欧州エコデザイン規則の公布及び国際標準化の動き
2024/08/06
1.欧州エコデザイン規則の公布
持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)は、2024年7月18日に公布された。ESPRはEU 市場に投入される製品の循環性、エネルギー性能、その他の環境持続可能性に関する政策を大幅に改善することを目指しており、その規則は、EU 内外で生産されたかに関わらず、EU 市場に投入されるすべての製品に適用される。ESPR には、デジタルプロダクトパスポートなどいくつかの新しい措置が含まれており、それらの概況とDPPの導入が欧州の施策にどのように影響を与えるか、また、国際標準との関係について、解説する。
2.デジタルプロダクトパスポート
ESPR は、製品、部品、材料のデジタル ID カードであるデジタルプロダクトパスポート (DPP) を導入する。これは、製品の持続可能性をサポートし、法令遵守を強化するための関連情報を開示することを目的としている。 この情報は電子的にアクセス可能となることを目的としており、消費者、製造業者、当局が持続可能性、循環性、規制遵守に関して情報に基づいた決定を下すことを可能にする。例えば、税関・貿易当局は輸入製品のDPPの存在と真正性を自動的にチェックできるようになる。
データの透明性、アクセス性に重きが置かれており、DPPの導入に向けて、必要な識別子とデータキャリアに関する規則の採択、DPP情報へのアクセス権に関する作業、DPPレジストリとウェブポータルの設立など、の作業が進んでいる。DPP情報には、製品情報の義務の内容、耐久性、信頼性、エネルギー効率性、リサイクル可能性、原材料におけるリサイクル物質の利用の有無、CFP などが含まれる。
3.DPPとデータに関する規定
(1)データ連携:DPPは、データ連携の手段であるため、データキャリア、データフォーマットの枠組みが重要となる。open standard(ベンダー中立な立場で作られた標準規格)に基づくこと(ESPR9条1項)と規定されており、DPPはバッテリーパスポート(BP)とinteroperableであるべきと規定されている(ISO11354、相互運用性のフレームワーク)。BPの規定を見ると、データキャリアはISO/IEC15459-1:2014(データキャリア識別)、ISO/IEC15459‐2:2015(情報技術-自動識別及びデータ収集技術登録手続き)、ISO/IEC18004:2015(QRコード)及びDirective (EU) 2019/882(製品およびサービスのアクセシビリティ要件)に準拠する必要がある。
(2)カーボンフットプリント(CFP):欧州バッテリー規則案(2020Annex)における計算ルールは、最新のPEF, PEFCRs(欧州委員会が策定した環境フットプリント勧告)と整合的であって、LCAにおける国際協定及び技術進歩を反映するものでなければならない、と規定されている。ライフサイクルのCFPは,バッテリーモデルを製造するプラントの、材料、エネルギー、補助材に関する文書を踏まえるべきであるとされている。すなわち、CFPに関するISO(ISO14067など)が参照されているわけではなく、欧州が策定したPEFとの整合性をうたいつつ、国際協定の反映という規定となっている。
4.DPP導入が今後の政策に与える影響
(1)貿易措置に与える影響:ESPRは、製品のライフサイクル全体にわたる全体的な炭素フットプリントと環境フットプリントを削減し、持続可能な製品の域内市場における移動を確保する(ESPR第1条)とされ、開示すべき項目第1条(h)にカーボンと環境のフットプリントと記載される。ESPRは、EU 内外で生産されたかに関わらず、EU 市場に投入されるすべての製品に適用されるため、欧州市場に流入する製品、部品、中間製品を問わず、ESPRに準拠していることを求められる。このような規制により、将来輸入品に対する措置に影響する可能性がある。
(2)データ連携の影響:すでに、パイロット事業として、CIRPASSが発足(バッテリー、エレクトロニクス、繊維製品)、Gaia-X(既存のクラウドサービスを相互接続させるためのインフラ), Catena-X(自動車関連)などの関連事業が行われている。こうしたデータプラットフォームがESPRのデファクトとして機能することが予想される。
5.売れ残り製品の措置
ESPRには、DPP以外にもいくつかの措置が含まれている。その一つが、売れ残り製品に関する措置である。ESPR は EU で初めて、売れ残った繊維製品や履物の破棄を禁止し、必要であると示された場合には他の分野でも同様の禁止措置を導入することをうたっている。この規定は、あらゆる製品分野の大企業、中規模企業に、廃棄する製品の数や重量、廃棄理由などの年間情報を開示することを義務付ける。
6.今後の予定
(1)ESPR作業計画(評価対象となる製品と措置のリスト):ESPR の条文では、2025 年前半に最初の ESPR 作業計画を採択し、公表することが義務付けられている。
(2)エコデザイン要件の開発での利害関係者との協議:繊維や鉄鋼などの特定の製品に関する準備作業はすでに開始されており、その他の優先製品や潜在的な横断的対策に関する作業は、最初の作業計画の採択後に開始される予定。
(3)デジタル製品パスポート(DPP)の導入に向けた準備:必要な識別子とデータキャリアに関する規則の採択、DPP情報へのアクセス権に関する作業、DPPレジストリとウェブポータルの設立などが進められる。
JSAグローバルリサーチセンター フェロー
堀 史郎