
インボリュートスプラインに関するISO規格の邦訳版発行!
2025/04/17
一般財団法人日本規格協会は、2025年3月17日にインボリュートスプラインに関するISO規格の英・日対訳版を発行いたしました。
【インボリュートスプラインって何?】
インボリュートスプラインとは、自動車や農業機械、船舶、工作機械などの動力を伝達するために採用されている機械要素(歯車など)を連結するために使用されるもので、キーなどに比べ大きなトルクを伝達できます。インボリュートスプラインは、インボリュート曲線の歯形(インボリュート歯形)を有する歯車を使用した動力伝達部品 (機械要素の1つ) のことです。
機械工学事典電子版では、インボリュート曲線について、下記の説明をしています。
“直線(創成線)が一つの固定された円(基礎円)上を滑りなく転がるときに,その直線上の一点が描く平面曲線.インボリュート曲線どうしの接触は,おのおのが属する基礎円の共通接線上でおこり,この基礎円の共通接線はインボリュート曲線の創成線に一致する.基礎円筒の軸に対してある傾斜角を持っている直線が円筒上を滑りなく(円筒のつる巻線に常に接しながら)転がるときにその直線の軌跡として描かれる面をインボリュートねじ面といい,すべての歯面の有効部分がインボリュートねじ面である歯車をインボリュート(円筒)歯車という.”
(出典:一般社団法人 日本機械学会 機械工学事典電子版 https://www.jsme.or.jp/jsme-medwiki/doku.php?id=16:1000722)


★もっと興味がある方はこちら!★
【インボリュートスプラインの用途】
インボリュートスプラインは、自動車や電動工具、産業用ロボットなどの様々な機械で使用されています。
自動車の場合、トランスミッションやディファレンシャルギヤに、それぞれの構成要素として複数のギヤが複雑に組み合わされていますが、これらのギヤの連結にもインボリュートスプラインが採用されています。また、電動工具では、モーターに直結したシャフトと、チャックを取り付ける部分にインボリュートスプラインが採用されています。シャフト側の外歯車とチャック側の内歯車の歯形をインボリュート曲線にすることで、双方の連結を強固にし、チャックをガタツキなく安定して連結させることができます。産業用ロボットは、電気信号を受けてアームを瞬時に様々な方向に動作させる必要があり、この動作には複数のギヤが複雑にかみ合い、スムースで正確な回転伝達と高い位置決め精度が要求されます。そのため産業用ロボットでは、アームの関節部分にインボリュートスプラインが採用されています。

【今回の邦訳(英・日対訳版)発行の背景】
従来、インボリュートスプラインの規格として、 JIS B 1603:1995インボリュートスプライン―歯面合わせ―一般事項、諸元及び検査 がありましたが、その後のインボリュートスプラインに関する技術の進展のため、この規格は使用されず、他の規格からの引用もされていない状況となったため、2023年に廃止されました。
その一方、2021年に発行された国際規格であるISO 4156-1~-3がインボリュートスプライン規格として、国際的に認知されていますが、これの日本語訳の必要であるとの要請が市場からあり、今回、この対訳を2025年3月17日に発行しました。
規格情報
ISO 4156-1:2021
インボリュートスプライン-歯面合わせ-第1部:一般事項
Straight cylindrical involute splines -- Metric module, side fit -- Part 1: Generalities
《英語》税込価格:38,307円 A4判・62ページ
《邦訳(英・日対訳版)》税込価格:68,948円 A4判・140ページ
ISO 4156-2:2021
インボリュートスプライン-歯面合わせ-第2部:寸法
Straight cylindrical involute splines -- Metric module, side fit -- Part 2: Dimensions
《英語》税込価格:42,542円 A4判・374ページ
《邦訳(英・日対訳版)》税込価格:76,571円 A4判・764ページ
ISO 4156-3:2021
インボリュートスプライン-歯面合わせ- 第3部:検査
Straight cylindrical involute splines -- Metric module, side fit -- Part 3: Inspection
《英語》税込価格:34,072円 A4判・47ページ
《邦訳(英・日対訳版)》税込価格:61,325円 A4判・110ページ
※規格類は価格が変更される場合がございます。ご了承ください。
【豆知識:インボリュートが生まれたのは・・・】
最初の歯車は、適当な凹凸歯形でその後、月桂樹の葉の形(圧力角14.5°説あり)を模して作られて、レーマー(Lehmer,1674)がエピサイクロイド歯形を論じてからサイクロイド曲線が使われました。しかし、サイクロイド曲線は、歯の大きさ(モジュール)と歯数に応じた工具が個々に必要となります。そこで、サイクロイド曲線の特異点としてころがり円が無限大(すなわちインボリュート)とすることで工具を共用することができることからインボリュート歯車が主流となっています。なお、インボリュート歯形を論じたのは、レオンハルト・オイラー(Leonhard Euler,1765)です。
関孝和の弟子である建部賢弘(1664~1739)は、円周率自乗の公式をオイラーより15年早い1722年に発見しています。和算は西洋数学より進んでいたので、日本で歯車のことをもっと真剣にやっていたら、和算家が、インボリュート歯形を発明していたかもしれません・・・(夢)。
※現在の圧力角は20°ですが、一昔前の圧力角は14.5°でした。この理由は上述した月桂樹の歯の形もありますが、sin14.5°=0.250と有効桁数が3桁あるため計算尺の時代では扱いやすい圧力角であったことも考えられます。
【インボリュートスプラインは主流?】
Q. インボリュートスプラインが誕生した以降は、機械に用いられるものとしてはインボリュートスプラインが主流なのか?インボリュートスプラインは、いくつか主流な曲線や歯車があるうちのひとつなのか?
A. 機素の連結としては、キー、角スプライン、セレーションがあります。キーは角キー、接線キー、半月キーがあります。
角スプラインの軸はフライスカッタで加工し、穴スプラインはスロッタ、ブローチなどで加工するのが一般的であるため高精度な加工は望めません。角セレーションでは負荷容量が劣ります。
インボリュートスプラインは負荷能力、生産性、そして寸法管理面から考えて最も安定した機械要素といえます。
(担当部門:産業系規格開発ユニット 土木・建築・機械系規格チーム)