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ドゥー氏に聞く「MPC、ものづくり、標準化」(後編)

2023/01/16

前編ではMPCによる楽曲制作から、オフィスワークと楽曲制作の共通点などのお話を伺いました。後編では、音楽の未来やものづくりが楽曲制作に与えた影響などについて伺います。

AIは人間のDJにとって代わるのか?

J:
今って例えばiTunesやSpotifyとか、ソフトに任せておけばDJミックスのような感じにはなりますよね。繋ぎはないかもしれませんが。これからは機械というかAIがDJをやるようになる可能性があると思うのですが、ドゥーさんはどう思われますか?
D:
一般的にイメージされる「クラブDJ」は本当にすごく難しいかもしれないですね。
J:
ただ、AIは一対一のリコメンドはできますが、現場(クラブ)の空気は読めない気もします。
D:
AIだったり、IT業界の人達が本気出したら感情とか、声の大きさとか顔の表情とか全部数値化できるんじゃないかと思います。それで、「今はこんな感じのウケ方してる」が分かるとか。統計的な数値ではありますが。また、これまでのDJのデータとか拾って「こういう曲をかけた方がこの場所はいいだろう」みたいなのはできちゃうと思うんですよね。
世間一般として、基本的には人間のDJを聴く機会は今後減っちゃうんじゃないかと思ってますね。正直。

ただ、人間がやると、今盛り上がってるけど、普通はこうだけど、「でも僕はこっちが好きだからこれやるとどうなるんだろう」みたいなイレギュラーな動きが出ると思います。やっぱりDJの人達はその人の「好き」が出ると思うんで。
J:
感情はまだ数値化できていないですからね。人間に残されているのは機械にできない「ゆらぎ」みたいな部分でしょうか。
生演奏っぽくわざとやるビートの「よれ」のような。J Dillaみたいな感じですけど。
D:
そうですね。「さっきリサイクル屋でダサいジャケのレコード買ったからかけてみよう」みたいな、そういうことが僕は好きだったりするので。うまくいった事はほぼないんですけど(笑)。もちろんかける以上はその中で頑張って工夫はしますけど、そういうのは多分AIには難しいと思います。
J:
敢えてのイレギュラーを作れるのは、人間しかいないのかもしれないですね。
D:
でも、AIも逆に面白いことするかもしれないかもしれないですよ。無機質で、突拍子もない。それも聞いてみたいです。

その人にある「ストーリー」、一回挫折したけど後ほど成功して今こんな感じで…というようなものを見たいというのは、めっちゃシンプルでも皆さん変わらずある気がします。僕も好きです。
J:
アーティストの背景にあるストーリーやコンテクストが大事だと。
D:
そうですね。それこそそれは機械では不可能な部分だと思います。
作曲やモノづくりも人間の方が勝つと思いますね。
J:
人間が勝つというのはどの辺にポイントがあるのでしょうか?
D:
データとか情報を基に何かを作ることはAIにもできるんでしょうけど、モノ作りは情報だけじゃなく、その人自身の過ごし方や合った出来事、人間としての中身が占める部分が大きいと思うので。同じようなものが作れるとしても、とびぬけてカッコよかったり、これ作った人おかしい!なんだこれ!みたいものは人間の方が作れるのではないかと思います。
また違う話になってしまうかもですが、自然の中で生まれる景色、生き物が作る巣だったり自然が生む出す現象だったりってやっぱりとてつもないので、そういう人の心を大きく動かすモノを作り出す能力というのは自然や生き物が持つものとしてあるんじゃないかなと思います。
J:
人間の持つクリエイティビティですね。

音楽の未来

J:
以前、Chaki Zuluさんと大沢伸一さんとの対談動画を観たときに、大沢さんが、「音楽は所有できる時代にまた戻るんじゃないか」と言っていたんですね。つまりNFTの話なんですが、ここはどう思われますか?
D:
NFTではないですが、今ってApple MusicやSpotifyとか何かのプラットフォームを介して音楽を聴いていますが、そうじゃなくてもう本当に個人同士でやり取りする形にはなると思っています。さっき読んだ雑誌にWeb3.0の話があったから余計にそう思っただけかもしれませんが(笑)。

