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RFIDの標準コードを規定するJIS X 0560が発行されました。従来の標準コードの規定JIS Z 0664から0667の規格が置き換わります。

RFIDの標準コードを規定するJIS X 0560が発行されました。従来の標準コードの規定JIS Z 0664から0667の規格が置き換わります。

2025/12/17

JIS X 0560
自動認識及びデータ取得技術-RFIDのサプライチェーンへの適用-
製品タグ付け,製品包装,輸送単位,リターナブル輸送器材及びリターナブル包装器材

 UHF帯RFIDの基本的な符号化方式を規定する国際規格、ISO/IEC 17360を日本産業規格化したものがJIS X 0560となります。これまでこの符号化方式を規定していたJIS Z 0664から0667の規格が廃止となり、それに代わる規格として制定いたしました。UHF帯RFIDは、図01に示すように物流容器等へ識別子(ID)としてRFタグを貼付し、リーダーライター(読取り/書込み装置)により遠隔から情報の読取りを行いアイテムの識別、管理を行うことが出来ます。

図01 通い函へ貼付したRFタグとハンディ式リーダーライター
図01 通い函へ貼付したRFタグとハンディ式リーダーライター

記号説明

01 RFタグ(ISOタグANSI MH10.8.2 DI方式)

02 RFタグ(EPCタグ GS1 EPCビットストリーム方式)

03 通い函

04 ハンディ式リーダーライター

■使用していますか? RFIDの標準コード

 RFIDによるアイテム管理は、製造業への導入、アパレル業界への普及をはじめ多くの産業、ユーザー、場面へ浸透してきています。UHF帯のRFIDは、バッテリーレスのID(RFタグ)であっても数メートル以上の交信距離性能があること、交信可能範囲内の全てのRFタグ情報を高速取得できることなどの特長で採用されています。この特長を使用する為には、RFタグの情報は一意であると共に識別が可能な符号化方式であることが必須となります。RFIDの標準コードは一意のコードとなる様に規定されており、異なるユーザーのRFタグであっても情報が重複することは無く、また、管理するユーザーやアイテムの種類を識別することが可能となっています。

図02 さまざまアイテムの管理にRFタグが普及
図02 さまざまアイテムの管理にRFタグが普及

記号説明

01 資材在庫管理

02 自社パレット管理

03 自社かご台車管理

04 作業着管理(ランドリータグ)

05 出荷製品管理

06 納品資材(包装単位)管理

07 納品資材(輸送単位)管理

08 部品在庫管理

09 レンタルパレット管理

10 顧客(納品先)パレット管理

11 物流子会社設備(コンベア)管理

12 自社設備(ネットワーク機器)管理

13 自社 PC 管理

14 衣類販売管理(アパレルタグ)

15 フォークリフトリース管理

16 リトレットタイヤ管理

17 物流会社台車管理

18 宅配便管理

19 物流会社パレット管理

20 物流会社車両管理

 しかし、予てより標準コードを使用すべきであるとされてきましたが、導入はあまり進んでいません。これまで(RFIDの普及が進む以前)は、他社のRFタグが交信範囲に混在することは殆ど無く、ユーザー各社が自社オリジナルルールのコードでも運用可能でした。しかし、図02の例に示すように、さまざまなアイテムが管理される状況となり、交信可能範囲内に異なるユーザーのRFタグが混在するシーンが増えてきています。図02の例では自社に加えて、出荷・納品先や物流、レンタル会社など5社以上のユーザーが管理するRFタグが混在しています。

 他社のRFタグを自社のリーダーライターへ近づけなければ問題無い場合もありますが、他社RFタグの仕様上の交信距離性能以上に距離を空けたとしても、電波の反射など周辺環境の状況に因って応答してしまう場合があります。図03にその例の一つを挙げていますが、床置きした樹脂パレットへ貼付したRFタグの安定交信可能距離が5mだったものが、パレットをフォークリフトで1m持ち上げると20m先からでも応答してしまう場合が有りました。これはリーダーライターからの送信波が床などで反射してRFタグへ到達し、エネルギーが増幅されたものと考えられます。最近のラベルタイプの汎用RFタグの性能は5m程度です。そのRFタグが条件により20m先で反応してしまうとすると、他社RFタグを応答させない為のリーダーライター周りの隔離領域が広大となり、確実に他社RFタグと交信しない環境の実現は難しいと考えられています。

