解説:ISOマネジメントシステム規格の追補改訂(amendment)~気候変動への配慮
2023/11/27
ISOは,2023年9月,全てのマネジメントシステム規格(以下,MSS)に「気候変動への配慮」を盛り込む形で追補改訂することを決定した。
ISOでは,ISO 9001(品質マネジメントシステム)を皮切りに環境,労働安全,情報セキュリティなど様々な分野でMSSが開発されるようになった。その結果,多くの組織が,複数のMSSに沿ったマネジメントシステムを構築・運用するようになった。そこで開発されたのが
ISO/IEC専門業務用指針第1部附属書SL Appendix2「MSSのための調和させる構造(harmonized structure)及び利用の手引き」
である。各MSSの用語や定義,箇条などを共通化することによって,MSS間の整合性を高め,複数のMSSに対応する組織の利便性を高めたのである。全てのMSSは,同Appendixに規定される共通テキストに従って策定されることになっている。
今回の追補改訂は,この共通テキストに「気候変動への配慮」を盛り込むことを目的に行われる。
具体的には,4.1項「組織及びその状況の理解」に「組織は,気候変動が関連する課題かどうかを決定しなければならない。」,4.2項「利害関係者のニーズ及び期待の理解」に「注記:関連する利害関係者は,気候変動に関する要求事項をもつ可能性がある。」という記述が追加される。
この決定が行われた背景には,ISOの気候変動に対する取組みがある。ISOは,2021年のロンドン総会で
「ロンドン宣言」
を行い,気候変動に組織を挙げて取り組んでいくことを宣言。それ以来,精力的に気候変動対応に関わる活動を展開しており、今回のMSSへの「気候変動への配慮」の盛り込みとなった。
ISOは,エネルギー,運輸,建設などの分野で気候対策に影響が大きい規格を特定し,それらの改訂の検討も行っているが,それに加え,必ずしも直接気候変動対策に影響するとは言えないMSSの追補改訂を企図したのは,世界中の組織で活用されているMSSの影響力の大きさを考慮した結果と考えられる。
ISOで最も有名で広く利用されている規格は,ISO 9001であり,ISO 14001(環境マネジメントシステム),ISO/IEC 27001(情報セキュリティマネジメントシステム),ISO 45001(労働安全衛生マネジメントシステム)などとともにマネジメントシステム認証が世界中に普及していることを考えると,MSSに「気候変動への配慮」を盛り込むことの効果は大きいと言えるだろう。
今回の追補の対象となるMSSは全部で32件あり,追補発行は2024年1月になる見込みである。またユーザーへの影響を考え,ISOは
IAF (International Accreditation Forum:国際認定フォーラム)
と共同コミュニケを発行する予定である。
以下は筆者の個人的な所感であるが、今回の追補でISOは虎の子とも言えるMSSの価値を損ないかねない危険な一歩を進めてしまったのではないだろうか。MSSのコンセプトは,あらゆる組織が自身の意図や能力に応じて継続的な改善と効果的なマネジメントを実現するための枠組みを示すことであり,組織が自ら考え実践することを促すもののはずである。4.1項では組織に関連する内外の課題を決定することを求めており,「気候変動」が関連する課題であるかどうかを決定するのは,組織の判断であり,責任である。そして組織の判断が適切であるかどうかを診るのがマネジメントシステム認証の役割である。「気候変動」は,世界的な喫緊の課題であり,組織はそれが自組織にとって「課題」となるか否かを,言われなくても(規格に書いてなくても)考えなければならないのである。ISOはこの先,気候変動に加え,例えばジェンダー平等や生物多様性など,様々な事項を追加していこうとするのかいささか心配になるが,組織の自律的な成長を促していくのがMSSの価値であることを再認識すべきではないかと思うのである。
[一般財団法人日本規格協会 システム系・国際規格開発ユニット]