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電子商取引の安心・安全な利用の促進 ~オンライン紛争解決サービスの提供に関する国際規格が発行~

電子商取引の安心・安全な利用の促進 ~オンライン紛争解決サービスの提供に関する国際規格が発行~

2025/04/16

電子商取引におけるオンライン紛争解決サービスの手引を提供する国際規格,ISO 32122(電子商取引における取引保証-オンライン紛争解決サービス提供の手引)が2025年3月に発行されました。(関連情報:経済産業省ウェブサイト)この国際規格の開発を主導した早川 吉尚氏(立教大学法学部教授)に本国際規格の開発経緯や意義についてコメントをいただきました。



ISO 32122の策定は,中国が議長国,中国・フランスが幹事国として2018年に設置されたISO/TC321 (Transactional Assurance in E-commerce) において,議論が始まりました。電子商取引に関する紛争の“予防・解決”が同TCの適用範囲内であったことから,2019年秋の第1回TC総会において,Online Dispute Resolution (ODR)に関する国際規格の開発を日本が提案し,開発に向けた検討が始まりました。

 初めは Study Group 2(将来の作業)において,ブレインストーミング的な検討が行われ,既に策定された文書で国際的にも使用されているものがあるのであれば,複数の標準が併存することで業界に与える混乱を避けるべく,そうした既存の標準を積極的にISO規格として採り入れていくという基本方針が定められました。

 その後,2022年秋には,新業務項目提案(New work item proposal)が承認され,ISO 32122のプロジェクト番号の下,Working Group 3(オンライン紛争解決)なる作業グループが設置され,各国の専門家との議論が始まりました。

 同作業グループにおいては,筆者がプロジェクトリーダーと作業グループ主査を務め,規格策定作業をリードしました。ドラフトを作成しては各国からの意見を聴取し,それら意見の採否を中心に議論した上でドラフトを修正する,そしてまた各国からの意見を聴取するといった過程が繰り返され,2022年冬から2024年秋まで7回のドラフト作成のための会合が開かれました。そしてその結果,2025年3月の正式発行にこぎつけることができました。

 ISO 32122のコアパートは,三つの章から構成されています。第一は Basic Principlesであり,ODRサービスを提供する事業者が守るべき九つの理念につき定めています。もっともこれは,ICODRなる業界団体が既に策定し業界でも尊重されていたものにつき,全面的にISO規格として採用したものになっています。

 第二は Technical recommendations であり,個人情報を扱わざるを得ないODR事業者に求められるべき技術的条件が定められています。これについては確立した業界標準のようなものはありませんでしたが,カナダのCivil Resolution Tribunal なる機関が備えていた同趣旨の標準が極めて優れたものであったため,これにかなりの部分依拠したものになりました。

 第三は Operational Manualsであり,ODRサービスを提供する際の手続規則にあたるものになります。こちらについては,APECがModel Procedural Rules on ODRなる標準規則を策定し,多数のODR事業者で既に利用されていることから,これに全面的に依拠したものになっています。

 かかるISO 32122に沿って運営がなされるODR事業者は安全・安心な事業者であり,また,紛争発生時にかかるODR事業者に解決を任せた上でその判断には全面的に従うことを約した電子商取引事業者は,安全・安心な電子商取引の相手方であるといえます。

 すなわち,ISOの国際規格として,紛争解決面でも信頼に足る電子商取引事業者を選択できる体制の基礎が構築された,そこにISO 32122の大きな意義があるといえるでしょう。

(早川吉尚 立教大学)

早川吉尚
立教大学法学部教授,(一財)日本ODR協会理事。標準化活動では,ISO/TC 321(電子商取引におけるトランザクション保証)/WG 3(オンライン紛争解決)のコンビーナを務めている。