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自然資本に関する国際標準に関連する動き

2024/05/15

1. 自然資本に関する包括的原則とフレームワークの公表(BSI)

 2024年3月、イギリス規格協会(BSI)は、自然資本に関する包括的原則とフレームワークを公表した。このドラフトは、イギリス規格協会が、イギリス環境食料・地域課題省(Defra)とともに策定した自然投資基準プログラム(Nature Investment Standards Programme、BIS/NISプログラム)のための規格ドラフトと位置付けられている。この規格ドラフトにおいては、自然投資基準における市場で必要とされる具体的な要件ついて説明がなされている。
 自然資本は、TNFDに基づく企業の情報開示から、自然資本に関する投資、生物多様性のクレジット、その評価基準など、国際標準にむけた議論の範囲が広がっている。そこで、本レポートでは、自然資本に関連した最近の動きを紹介する。


2. 自然資本に関連する国際組織の動向

  1. 2023年9月のTNFDのガイドラインに基づき、企業は自然資本に関連するリスクと機会の把握を行い、その情報を開示することによって、企業価値向上を目指すことが求められている。TNFDは利用可能な自然関連データツールの概要を提供するデータイニシアテイブを立ち上げた。
  2. ISOにおいては、生物多様性に関する規格策定を目指し、2020年にTC331を設置して議論が行われており、すべての組織が持続可能な開発に貢献することを促進するための原則、枠組み、要求事項、ガイダンス及びサポートツールを開発するための生物多様性分野の標準化を目指している。

3. 生物多様性のクレジットをめぐる動き

 2023年6月、英国とフランスは、信頼性の高い生物多様性クレジットの創設と成長を促進するため、「人と地球の利益のために生物多様性クレジットを活用するための世界的ロードマップ」を発表し、国際的な制度にむけた組織(IAPB)を立ち上げた。これは、自然市場の形成を支援し、自然への投資を増加および加速することを目指している。ただ、クレジットをグローバルに運営するためには、その価値の評価(同等性)をどのように行うか、などの課題がある。今後、技術の進展を見据えた自然資本の価値評価の検討、自然証明書制度の構築などが行われていく必要がある。


4. BSIの自然資本に関する包括的原則の内容

 この包括的原則基準は、BIS/NISプログラムのための最初の規格ドラフトと位置付けられる。BIS NISは、1) 生態系サービスの取引を行う確証性の高い市場を確保し、自然への民間投資の流れを支援する。2) グリーンウォッシングを防止し、すべての市場参加者の信頼と信用を構築する。3) 自然の回復を促進し、ネット・ゼロや生物多様性損失の回復を含む環境目標の進捗を加速する。4) そのため、堅牢で、透明性が高く、公正な市場の発展を支援する。ことを目的としている。このため、この基準は、市場参加者の原則として、透明性、ガバナンス、単位の定量化(Quantification of units)、データの公開時期、組織の能力、イノベーションの公開、自然の多様な便益、地域社会との連携などを規定し、自然市場における取引のための基準が記載されている。
 今後、議論が必要な項目として、1) 規格の使用形態、ガバナンス体制。2) 規格の利用者の使いやすさ。3) 認証可能な規格の規定、規格の明確性。4) 詳細な市場レベルまたはテーマ別の基準の必要性。5) 基準の枠組みの運用方法、自然市場における自主基準。があげられている。


5. 自然資本の評価に関する国際的な動き

  1. 代表的なものとして、人間活動や事業活動の間接的影響を資源の消費視点として、 6つのカテゴリーで定量評価する方法としてのエコロジカルフットプリントや、国際自然保護連合(IUCN)が2023年11月に発行したNature PositiveをSTARで測定するための方法論ドラフトなどが出されている。
  2. ISO/TC331において、評価に関係するのは、WG2(影響評価、ライフサイクル評価と報告を含む統合的評価のためのベースライン、指標の補強と強化、さらに生物多様性に関する管理の効率化のための生物多様性の測定・データ・モニタリング・評価における標準化など)及び、WG4(政策、目標設定、行動計画、情報開示をサポートするためのガイドライン、原則、実施の開発など)がある。

6. 今後の重要な動き

  1. 国際会計基準(IFRS)傘下のISSBは、2023年6月にサステイナビリテイ開示基準SI(全般的要求事項)とS2(気候関連の具体的な開示)を公表した。次の基準(S3)について、生物多様性が有力視されている。
  2. 2023年のCOP15においては、欧州を中心に生物多様性に関する企業の情報開示を義務化する提案がなされたが、最終的に義務化という文言は入らなかった。今後、G7、G20を含む国際的な議論の動向を注視する必要がある。
  3. 日本政府は2024年3月にネイチャーポジテイブ経済移行戦略を策定し、効果的・効率的な情報開示のための国際的なデータ・ネットワークの形成、アジアモンスーン地域の特徴(高温多雨)を踏まえた国際ルール形成(評価ツールの開発と提案)、また、生物多様性に関するISO規格策定への参画、企業の生物多様性ビジネスに関する新規規格提案などの支援を行っていくとされている。



一般財団法人 日本規格協会
標準化研究センター フェロー
堀 史郎