
ISO/TC 268/SC 2(持続可能な都市とコミュニティ― 持続可能なモビリティ及び輸送)第4回 国際会議(パリ開催)レポート/三角国際議長インタビュー
2023/07/07

2023年6月13日、パリにあるフランス規格協会にて、国際標準化機構(ISO)の専門委員会TC 268/SC 2の第4回国際会議が開催されました。この委員会は、持続可能なモビリティ及び交通に関する国際規格を開発するために2021年に日本提案で設置された委員会であり、今回、委員会設置後、初となる対面会議が開催されました。
最終日に開催された総会には、仏、日本、中国など7か国から48名※1が参加しました。総会では、前日に開催されたワーキンググループ、WG1(デジタルガバナンス)、WG 2(プラットフォーム及びサービス)からの会議報告があったほか、決議事項の採択などが行われました。
この総会での主な決定事項は、以下の通りです※2。
- ISO/PWI 16481(持続可能なモビリティ – デジタルガバナンス– ISO37101の持続可能性の目的に関する戦略的ニーズ)を新業務項目提案(NP)投票に送る。
- ISO/PWI 16483(持続可能なモビリティ – デジタルガバナンス– 用語及び指標)を新業務項目提案(NP)投票に送る。
- ISO/PWI TR 16497-1 (持続可能なモビリティサービス – 第一部:ユースケース)をDTR投票(テクニカルレポート原案)に送る。
- ISO/PWI TR 16497-2 (持続可能なモビリティサービス – 第二部:ギャップ及オーバーラップ分析)を作成する。
- ISO/PWI 16499-1 (物理インフラとデジタルインフラを利用した自動モビリティ – 第一部:サービス・ロール・アーキテクチャ)を第2回目となる新業務項目提案(NP)投票に付す。
- ISO/PWI 4078-1 (路側給電システム - 第1部:サービス・ロール・アーキテクチャ)を新業務項目提案(NP)投票に付す。
- 「持続可能なモビリティと交通 – データ共有プラットフォームによるモビリティのモニタリングとサービス – 第一部:役割モデル」というタイトルのPWI(予備段階)を作成する。
- 「スマート運用・保守」のアドホックグループの設立を承認する。
会議の最後に議長である三角氏より、参加したコンビーナ、エキスパート及び会議をホストしたフランス規格協会への謝辞があり、閉会しました。次回は、2023年秋頃に開催予定です。
国際会議後に三角氏に話を聞きました。
「持続可能な都市とコミュニティ― 持続可能なモビリティ及び輸送」は、2021年に設置されました。この委員会が設置された背景と目指すところを紹介していただけないでしょうか。
気象変動対策の緊急性や日本などの高齢化社会の進展に伴い、“CASE”※3という言葉に代表されるよう現在、モビリティ産業は、大きな転換期に差し掛かっています。交通関連技術の標準化は、これまでそれぞれの交通形態の専門委員会で進められ発展してきましたが、これまで市や地域の持続可能性達成の観点やその住民の利用者の立場に立った国際標準は多くはありませんでした。
我々は、鉄道、自動車、船などの移動手段と都市・地域など社会基盤の多分野統合的アプローチを標準化することによって、持続可能なモビリティや輸送の促進を目指しています。
具体的には、都市やコミュニティにおけるモビリティ及び輸送オプションにおける組織の運用、持続可能なモビリティと輸送システムに関わるサービスの計画、開発、運用、維持及び管理するための要件、ガイダンス、そして支援ツールなどの国際標準の開発などに取り組んでいくつもりです。

この委員会の作業項目は、現時点では利便性に焦点をあてたものが多いですが、今後、脱炭素化、災害耐性や福祉の観点など、取り組むべき課題は、非常に多いです。将来的には、グリーンモビリティの統合、アクセシブルなコミュニティ、安全及び効率的なモビリティ、モビリティレジリエンスなどが重要テーマとなり得ると考えております。
現在、委員会として取り組むべき課題はありますか。
モビリティ・輸送に関連する仕組みや枠組みは、各国の政治的、経済的背景の影響を受け、国ごとの違いが大きいため、国際的に有用な標準を開発するには、多くの当事者を巻き込んだ充分な議論が必要です。ISO Global Relevance Policyの観点から、この委員会は、国の数、並びに地域特性の面で未だ参加メンバーが少ないと感じており、特に北米、北欧、東南アジアからの参加を望んでいます。
更に交通に関連する標準化組織や委員会の数は多いため、「何故、このTC 268/SC 2において国際標準を開発する必要があるのか」の論理明確化と関連組織との密接な意思疎通も必要だと考えております。

対応するべき課題が多い中、議長としての意気込みを教えてください。
私は、MaaSなどの新しい領域のビジネスの開拓と市場拡大には、国際標準化による共通理解の構築が成功の近道だと考えております。会議を重ねながら、各国の参加者と価値観を共有化し、ルール化を図っていきたいと考えております。
国際標準化の要は、“国 対 国”という対立構造で考えるのではなく、グローバルな視野で建設的に議論に参加し、国際メンバーとしての信頼を得ることが非常に重要です。議長として、メンバーからの信頼構築に尽力するつもりです。例えば、非英語圏含めメンバーも十分な時間をもって検討を行えるよう、審議文書の事前提出を徹底、習慣化を図るなどして、多くの国が積極的に、公平に国際標準開発に参画できるような環境づくりをすることも議長の重要な務めだと考えています。
1 オンラインの参加者含む
2 決議事項の抜粋及び一部要約
3 Connected, Autonomous, Shared, Electrified
マツダ株式会社 R&D戦略企画本部 上席研究員
1978年マツダ株式会社入社後、 同社技術研究所、マツダモーターヨーロッパGmbH出向などを経て、現職。国際標準化においては、ISO/TC 204/WG 14 (Vehicle/roadway warning and control systems)のコンビーナなどを務める。2019年には、産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰を受賞、2021年よりISO/TC 268/SC 2の議長に就任。