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【SQ誌掲載記事特別公開!】第2回JAQシンポジウム「AI時代における『Qの確保,Qの展開,Qの創造』」 開催レポート(2025年冬号)

【SQ誌掲載記事特別公開!】第2回JAQシンポジウム「AI時代における『Qの確保,Qの展開,Qの創造』」 開催レポート(2025年冬号)

2025/12/12

 日本規格協会が発刊している季刊誌Webジャーナル『標準化と品質管理(SQ誌)』の2025年冬号に掲載いたしました第2回JAQシンポジウム「AI時代における『Qの確保,Qの展開,Qの創造』 」開催レポートを特別公開いたします!

第2回JAQ シンポジウム
「AI時代における『Qの確保,Qの展開,Qの創造』」開催レポート

 2025 年7 月31 日, 積水化学工業本社とオンラインのハイブリッド形式で,第2 回JAQ シンポジウムが開催された。JAQ(日本クオリティ協議会)は,日本品質管理学会,日本科学技術連盟,日本規格協会グループ,日本能率協会,品質工学会の品質関連5 団体によって設立された協議会で,会員が相互に交流・協力することによって,産業競争力向上のために,ジャパンクオリティのブランド価値を揺るぎないものとすることに貢献する活動を行っている。

 本シンポジウムでは,昨今AI 利活用の遅れが,日本の国際的な産業競争力の低下を招くと指摘される中で,AI の利活用に対する懸念を払拭し切れていないことや,イノベーションを十分に起こせていないという問題意識のもとに,日本の国際競争力向上を目指すに際してのAI への向き合い方に関して議論することを目的として開催された。

 シンポジウムは,日本クオリティ協議会代表幹事 飯塚裕保氏による開催挨拶・参加団体トップメッセージの代読に始まり,経済産業省大臣官房審議官(イノベーション・環境局担当)今村亘氏による来賓挨拶,日本クオリティ協議会会長・日本品質管理学会会長 山田秀氏によるシンポジウム開催の趣旨説明,大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設 椿広計氏による基調講演(社会価値確保のための品質マネジメント~人工知能時代だからこそ実現すべき経営者・専門家,そして人々の役割~,東京大学人文社会系研究科教授 唐沢かおり氏による特別講演(科学技術ELSI の基礎と展開),企業3 社による各社の活用事例,様々な分野の専門家である講演者・出演者総勢8 名によるパネルディスカッションの構成で行われた。

 誌面の関係上,すべての講演内容を採り上げることができないため,パネルディスカッションの一部を紹介する。なお,当日の各講演資料は,JAQ ホームページで公開されている。

JAQ(日本クオリティ協議会)ロゴ JAQ(日本クオリティ協議会)参加団体ロゴ
シンポジウム情報

第 2 回 JAQ シンポジウム

パネルディスカッション

  • 招待討論者

    慶應義塾大学(人工知能学会長) 栗原 聡 氏

    公益社団法人日本監査役協会 横野 能将 氏

  • 討論者

    大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 椿 広計 氏

    東京大学 唐沢 かおり 氏

    株式会社メルカリ 井上 眞梨 氏

    株式会社デンソー 桑島 洋 氏

    慶應義塾大学(日本クオリティ協議会会長) 山田 秀 氏

  • 座長

    株式会社リコー(日本品質管理学会副会長) 廣野 元久 氏

  • 論点

    AIの急速な発展の中でAIの光と陰にどのように向き合い、企業価値を高めるのか(AI時代のQの創造)

