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コミュニケーションツールとしての標準化(前編)

コミュニケーションツールとしての標準化(前編)

2025/03/10

標準化には、さまざまな機能(メリット)が存在します。互換性の確保による利便性の向上や品質の確保に始まり、規格化により大量生産が可能となることでコスト削減につながることなどもその代表的な例ですが、「相互理解の促進」も重要な機能として存在しています。
例えば、JIS Z 8210(案内用図記号)において、様々な図記号が標準化されているのは、異なるバックグラウンドを持つ人々が共通の理解を可能とすることを目的としています。
事実、「非常口のマーク」は視覚的にその意味が判別できることで、人々の安全を守っています。

しかしながら、「理解」を突き詰めることは難しく、国際的な規格を開発する場面、あるいは成立した規格内容の伝達に関して、当会としても努力しているところです。

そこで、今回は「コミュニケーションの難しさ」をテーマとした作品『あやふやで、不確かな』のご執筆において、相互理解の難しさを追求された、宮田愛萌さんに、お話を伺いました。

コミュニケーションツールとしての小説

JSA(以下、J):
はじめに、小説を書かれるようになったきっかけについてお聞かせください。
宮田氏(以下,宮):
きっかけが明確にあったかというと難しいのですが、昔から書くことは好きでした。よく書いていたものだと、授業中に周りの子から単語を3つもらって、ルーズリーフ1枚、45分間の縛りでその単語を入れた内容の小説を書くという遊び(三題噺)をずっとやっていました。それが最初の入り口ですかね。
そんな感じで、文章で遊んでいたのがきっかけで、気づいたら「小説を書いてみませんか?」とお声がけ頂くような状況になっていました。
最初は電子書籍のご依頼をいただいて、「思ったよりなんか楽しいかも」となってきて。段々と、「もっと長めに書いてみたい」という気持ちになりました。文章を書くことは元々好きで、それこそレポートを書くことに対してもハードルを感じたことがなかったので、人より得意とは感じていましたし、とにかく苦じゃなかったんです。
私には、「同じ感覚の人が世の中にいない」、「自分の考えていることをぴったり分かってくれる人がいない」という思いがあって、共感してくれる人を探すために書いているところがありますね。
J:
なるほど。「共感・共通点を持つ人を探すためのフィルター」が宮田さんにとっての小説だったと。
宮:
そうですね。人と話があまり通じないな、というところがありまして(笑)。見ているものがきっと違うんだろうな、とは思うのですが。
「人と感覚とかが違う、全然私と同じような人がいない、どうしよう」と思った時に、文章だったらコミュニケーションが取れるなと思って。書いたものが読んだ人に分かる、となれば、同じ感覚の人なので友達になれるかなと思って。それでたくさん書きたいと思うようになりました。友達を増やしたい、本当にそういう気持ちですね。
J:
宮田さんにとって小説は「コミュニケーションツール」の役割を果たしているのですね。
標準という「物事を決めるルール」を文章で書いたものが規格なのですが、我々の活動とどこか似ているようにも思います。本もかなり読まれるのでしょうか?
宮:
そうですね。親から「本当に床が抜けそう」と言われるくらいで。2000冊+αという数字ですね。2000冊を超えると怒られるので、1995冊+αと言っています(笑)。
J:
ジャンルはいかがでしょうか?
宮:
やっぱり小説が多いですね。でも、新書も読みますし、私は大学で万葉集の研究をやっていましたので、研究書や古文も読みます。もちろん漫画も読みますよ。
J:
アイドルも一つの表現活動だと思うのですが、文章表現との関連性はあるのでしょうか?
宮:
アイドル活動と文章表現はちょっと違っています。ただ、アイドル活動を通じて今まで狭い世界にいたことへの気づきはありました。
中高も一貫校で皆とずっと一緒で、大学も日本文学科でしたから、日本文学が好きで、普通に古典を読む、いわゆるマイナーな人たちの集まりですが、今までそれが当たり前の環境だったんです。
「源氏物語の何巻の話」で盛り上がるとか、「和歌の解釈」で盛り上がれる人たちの中で生きていたんですが、それが普通じゃないということにアイドルになるまで気づかなかったんです。

