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組織のジェンダー平等と女性のエンパワーメントを推進・実施するガイドラインISO 53800発行

2024/06/14

ISO(国際標準化機構)は、2024年5月15日にISO 53800「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの推進と実施のためのガイドライン」を発行しました。

ISO 53800:2024

ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの推進と実施のためのガイドライン
Guidelines for the promotion and implementation of gender equality and women’s empowerment

2030年を達成期限とする持続可能な開発目標(SDGs)の中核に位置づけられている「ジェンダー平等」ですが、何からはじめればよいのか、どのような活動をすればよいのか、なかなかイメージしづらいものです。このガイドラインでは、あらゆる組織におけるジェンダー平等および女性のエンパワーメントへの取り組みの手法、及び具体的アクションや優良事例が紹介されています。
また、このガイドラインは、ジェンダー平等に関する他の取組みや基準を補完することを目指して作成されました。例えば、2010年3月に国連グローバル・コンパクトと国連婦人開発基金(UNIFEM、現UN Women)が共同で策定したWEPs(女性のエンパワーメント原則)、ISO 30415「ヒューマンリソースマネジメントー多様性と包括性(D&I)」などの活動を推進する際にも、大変参考となります。

この記事では、ISO53800が開発された経緯や規格の狙いを分かりやすく解説します。

■ガイドライン開発の背景

ジェンダー平等の実現は、女性だけの問題ではなく、すべての人や組織が関心を寄せるべき問題です。ジェンダー平等の実現は、人権問題であると同時に、持続可能な人間中心の開発の前提条件であり、その指標でもあります。これまでに大きな進歩が見られたにもかかわらず、男女間の不平等や女性や少女に対する差別は、あらゆる生活場面やあらゆる国で依然として広く存在しています。

この問題に対応するため、ISOでは50人以上の専門家から構成される新しいプロジェクト委員会ISO/PC 337「ジェンダー平等の推進と実施のためのガイドライン」を立ち上げ、全ての公的・民間組織を対象に、組織の内外において、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの推進および達成に向けた持続的な進歩を遂げられるよう、各組織の運営・活動の推進を奨励し、支援し、指導するためのガイドライン開発を開始しました。具体的なガイドライン、定義、手順、ツール(フレームワーク、リソース、ポリシー、手法、優良事例を含む)を提供することを目指し、4年弱の活動を経てISO 53800を完成させました。

■誰のためのガイドライン?

ISO 53800は、あらゆる公的・民間組織が利用できます。中小企業から大企業、国や地域、地方自治体などの政府機関、その他あらゆる組織が対象となります。
世界経済フォーラムが公表している、世界各国の男女格差を数値で表した「ジェンダーギャップ指数」において、2024年のランキングで日本は146カ国中118位です。「経済」、「教育」、「健康」、「政治」の4分野での評価で、「教育」、「健康」の値は世界トップクラスであるものの、「経済」は120位、「政治」は113位に留まり、日本の企業・組織にとっても看過できないテーマです。
折しも、政府は男女の賃金格差の解消に向けて、関係省庁による作業チームでの検討を開始しています。このガイドラインは組織のジェンダー平等に関する成熟度に関わらず、組織が業務や活動においてジェンダー平等を継続的に推進するよう奨励し、組織が常に新たな課題や目標を設定することを支援するものです。

■ISO 53800を活用することのメリットは?

ジェンダー平等を活動に取り入れ、社内外で広報することは、その組織が、より良い成果をもたらすためのきっかけや情報源として捉えることができます。 そのような組織は、次のようなことが可能となります。

  • 企業の社会的責任の重要な要素である経済・社会の発展に貢献し、サステナビリティレポートでその活動を強調できます。
  • 従業員の離職率を低減し、質の高い採用を実現し、より強固で生産性が高く革新的な職場環境を作り出し、効果的なコラボレーションを促進し、最終的には業績を向上させ、より正確な成果を達成できます。
  • 公平なリーダーシップにより意思決定が改善され、営利組織にとっては、顧客基盤の拡大、新規市場の開拓、維持コストの削減などにより収益性が向上します。
  • ■ガイドラインのポイント

    このガイドラインでは、4項で組織におけるジェンダー平等及び女性のエンパワーメントへの取り組み方に関して、取り組むべき以下の4つの領域を挙げ、推進活動の際に考慮すべき点や進め方のガイドライン・手法を提供しています。

    • 組織内部:ガバナンス、労働慣行、内部ステークホルダーの意識向上、内部ステークホルダーに対する支援

    • 組織の活動および投資:持続可能な調達とジェンダー予算
    • 組織の対外関係:ステークホルダーへの働きかけとパートナーシップの構築組織
    • 内外とのコミュニケーション:エディトリアル・コンテンツおよびコミュニケーション活動

    • また、5項においては、上記4項の4つの領域についてそれぞれ具体的な説明を加え、それに関連する行動や期待されることを、合計115個も具体的に挙げています。もちろん、これはすべてを実施しなければならないということではなく、組織の状況に応じて対応できるものを採用していくことで問題ありません。
      そして附属書Cでは、さまざまな国や組織の優良事例および参照例を提供しています。

      ■ガイドラインの記載例① 5.1.2.2(労働慣行)関連の行動および期待されること

      組織は、以下を行うべきである。

      • 育児・出産・配偶者出産休暇およびその他の介護休暇を考慮したキャリアプランを実施し、職場復帰を支援する。ジェンダーに基づく給与格差の有無を定期的に分析し、必要に応じて是正措置を講じる。
      • 恣意的または差別的な解雇慣行を無くす。
      • 女性が責任ある地位に就くことを奨励し、平等なキャリアアップを保証するために、経営陣向けの意識向上プログラムを実施する。
      • (等、合計21件の例示あり)

        ■ガイドラインの記載例② 附属書C

        規格開発に参加している専門家(フランス、スペイン、ドイツ、アメリカ、日本等)から34件の事例を集め、簡潔に紹介しています。
        トピックは、「C.2 平等の推進への男性や男児参画」、「C.12 トイレ」、「C.21 マルチステークホルダーアプローチによる地方都市でのジェンダー平等の推進」「C.23 セクハラ及び性差別禁止についての組織方針を施行する」、「C.30 サプライヤーのジェンダー・インクルーシブなプログラム」「C.33 ラウンドテーブル、会議、カンファレンス、ディベートへの参加者のジェンダー・パリティ」等、様々です。

        [システム系・国際規格開発ユニット]