廣野:
 「Q の創造」に関して,AI が「モノ・コト」に加えて,利用者の「ココロ」の問題に配慮すべきです。利用者は被害者にもなり得ますが,気づかない間に加害者になってしまうことがあります。そういった方々に対しての心の問題も考え,ケアしていかなければなりません。一方で,AI は正しい働きをしたとしても,必ずしも安全であるとは限らないという難しさがあります。こういったものを使いこなしながら,新たな価値を作っていかなければなりません。日本としては評価技術などに特に強みがあるので,こういったところの中から発信していくのが非常に大事だと考えています。
栗原:
 最近,教育機関などからAI 教育の問い合わせが増えていますが,国によって対応は様々です。オーストラリアのように16 歳未満はSNS利用禁止という法律すら出てきている国もあります。その国によって対応はかなり違うのですが,それぞれが正しいことをやっているのでしょう。私が思うに,AI の話題で思考力が問題となるのは,生成AI の勢いが増し,人々が使い始めたことで,不安になってきている面があるのかと思います。人間が電卓や車を使うことで能力が低下してきたように,文章を書く人のその思考の本分にまで,AI という技術が手を出してきたことで,人間のやることがないという不安が生じています。
 人間は所詮楽をしたい生き物ですが,我々のようにネットもスマホもなかった時代に育ち,自分で考えるしかなかった世代はラッキーでした。しかし,今の子供たちがAI を使うと,大人に隠れて簡単に答えを検索し,考える力が落ちるのは当たり前です。簡単な文章が頭に入ってこない学生が増えている現状を見ると,ELSI (倫理的・法的・社会的課題)以前に,社会がどうなるのかという危機感があります。
 AI を利活用しようと言う前に,AI の光と陰をしっかり認識しないといけない状況に直面しています。私としては総じてネガティブな見方をしていて,特に若年層においてAI 依存による思考力の低下が顕在化し始めているように思います。だからこそ,どういうAI を作っていかなければいけないのかを,我々自身が考える必要があるのだと思います。
第2回JAQシンポジウム パネルディスカッションの様子①
第2回JAQシンポジウム パネルディスカッションの様子② 第2回JAQシンポジウム パネルディスカッションの様子③
椿:
 AI をツールとして使うことは当然進みます。我々がAI に性格や価値観を与えれば,消費者側,生産者側の意見を持つパートナーとなります。むしろ,私とほぼ同じ意見を表明できるAI を,今の技術なら5 年以内に作れると見ています。
 だからこそ,倫理が極めて重要です。この倫理は人間が守るべきものですが,AI もほぼ人格者だとしたら,守らせなければなりません。これが国によって異なると,未来は複雑になります。これは異様な世界ですが,確実に起きることです。
 今の小中学校の知識教育では,先生がいますが,AI のある今の世の中では,魅力的な人間は魅力的なことをすべきだと考えています。
廣野:
 それでは事例として桑島さんにお願いしたいのですが,例えばAI 運転のリスク評価にELSIの観点がどのように組み込まれるべきか,ご意見を伺いたいです。
桑島:
 私どもデンソーは部品メーカーなので,車両全体への効果まで踏み込むのは難しいのですが,自動運転に使われるAI についてお話しすると,自動運転ではニューラルネットワークなどのAI が画像認識を行い,その外側のシステムが車両の動きを制御します。この車両レベルの評価において,AI の認識が最終的に車としての動きとして適切であったか,例えば急ブレーキ時に追突しないか,といった点が重要になります。
 このチェックのために,自動運転分野では既にRSS モデルという責任モデルのような枠組みがあり,AI が自分の責任をしっかり果たした動きをしているかが確認されます。この責任の枠組みがELSI に関係してくると考えています。
 AI そのものに対してELSI というのはなかなか語りにくいと思いますが,それがシステムに組み込まれ,ユーザーに使われるという段階までいけば,ELSI は語れるようになるのではないかと思います。
廣野:
 先に頂いていた質問として,「メルカリはR4D ラボを持ち,産学官で連携しながら活動をされていますが,デンソーやリコーはどのようにされているのですか?」というものがあります。
 リコーも社外の先生方に指導していただき,いろいろと知恵をお借りしています。自分たちだけでできるわけではないので,学術の先生方や専門家の方々に入っていただくというのは,推進のうえで非常に有効なのではないかと思っています。桑島さん,いかがでしょうか。
桑島:
 デンソーでも自分たちでできる範囲で,AI 関連のISO 規格や法律,ガイドラインのレベルに至るものまで,おそらく数百件ほどは調べており,それを基にデンソー社内でルールを作ることをしています。先ほどの発表でもありましたが,我々だけで作り上げるのは危ないので,品質管理学会で一緒にやらせていただいたり,欧州AI 法に関しては現地の法律事務所と連携するなどしています。

(中略)

山田:
 日本クオリティ協議会の狙いというのは,相互に交流協力することによってジャパンクオリティのブランド価値を高めることです。これはやり方そのものが明確化されておらず,さらにその上位概念である価値が明確化されていないからだろうと思います。そうすると,お互いに意見を交換しながら「我々はこういうふうに考えるのがよい」ということを突き詰めることで,だんだん進化していくのではないかと思います。JAQ の狙いというのはまさにそのような場を提供することであり,本日のこの会が非常に盛況のうちに終わったのではないかと思います。今後もJAQ はこのような立ち位置で,答えのない話についていろいろと議論をしながら,社会全体が向上するようなところを目指していきたいと思います。ご参加いただいた皆様,ありがとうございました。


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