
ISO用途別ライセンスモデル~パイロットプロジェクト開始
2025/04/01
ISO(International Organization for Standardization/国際標準化機構)は2月28日、用途別ライセンスモデル(Differentiated Licensing Models: DLM)に関するパイロットプロジェクトを開始した。
用途別ライセンスモデル(以下,DLM)は、規格の用途に応じたライセンス契約(著作権使用許諾)を導入しようとするものである。
ライセンス契約とは何かをまず整理しておきたい。規格を使おうとする場合、まず規格を購入する必要がある。ユーザーは、ISOや日本規格協会のウェブストアなどでお金を支払って規格を購入する必要があるが、正確に言うとこれは「購入」ではなく、「使用許諾」なのである。ISOの開発する規格はISOが著作権を保持するISOの所有物であり、ユーザーが規格を購入したとしても、所有権がユーザーに移るわけではない。規格という製品が売られているのではなく、規格という製品を、ライセンス契約に示されている条件を守った上で使ってよろしいということなのである。
ISOがDLMを検討するに至った背景は、以下のようなものである。
まず、ISOは昨年来ビジネスモデルの見直しを進めていることがある。ISOのバリューチェーンの全体を見直し、何等かの価値(利益)を生み出すことができる機会(opportunity)探しをしているが、その一環で、規格が使われることにより生まれる価値が再認識されるようになったのである。ISOの規格の主な用途は、(1)ユーザーが自身で製品製造やシステム構築などに使用、(2)認証などの適合性評価で使用、(3)研修サービスを提供するために使用、(4)コンサルティング提供のために使用、(5)ソフトウェアへの組込みがあげられるが、用途によっては莫大な価値(利益)を生み出している。中でも適合性評価は巨大な市場を形成している。一方で、現在のライセンス契約は規格の用途に関わらず一律で、規格のコンテンツのコピーを制限することが限定されているだけで、ラインセンス料(規格の値段)は規格のページ数に基づいて設定というものである。これは、規格の生み出す価値に見合っていないのではないか、用途によっては大きな利益をもたらす規格の価値に見合ったライセンス料をとるべきではないかという考え方が出てきたのである。
次に、ISOは著作権保護に関し、長年問題意識を持っているという事情がある。多くの組織で適切なライセンスが無いまま規格が使われているというのである。認証を例にとると、ISO 9001やISO 14001などのマネジメントシステム認証の取得数とマネジメントシステム規格の販売数を比較すると、前者が後者に比べ遥かに大きいというのである(ちなみに、国内では、JIS Q 9001の販売数は認証数よりはるかに大きい)。そのため、規格の用途に見合った内容が盛り込まれたライセンス契約を結び(現行のようにコピーを制限するだけではなく)、著作権が適切に保護されるようにしなければならないと考えたわけである。
このような背景のもと、まずは多様な用途の中から認証を取り上げ、用途別ライセンス契約を試行し、さらに著作権保護に資することを目的に、将来的には(ページ数ではなく)規格の価値に基づく価格設定をすることも念頭に、パイロットプロジェクトが実施されることになった。
DLMパイロットプロジェクトは、2月28日に改訂発行されたISO 37001を対象とし、ISOメンバー国が10程度参加して開始されている。規格には表紙をめくると「著作権保護文書(COPYRIGHT PROTECTED DOCUMENT)」が示されているが、改訂発行されたISO 37001には、通常の文言ではなく、所有権がISOにあること、規格が販売されるのではなく使用許諾されること、ライセンスのタイプに従った使用に限定されることが、明記される形となっている。さらに、ISOのウェブストアで規格を購入しようとすると、規格の用途の確認、認証サービスを提供するためか否かの確認が行われるようになっている。認証サービス提供を規格の使用目的とする場合、認証顧客が適切なライセンス契約に基づく規格を入手しているか(著作権が保護されているか)を確認することがライセンス契約に含まれている。
DLMのパイロットプロジェクトはこの先半年程度の実施の後、今後の運用につき検討が行われる見込みである。今後の運用がどのようなものになるか、本運用が行われることになるのか、どの範囲の規格に適用されるのか、用途別のライセンス料設定が行われることになるか等々、現時点では見えない部分も多い。しかし、パイロット終了後の2026年には、大物の認証規格であるISO 9001及びISO 14001の改訂発行も予定されており、仮にこれらの改訂発行時に新しいライセンスモデルが適用されることになれば、認証機関、認証を受ける組織、両者への影響はかなり大きいと言わざるを得ない。引き続き、ISOの動きを注視し、情報発信を継続したい。
[日本規格協会]
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