図03 樹脂パレット貼付のRFタグ交信可能距離の例
図03 樹脂パレット貼付のRFタグ交信可能距離の例

記号説明

01 安定交信(読取り)可能距離

02 最大交信(読取り)可能距離

 標準コードを使用すれば、自社で管理すべきRFタグの識別が可能となるばかりか、RFIDのエアーインターフェースの機能を用いることで自社RFタグのみを応答させることも可能となるので、搬送中のアイテムをゲートで自動読み取りする場合などに、他社RFタグの混在による交信時間遅延を考慮せず運用することも可能となります。

 独自コードのRFタグは、他社RFタグとの識別が出来なくなりシステム障害を発生するリスクを生じます。それは、自社システムばかりでは無く、隣の店舗や会社、そして、アイテムの納品元や得意先など、他社システムでもシステム障害を引き起こす可能性があります。

 システム障害を防止する為に、このJIS X 0560に従い標準コードの使用をお願いします。

■JIS X 0560 がRFIDの標準コードの基本規定です

 JIS X 0560は「RFIDのサプライチェーンへの適用規格」として、物品の供給から消費、廃棄、さらには再利用までを対象としたRFID管理の概念を定義し、その識別子を規定しています。識別子の符号化方式には、SGTINなどのGS1アプリケーション識別子(AI)を用いるEPC方式と、ANSI MH 10.8.2 のデータ識別子(DI)を用いるISO方式と呼ばれる符号化が主な規定となります。EPC方式、ISO方式で情報が符号化されたRFタグを、それぞれEPCタグ、ISOタグと呼ばれます。図04へサプライチェーンへの適用概念図を示しています(図の詳細はJIS X 0560を参照ください)。

図04 RFIDのサプライチェーンへの適用概念-包装のレベル
図04 RFIDのサプライチェーンへの適用概念-包装のレベル

 この規格はあらゆるアイテムを対象としているので、航空コンテナや書籍など、専用に符号化方式を規定しているアイテム以外のRFIDの標準コードはJIS X 0560となります。。

■RFIDのサプライチェーンへの適用規格の制定経緯

 RFIDのサプライチェーンへの適用規格は、貨物コンテナ、リターナブル輸送器材及びリターナブル包装器材、輸送単位,製品包装、製品の各階層に対応した国際規格(ISO 17363から17367)が2007年から2009年に開発され2013年に改訂が行われています。そして2015年から2017年に、対応するJIS Z 0663から0667が制定されました。

 その後、日本の産業界の需要に応える為、ISO方式へ8ビット符号化方式を加える事を主な目的としたISO/IEC 17360が日本主導で2023年に開発されました。この規格は、従来のISO 17364から17367を統合する規格となります。そのISO/IEC 17360を日本産業規格化し2025年11月に発行された規格がJIS X 0560となります(図05参照)。

図05 サプライチェーンの階層規格の統合
図05 サプライチェーンの階層規格の統合

■JIS X 0560 が規定する符号化方式

 JIS X 0560が規定するRFIDの標準コードは、表01の五つの符号化方式となっています。この内、アイテムを識別する主な符号化方式は、EPC方式とされる「GS1 EPCビットストリーム符号化」方式と、ISO方式とされる「JIS X 0531及びANSI MH10.8.2 DI:6ビットUII符号化」方式並びに「同:UTF-8 8ビット符号化」方式となります。

