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ISO/TC 312サービスエクセレンス議長 マティアス ゴッチェ教授インタビュー(前編)

2023/07/04



「ドイツだけでなく世界各地の多くの組織でサービスエクセレンスが導入されるようになった(ISO/TC 312議長インタビュー)」

ISO/TC 312は、サービスエクセレンスの国際標準化に取り組む国際標準化機構(ISO)の専門委員会である。サービスエクセレンスとは、“エクセレントサービス※1を一貫して提供する組織能力”を高めるための取組みであり、この委員会は、2017年の設置以来、サービスエクセレンスの国際規格の開発に取り組んできた。今回、ISO/TC 312議長を務めるドイツのマティアス ゴッチェ教授にドイツでの事例のほか、今後の国際標準化の方向性について話を聞いた。


各国からエキスパートがここキプロスに集まり,約3年ぶりの対面での国際会議開催となりましたがどのように感じていますか?

コロナの大流行以来、世界中の全ての経営者、マネジャー、従業員がバーチャル会議について、多くの経験を積んできましたし、これは効率に機能していたと思います。出張費など会議にかかるコストを削減することができますし、出張のための移動に時間を割く必要もありません。ただ、これはあくまで私の個人的な意見ではありますが、対面の会議は、バーチャル会議と比べ、“効率的”とまではいえないものの、より“効果的”であると、今、こうしてキプロス際会議に出席しながら感じています。
我々は、対面で会うことによって、参加国の代表者及びメンバーの目を見ながら、より良い議論をするができますし、問題になりそうなトピックについて個人的に議論することもできます。また会議だけでなく、社交の場も重要です。他の国の文化について学ぶことによって、視点を変えることができます。これが私たちの国際規格開発の業務にとって、プラスとなる共感を生み出し、より良い標準を創りだすことに繋がると考えています。

ISO/TC 312キプロス会議

ISO/TC 312がこれまでに達成したことは何でしょうか。

私たちは、最初の会議を2018年 3月にベルリンで開催して以来、国際規格開発に取り組んできましたが、最も重要な成功は、基本規格であるISO 23592(サービスエクセレンス―原則及びモデル※2)の出版だったといえます。この規格の発行後、ドイツの国際的な企業から多くのフィードバックがありましたし、“サービスエクセレンス”という言葉が様々な実務家によって使われ、ドイツだけでなく世界各地で、多くの組織でサービスエクセレンスの機能が運用されるようになりました。最近では、企業内にサービスエクセレンスチームの設置する、副社長が直接サービスエクセレンスを担当する、また求人情報に“サービスエクセレンスマネジャーの募集”の掲載など見られるようになったことも興味深いです。

ドイツ国内で化学品の流通サービスを展開し、70,000名の従業員を持つBrenntag SE社は、サービスエクセレンスのプログラムを確立し、サービスエクセレンスに責任を負うマネジャー、グローバルマネージャーそして地域マネジャーも持っています。彼らは、基本的な品質に焦点を当てるだけでなく、次に目指すべきレベルとして、顧客の感情的な側面、つまりカスタマーデライトに焦点を当てることがどれだけ重要であるかを認識しており、このことを従業員へ説明するために社内研修でこの規格を使用しています。彼らは、ISO規格の定義から少し修正を入れて利用していますが、このISO/TC 312の大きな成功は、このような世界の多種多様な組織が利用できる基本的なモデルを用意したことだと考えております。

更に私たちは、優れたサービスのデザインに関する2番目の成功した規格、ISO/TS 24082(サービスエクセレンス―卓越した顧客体験を実現するためのエクセレントサービスの設計※3)も発行しています。この規格は、サービスデザインに興味がある企業にとって、優れたサービスをデザインする方法をどのように達成するかに役立つものです。

3番目は、サービスエクセレンスのパフォーマンスを測定するための規格、ISO/TS 23686:2022(サービスエクセレンス―サービスエクセレンスパフォーマンスの測定※4)があります。これは科学的な観点からも非常に重要なことで、この規格では、サービスエクセレンスやサービスエクセレンスのパフォーマンスを測定するために、どのような方法論でどのような指標を用いることができるのかを具体的に説明しています。

ドイツの企業は、どのようにサービスエクセレンスを導入されているのでしょうか。

Brenntag SE社では、先程、述べた通り、サービスエクセレンスの導入のため、ISO 23592を使用しています。彼らは、この規格をベースにカスタマーデライト※5を理解し、自社独自のサービスエクセレンスプログラムを作り上げました。彼らのプログラムの導入において重要なポイントは、従業員と経営陣の資質向上だったといえます。

サービスエクセレンスの実装に成功するための前提条件は、トップマネジメントや役員会がサービスエクセレンスを導入することに納得することです。そして組織が将来、最高のサービスプロバイダーになるための明確なビジョンを定義することが非常に有効であり、そのため高いモチベーションを持った経営陣が必要でした。

また全ての従業員がこのコンセプトの基本的な理解し、普段の自身の仕事、行動を見つめ直さなければなりません。つまり、彼らは平均的な顧客対応や苦情処理に満足することなく、どのようにすれば、組織内で優れた顧客対応やクレーム対応をさらに作り出すことができるのか、こういったことを常にチームの中で議論しています。

※1 エクセレントサービスとは、“カスタマーデライト”につながる卓越した顧客体験を達成するために、組織と顧客との間で実行される高いレベルのサービス提供を意味する。
※2 英文タイトル,Service excellence — Principles and model
※3 英文名,“Service excellence -- Designing excellent service to achieve outstanding customer experiences”
※4 英文名,“Service excellence — Measuring service excellence performance”
※5 (提供されたサービスが)期待を超えているというような顧客が体験するポジティブな感情

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マティアス ゴッチェ
ISO/TC 312(サービスエクセレンス)議長


コブレンツ・ランダウ大学教授及び経営研究所所長。
研究テーマは、顧客の経験管理、サービスのデジタル化、顧客と従業員の感情、サービスエクセレンスなど、サービスエクセレンスセンター(CSE)のディレクターも務める。