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マイ・スタンダード(標準的な脚本家とは?) 脚本家 小山 真

2020/05/29

 みなさんの中には「脚本家」という職業をご存じの方も多いと思います。
 しかし、どんな仕事をしているのかを答えられる人はとても少ないのです。
 実際、私が自己紹介をした時には「ドラマを書く人」や「映画を作る人」だと思われるのはいいほうで、時には漫画家さんと勘違いされてしまうことさえあります。

 脚本家とは、簡単に言うと映画・ドラマ・アニメ・演劇・ゲームといった様々なエンターテインメント作品の中で「物語・ストーリー」の部分を担当しているスタッフのことです。映像作品の設計図を書くのが仕事とも言えます。
 これらの作品は、決してひとりでは作ることができない総合作業なのです。
 そこで、私たち脚本家がまず「物語の内容や構成」と「ロケーション」や「登場人物の動き・セリフ」などを指定してひとつの脚本にまとめ、作品に関わるすべての人たちに「完成イメージ」を共有してもらう必要があります。
 ここで意外に知られていないのが、実はほとんどの脚本は誰かの「注文」を元に作られているのです。

 脚本家は自分の書きたいことを自由に表現出来るアーティストのように思われがちなのですが、よほどの「大御所」や「売れっ子」でもない限り、自分の好きに書いたものがそのまま映像になるということはなく、ほとんどの場合は作品に関わる多くの人たちからの注文に応えてうまく調整し、様々な物語を生み出し創り上げているのです。
 例えるならば、私たち脚本家は施工主のさまざまな要求を受けて家の設計をする「建築士」のようなものかもしれません。ある意味、コーディネーター的な役割を果たすことにもなります。
 今回の記事を書かせていただく上で、私も「標準的な脚本家」とはどのようなものなのかを考えてみました。

 標準的な脚本家に求められる第一条件は、やはり「作品の質」です。いつでもどんな条件であろうと必ずプロのレベルの作品をコンスタントに仕上げなければなりません。これはプロである以上は必須の能力です。
 二つ目の条件は「締め切りを守る」こと。どのような作品にもあらかじめ公開(放送)日が決められています。そこから逆算して制作スケジュールが組まれますので、最初の工程である脚本作業の遅れは全体の進行に悪影響を与えてしまうのです。どんな名作を書いたところで公開(放送)日に間に合わなくては話になりません。プロ失格の烙印を押されてしまうでしょう。
 三つ目の条件は、発注者が求めるアイディアを取捨選択しながらイメージまで昇華し、脚本として具現化する能力です。そのためには多くの人が参加する打ち合わせを円滑に進めるコミュニケーション能力も必要となりますし、己の作品を客観的に見て修正する力も大切です。
 私が脚本を学んだ先輩は常々「準備稿・初稿(最初の脚本)を書くのが私たちの仕事の50%であり、残りの50%は修正作業だ」と教えてくださいました。

 精一杯の想いを込めて書きあげた脚本に他人の意見を入れて改訂するという作業はなかなかキツいものですが、改訂する度に内容が磨かれていく場合が多く、この時はまさに協同作業の醍醐味を味わう瞬間です。
 以上ここまでいくつかの条件を記してきましたが、たとえこの能力をすべて揃えたとしても、あくまでもそれは「標準」でしかないのです。
 更にここから多くの人に知られるような作品を生み出す「売れっ子」になっていくためには「圧倒的な筆力」や「豊かなアイディア力」、「どんな注文にも応えられる臨機応変性」、「誰にも真似ができない個性」など様々なプラスアルファの力が要求されます。

 世の中に求められている「標準的な脚本家」も、例えるならばゴールのない険しい道をたどるひとりの修験者のようなものかもしれません。
 また、これからの時代は脚本家に求められる「標準」も大きく変化していくことが予想されます。
 かつてはひとつの国のひとつの媒体の中で活躍すれば、長く脚本家として生活することができました。
 しかし、現在は映像メディアの多様化と多国籍化を前提とした活動が求められるようになっています。現実的に私のような者にもアメリカやフランス、中国、韓国と言った海外のクライアントから仕事の発注が来るようになりました。
 このような流れは今後、さらに加速していくものと思われます。
 そう考えると今や、より多くの媒体や国で対応できる人材でなければ長く業界を生きていけない時代になったのかもしれません。

 加えて、昨今のコロナ禍が世界中の人々の生活に大きな変化をもたらし始めようとしています。
 新型コロナウイルスの感染拡大が終息した後の、いわゆる「アフターコロナ」の時代には脚本家に対しても新たな「標準」が求められるであろうことは言うまでもありません。
 未だ道半ばの若輩者である私自身、必死になって世の中に求められるものを考えて行動していかなければこれからの時代を生き抜くことはできないと考えています。
 私たちの仕事は時代時代の変化に合わせて、素早い「標準化」が求められているのですから。



小山 真 脚本家

2009年、アニメ「スキップビート!」でデビュー。
以降は「ハピネスチャージプリキュア!」「ドラゴンボール超」など、キッズアニメを中心に活動を続ける。
現在は「あひるの空」が放送中&矢立文庫にてWEB小説版「魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸」を連載中(http://www.yatate.net/watarushichikon/00.html)。