そういうものだと思っていて、「みんなの方が変わっている」くらいの気持ちだったんです(笑)。
「なんでみんなこんなに古典を読まないんだろう?」くらいだったんですけど、アイドル活動でいろんな方々に会って、意外とそうじゃないことに気づいて。
それから、「もっと文章を工夫しないと伝わらないことがある」と思うようになって、どんな人が読んでも伝わるように意識して書くようになりました。
J:
なるほど、面白いですね。芸能活動を通じて自分をメタ的に見て、よりよく伝えるための工夫を考えたということですね。
宮:
はい。アイドル活動でも「せっかく人前に立つんだから、頑張ってみんなに本を読んでもらおう」と思って。ファンの方々に毎日本屋さんに足を運んでもらえるような生活をしてもらう、本を読むきっかけを与えられるようになることを目標に、握手会などでも本の紹介をしていました。それがきっかけで読書を始めた方も多くいらっしゃいます。

伝える工夫

J:
ファンの方々の行動変容に寄与したというか、もっと言えば人生を変えたのかもしれませんね。
先程の、「分かりやすく伝える工夫」というお話は、規格にも関連があります。
国際規格に「プレインランゲージ」(ISO 24495シリーズ)というものがありまして、どんな背景を持つ方にも、分かりやすく伝えるガイドラインなのですが、行政などでも取り組みが始まっています。
そこで、「伝える工夫」についてもう少しお聞かせください。
宮:
私が見ているものと相手が見ているものは違うというのが前提です。そのうえで、「言葉を選ぶこと」にこだわっています。
例えば、ここに「みかん」があるとして、私には丸い形に見えていますけど、もしかしたら別の人にとっては視覚的には私にとっては四角いものに見えているのかもしれない。
でも、それを皆の共通認識である言語で「丸い」と書くことで、双方の感覚の誤差があっても一番近いように認識してもらえると思うんです。
特に、漢字にするか、ひらがなにするか、カタカナにするかなど、同じ言葉でも表記で印象は変わるので、そこにはこだわっていますね。それによって、感覚や雰囲気を伝えることができますから。
J:
なるほど。こちらも規格と同じで、そもそも規格を作る動機は、同じではない、つまり違いがあるからなんです。そこに共通理解を持たせるために作るようなところはあります。
宮:
共通点がありますね。ただ、私は外国の方に分かりやすく、とはあまり考えていません。私が生きてきて見てきたものをそのまま伝えるというのは、海外の方から見れば異文化です。でも逆にそれがあたりまえなのでそこが分かりやすくある必要はないと思っています。
逆にそのまま残しておきたいんです。分からなければ、そこから先はみんなに調べてみてほしいという思いがあります。
J:
どうしてもハイコンテクストな部分はありますから、そこは文章をきっかけにその文化に接近してもらいたいということですね。
宮:
そうですね。その違いはきっと楽しんでもらえる部分なのかなとは思います。よみたい人がよみたい時によんでもらえるのがいちばんかなと。小説は娯楽ですし、娯楽は全てに開かれている必要はないと思います。


後編へつづく(後編は、3月17日に掲載予定です。)




宮⽥愛萌(みやた・まなも)

⼩説家・タレント
1998年4⽉28⽇⽣まれ、東京都出⾝。
2023年アイドル卒業時にデビュー作『きらきらし』を上梓。
現在は⽂筆家として⼩説、エッセイ、短歌などジャンルを問わず活躍。
本に関連するTV/トークイベント/対談なども出演。
・バターの⼥王アンバサダー
・TBSポッドキャスト 「ぶくぶくラジオ」
・⼩説現代エッセイ連載「ねてもさめても本のなか」講談社
・短歌研究エッセイ連載「猫には猫の・⽝には⽝の」
・TV LIFE ラジオ番組「⽂化部特派員『宮⽥愛萌』」パーソナリティ
・著者「あやふやで不確かな」幻冬舎
・著者「春、出逢い」講談社