 60300-1:2025
総合信頼性マネジメント-第1部:総合信頼性のマネジメント
Dependability management-Part 1: Managing dependability
木下 修司
2007年東京大学文学部インド哲学仏教学専修課程卒業。日本コントロールシステム(株),奈良先端科学技術大学院大学、神奈川大学大学院、フリーランスSE、東京都立産業技術大学院大学助教を経て、2025年1月より長崎県立大学情報システム学部准教授。博士(理学)。情報処理学会情報規格調査会SC 7 専門委員会(ソフトウェア及びシステム技術)委員長、IEC TC 56国内委員会WG4幹事。
武山 誠
1995年エジンバラ大学計算機科学科博士課程修了。PhD in Computer Science。クイーンズ大学、シャルマース工科大学、産業技術総合研究所、神奈川大学理学部特任教授を経て2023年より神奈川大学情報学部計算機科学科非常勤講師、プログラミング科学研究所プロジェクト研究員。IEC TC 56/WG 3 expert、WG 4 Deputy Convenor、ISO/IEC JTC 1/SC 7/WG 7 expert、ディペンダビリティ技術推進協会標準活用部会主査