今って個人に破壊力があって、好きなものをネットワークを通じて届けられて、好きな音楽を受け取れてという世の中ですから、最終的には今ある音楽プラットフォームもなくなる時代は来そうですよね。でも今あるプラットフォームも全く別のメリットが生まれるんじゃないかなと思います。
J:
音楽のサブスクリプションサービスは、アーティスト側でもその是非について議論がありますよね。ヒップホップだと、Snoop Doggはサブスクリプションプラットフォームから曲を全部引き上げてNFTをやっています。
D:
Death Row(Snoop Dogが運営を務めるレーベル)がやったあたりから、そうなりそうかなと僕も何となく思いました。知っておかなきゃいけないなと。今はSNSがありますけど、もっと個人同士のつながりになると思うんで。
でも、音楽はモノとしても残ると思ってます。フィジカルとしてのレコードとか。他の何かでも。

アーティストに学ぶ情報収集

J:
DJやビートメイクには情報収集も大事だと思うのですが、レコードを収集するとかチェックするときのコツみたいなものはあるのでしょうか?膨大なレコードの中で、サンプリングでワンフレーズを抜くのは大変ではないかと思うのですが。
D:
そうですね、なんだろう。ジャケット買いとかも大事ですね。それこそその人の人となりが出ると思うんです。あとはやっぱり「聴きまくる」みたいな話になっちゃうと思います。
掘ってると何もしない人よりは「サーチ能力」の精度が高くなると思うので。
J:
検索能力が高くなると。
D:
はい。「これ系のジャケットは、80年代だけどテクノっぽいことやってるはずだ」と分かるとか。
と言ったものの今思い返すとだいたい外れますけど(笑)。でも、レーダーとしては鋭くなると思うので。結局聴きまくるしかないですね。その部分に関して岩手は良かったです。レコードの視聴枚数の限度がなかったので。
学生で時間も沢山あったからずっとレコード屋さんでレコード聴いてました。

新製品・イノベーション

J:
情報検索も今は逆に難しくなっていると思っています。先ほどお話した調査でも、同じGoogleを使ったとしても人によって検索結果が違うんですよね。これは、検索時の「キーワード」に適切なものを選択できていないからなのです。
結局、調べる対象に関して、周辺の知識があるかどうかが重要になると考えています。

ドゥーさんが今おっしゃったことと同じで音楽でも、それがしっかりないと残念な結果になることもあるということですね。
D:
「引き出しがいくつあるか」っていうのは大事ですね。あと、単純に僕は沢山聴いてる人の方が好きですね。そういう蓄積があると、情報同士をつなげることができたりして、新しいクリエーションに結び付くことになります。
J:
一見すると関係ないもの・異質なもの同士を繋げるというスキルは、ものづくりでも大事かもしれないですね。昔アフリカ・バンバータが「Planet Rock」でKraftwerkの曲を組み合わせたように。彼は「Beat Sex」などと言っていたようですが。
D:
たしか、どなたかのインタビューで、「もう新しい音楽って組み合わせとかでしかできない」みたいなことを見ましたけど、今って物が溢れすぎてるし、見れ過ぎるし、本当に新しいものを生みだすことって本当に難しいと思いますね。
J:
イノベーションといいますか、新製品を作る時も結局は既存のもの同士の組み合わせである、とよく言われます。ヒップホップにおける実践はものづくりの参考になりそうですね。

「ものづくり」に面白さを

J:
ドゥーさんはものづくりとして、「人肉アイテム」の企画や製作もされていますが、楽曲制作に与える影響などはあるのでしょうか?

MOTHER FACTORY ホームページより)

D:
ありますね。人肉アイテムでこういうストップモーションビデオ撮るからこういう曲作ろうとか、こういう曲作ったから人肉アイテム絡めてこんな作品として出そうとか。
色々なモノ作りが好きなので、音楽だったり人肉アイテムだったりDJだったり、いろいろな事が好きだとよいバランスで制作を進めることができます。

