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ISO/TC 312サービスエクセレンス議長 マティアス ゴッチェ教授インタビュー(後編)

2023/07/04

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「顧客中心の文化の構築がサービスエクセレンス導入に最も重要な要素の一つ(ISO/TC 312議長インタビュー)」

もう一つの例は、ドイツのOne serviceです。彼らは、医療機器などのコンサルティングを行っています。彼らの特徴は、サービスを提供するスタッフに焦点を当てていることです。彼らは、ビジネスの中心的な存在であり、彼らの仕事ぶりにお客様が満足すれば、2回目の購入や再契約に繋がります。
我々は、彼らは、“カスタマーデライト”、そして、何故、それが必要なのかを理解するため、効率的な方法かつ簡単な方法で彼らの訓練を行いました。何をしたかというと、最大3分の長さのデジタルコンテンツを使って、“サービスエクセレンスとは何か”、“顧客満足とカスタマーデライトの違いは何か”、“どのような顧客が存在するか”、“どのように彼らに最高の方法でサービスを提供するか”を説明しました。あくまで、これはサービスエクセレンスを理解するための出発点に過ぎませんが、すべての従業員が学ぶことができるオンライントレーニングツールの整備に取り組みました。サービスエクセレンスの取り組み事例は、多くの場合、国際的な大企業の例ですが、これは、中小規模の会社でも十分に達成することが分かり、従業員のモチベーションを高めながら、どのようにサービスエクセレンスに到達すればよいか理解することができる良い例です。

one serviceのデジタルコンテンツ

それから、もう一つ、WISAGは、ドイツのファシリティーサービスの企業としては最大手の一つです。彼らは、顧客の心をつかむために、そして従業員に、喜ばれるようにするためには、どうしていくべきか取締役会で議論してきました。そして、2013年からは、毎年、顧客満足度調査及び従業員満足度調査を実施し、お客様にサービスに対する喜びの度合いを聞いています。特に、この調査では、“お客様が不満に思った理由”、“満足した理由”、あるいは、“お客様に喜んでいただいた理由”を聞いています。これにより、毎年、従業員の行動を改善することができるうえ、彼らがどのような能力や行動が必要とされるか明らかにすることができました。この取り組みは、組織がどのようにお客様を喜ばせることができるかアイデアをもたらします。

最後の例は、Team Bankからです。彼らは協同組合金融ネットワークを専門とする銀行で、彼らは戦略的にサービスエクセレンスを導入しており、顧客を喜ばせるというビジョンのもと、それを実現するためのさまざまなツールや、それを実行するための活動を実施しています。例として、“100プラス1%キャンペーン”を実施しています。これは、平均的なパフォーマンスや通常のパフォーマンスだけでは不十分で、顧客を喜ばせるため、驚かせるために“プラス1%”のパフォーマンスを与えることを常に考えることを推奨しています。

尚、これは、良い例なのですが、彼らがこのような活動を行う前に、 先ず、サービスエクセレンスの文化を組織の中に作り上げなければなりませんでした。このような文化をつくることがサービスエクセレンスの導入において、最も重要な要素の一つです。以前、私がドイツ人マネジャーやヨーロッパ人マネジャーを監査した際に感じたことですが、企業の最大の課題は、組織が顧客中心のアプローチを確立したい場合、どうすれば顧客中心の文化を、つまりサービスエクセレンス文化を確立できるかです。その答えが国際標準、ISO 23592の中で見つかることと思います。

現在のISO/TC 312の取り組み、そして将来の展望を紹介してください。

先程、紹介したような様々の事例を共有するため、ISO/TR 7179(サービスエクセレンス― サービスエクセレンス達成のためのプラクティス※1)の発行を計画しています。これは、あなた方、日本リードの元で進めているもので、ご存知のように、私たちは5つの国、バルバドス、キプロス、中国、日本、ドイツから多様なケースを収集しました。これは、あるエキスパートが言っていましたが、企業は、具体的なアイデア、つまり、どうすればそれを実現できるのか、どうすれば構築できるのかというベストプラクティスを求めています。この技術報告書は、そのヒントを与えてくれるもので、企業が長期的にサービスエクセレンスを確立するのを支援するための非常に重要なツールになると思います。
それから、基本規格であるISO 23592を基礎にパブリックサービスのための規格も開発しています。公共サービスは、通常の産業サービスとは異なるため、パブリックサービスの特殊性に焦点をあてていることは興味深いです。

さらに最近、提案された2つの新しいプロジェクトがあります。これは、“成熟度モデル”と“実装のためのアプローチ”です。企業は、「もっと顧客志向になりたい」とか、「もっと顧客中心主義になりたい」という前に現在置を知りたいものです。例えば、「自分たちは、現在、顧客志向なのか」、「自分達のパフォーマンスを更に上げるべきかどうか」、「自分たちが平均的なレベルなのか、あるいはそれ以下なのか、あるいはそれ以上なのか」などです。つまり、サービスエクセレンスの導入の成熟度を評価する必要があります。更に成熟度の評価に基づいて、チェンジマネジメントやトランスフォーメーションマネジメントによって、組織が変革することをサポートすることが必要です。このように現在の成熟度を評価するための標準、現在地から次のレベルへの移行をサポートするための標準の開発に現在、取り組み始めたところです。

また将来、可能性のあるトピックをあげるのであれば、サービスのために内部のリソースをどう扱うか、つまり従業員のレベルをどう向上するか、また設計の規格に基づき、AIがどうサービスエクセレンスの確立をサポートするかというAIなどの技術とのコンビネーションなどがあります。
またコア規格であるISO 23592の改訂も将来的に議論していく必要があるでしょう。現時点では、サステナビリティの要素はこの規格には含まれておらず、将来的には必要な観点だと考えています。

※1 英文名,Service excellence — Practices for achieving service excellence



マティアス ゴッチェ
ISO/TC 312(サービスエクセレンス)議長


コブレンツ・ランダウ大学教授及び経営研究所所長。
研究テーマは、顧客の経験管理、サービスのデジタル化、顧客と従業員の感情、サービスエクセレンスなど、サービスエクセレンスセンター(CSE)のディレクターも務める。

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