表01 規定する符号化方式
表01 規定する符号化方式

 各符号化方式の識別は、規格トグルTとされる付番システム識別用トグルによって、EPC方式のRFタグ(EPCタグ)か、ISO方式のRFタグ(ISOタグ)かを区別することが可能となり、EPCタグは、PCビットに続く8ビットのEPC Header値でGS1識別コードが判別でき、ISOタグは、規格トグルTに続く8ビットのAFI値でISOの符号化方式を判別することが可能となっています(図06参照)。

図06 EPCタグ/ISOタグの識別
図06 EPCタグ/ISOタグの識別

 規格トグルTやEPC Header、AFI値のアドレスは、表02の通りとなっています(詳細はJIS X 0560及びGS1 EPC Tag Data Standardを参照ください)。

表02 UIIメモリ(EPCメモリ)アドレスマップ
表02 UIIメモリ(EPCメモリ)アドレスマップ

■従来規格 JIS Z 066x 規格群からの変更点

 この規格では、従来のISO方式の「JIS X 0531及びANSI MH10.8.2 DI」符号化方式に於いて、次の二つの点が主な変更点となっています。

― ANSI MH10.8.2 DI方式でUIIへ文字コードUTF-8も使用可能となりました。
― ANSI MH10.8.2 DI方式でUIIへ複数DIも使用可能となりました。

 これまで、ISO方式のANSI MH 10.8.2 DI符号化方式でRFタグへ識別子を書き込む為には、専用6ビットコードを用いて符号化しなければなりませんでしたが、この規格で、汎用UTF-8符号化(8ビット単位でキャラクタを符号化する方式)も使用可能となりました。更に、RFタグ取付け対象を識別する識別子以外の付加情報は、これまでアクセスに時間が掛かるUSERメモリバンク(MB11)へ符号化する必要がありましたが、この規格で、アクセスが速いUII(EPC)メモリバンク(MB01)へアイテムの識別子に追加して符号化することが可能となりました。

図07  JIS X 0531及びANSI MH10.8.2 DI:UTF-8 8ビットUII符号化方式の例
図07  JIS X 0531及びANSI MH10.8.2 DI:UTF-8 8ビットUII符号化方式の例

記号説明

01 AFI : 0xACは符号化方式を指定

02 DI:“25B”はリターナブル物流器材

03 IAC:UN発番機関はDun & Bradstreet

04 CIN:発番機関が管理する企業コード

05 SN:シリアルナンバー

06 DI:5Dは日付

07 ISOフォーマット YYMMDD

08 ANSI X12.3 374 日付、405生産

■ JIS X 0560制定で期待されること

 この規格の制定によってISO方式のRFIDの汎用性が高まり、また、活用方法が拡張されるため、EPC方式で用いる企業コードを持たないB to BのサプライヤーなどへRFID管理の導入が促進されることが期待されます。RFIDの特長を活かした業務の効率化、管理コストの削減による国際競争力の強化や、サプライチェーン管理の精度向上に因る更なる安心・安全な社会の実現は勿論のこと、製造業の製品や物流容器へ広く普及することで、RFID黎明期より期待されている、世界関税機構(WCO)の効率化手段としての導入や、パブリックゲート実現へまた一歩近づくと筆者は考えています。

 パブリックゲートで読み取られたアイテム情報が、その拠点情報とタイムスタンプと共にインターネット上に公開されれば、誰でも簡単にRTLS(リアルタイムロケーションシステム)が構築でき、アイテムの追跡、サプライチェーンの保証など、その用途が一挙に拡大することが予想されます。その時代となって初めてRFIDの本当の真価が発揮されるのです。

■ 規格購入ページ

JIS X 0560:2025
自動認識及びデータ取得技術-RFIDのサプライチェーンへの適用-製品タグ付け,製品包装,輸送単位,リターナブル輸送器材及びリターナブル包装器材



執筆者
清水 博長
一般社団法人日本自動認識システム協会JAISA
 RFID部会 アプリケーション技術グループ 副グループ長
 JIS X 0560 原案作成分科会 主査
ISO/TC 122/WG 12 Committee member
ISO/TC 31/WG 10 Committee member
東洋製罐グループホールディングス株式会社