どのモノ作りも好きで作りたいものを作っているというスタンスなので、これが軸というのは無いのですが、どれも表現として好きです。たまたまビートの作り方を最初に知れたから音楽が先なだけで、人肉アイテムのような造形の作り方が先に分かってたら順番逆だったかもしれないです。
僕はホラーも好きで、例えば、今「富江の人肉アイテム」でコラボさせて頂いてる伊藤潤二先生の漫画って一応ホラー漫画の立てつけなんですけど、本当に爆笑できるポイントもあるし、キャッチーだし、これは何のものづくりでも大事だなと思っていて。
音楽でも、ただDopeなんじゃなくてそれにポップな要素、面白かったり、なんかそういうポップさとDopeさとかマッドさがある方が難しいし、カッコいいと思ってます。
J:
なるほど。「面白さ」が入るっていうのはものづくり的に大事なことではないかと思います。
D:
あと、世代問わず楽しめるのも大事ですね。今でもテレビやCMで流れるような70~80年代の音楽とかそうだと思うんですけど、子供からおじいちゃんまでいつでも聞けるみたいな。
J:
「世代を繋げる」のはヒップホップの特性の一つかなと思います。異素材もそうですし、異世代も繋げることができるという。
最近出た「東京キッズ」もそうですし、THA BLUE HERBの「REQUIEM」とか、戦争時代の、特攻隊の話で、高齢の方が聞いて泣いたとか。そういう音楽って今はヒップホップくらいしかない気がします。
D:
カバーとかもできるとは思うんですけど、やっぱりサンプリングして新しい曲作って、となると若い人にも面白いと感じてもらう要素は増えそうですね。もちろん一要素として。
シンプルにラッパーってみんな見たくなるじゃないですか。その人のそれこそ人となりがあるからだと思うんですけど。過去めちゃくちゃな事をしてた人がカッコいい曲つくってるとか。
子供と親で共通の話ができるような曲を作れるのはすごく面白いですよね。普通だったら親とそんな話あんまりしないと思うので。それをパッケージとして、音楽として出せるから、オフィシャル感があるし、安心して信用もできそうですし。
J:
共通言語になりますよね。
D:
そうですね。良い楽しみ方ですね。

楽曲制作に影響を与えた「ものづくり」

D:
繰り返しになっちゃうんですけど、音楽のフィジカルの良さはたぶんこれからも上がっていくと思うんです。音楽は単純に聞くためだけのものではないと思ってて。今レコードを買ってる人にも多いんじゃないかと思ってます。
J:
私がCDを買っていたときは、中にある「ライナーノーツ」読むのが好きだったんです。インターネットがあんまり盛んじゃなかった時代だったこともあって、どんなアーティストと繋がっているのかなどの情報を「ライナーノーツ」から掘り下げていくみたいなことをしていました。
D:
それもまさに聴く以外の行為で、PUNPEEくんのアルバム「Modern Times」なんかすごくモノとして手に取って良かったと思える素敵な作品でした。ブックレットを縦読みするとあるメッセージが出てくるとか、遊び心が好きです。
デジタルも音楽を聴くのに便利で良いですよね。これは好みの問題なので、どちらも良い所があると思います。あとレコードは眺めたり飾るのも好きです。
J:
ジャケットのアートもデジタルよりフィジカルのほうが部屋に置けて絵になるとかありますよね。
D:
そうそう。本当にそのプラスアルファみたいな、それこそ絵になるとかは最近ようやく冷静に見れるようになりましたね。

昔はレコードやCDの方が、昔からあるものだし、「本当に音楽好きだったら買うでしょ」という精神論みたいなところがありました。
「人肉アイテム」の展示会は、性別も年代も様々の、音楽ファンじゃない人もたくさん来て頂けるので、そういう人たちと話しをすることがすごい貴重で。
そのおかげで、音楽含め、世の中を俯瞰的にモノが見れるようになりましたね。視野がめちゃくちゃ広がりました。もっと広い考え方ができるようになったというか。
J:
ものづくりが音楽の方にも影響を与えているのですね。
D:
そうですね。今まではマッドでガツンとくる音楽とか、あとはストリートを感じるものがイケてるって、今でもイケてるって思ってますけど、それじゃなきゃダメというのは全然なくなりましたね。
もちろん根底にはあるから絶対大事にはしますけど、それが一番って訳ではないかなって思うようになりました。
J:
最後にドゥーさんにとっての「スタンダード」とは?
D:
さっきも話しましたが、最終的に個人同士を繋ぐみたいな世界になると思うので。音楽を作るのも個人でやるのがスタンダードになるんじゃないかと思ってます。この流れはすごく加速しているし、モノ作りを続けたい自分としては、負けないようにもっと頑張らなきゃって思いますね。


doooo(ドゥー)



岩手県出身のプロデューサー、ビートメイカー、DJ。クリエイター集団CreativeDrugStoreに所属。
2017年に1stアルバム「PANIC」を発売するもジャケットに人肉MPCを使用した為リスナーの皆様から引かれる。
2020年にMOTHER FACTORYを立ち上げ人肉アイテムの販売を開始し、一部のマニアの人から絶大な支持を集める。 2022年5月に2ndアルバム「COLORFUL」をリリース。