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標準化活動調査(Survey on Standardization Activities)と新たな標準化政策

2020/02/07

1. 背景
製品化やサービスの提供において、標準の形成を行い、市場の拡大や製品競争力の向上と持続的発展を図る標準化戦略は、企業戦略において重要な役割を占めている。また、標準化については、2019年に工業標準化法が産業標準化法として抜本的に改正され、財だけでなくサービスも標準化の対象となるとともに、企業、研究開発独立行政法人、大学法人等に対して標準化活動に関する努力が求められるようになった [1]。

しかしながら、企業等の組織の中で標準化に関する活動がどの程度実施されているかの把握は、意外にも十分に行われていないのが現状である [2]。著者は、企業、大学、研究開発独法等の標準化活動の状況を把握するための調査(標準化活動調査)を実施しており、2019年度以降についても調査を継続予定である。併せて、調査結果の産業政策や知的財産政策への利活用についても検討を行っている [3]。

2. 標準化活動を把握する上での論点
標準化活動の形態をどのように捉えるかによって、標準化活動に関する実態の把握は影響を受ける。標準化活動を把握する場合に、標準を策定する団体における会議への参加有無がどの程度であるかを数える方法が考えられるが、各団体への参加だけでは、必ずしも標準化活動全体を表しているとはいえず、組織全体の標準化活動把握には適した方法とは言えない [2]。これに対処するために、標準化活動調査では、標準化策定団体活動への参加の有無といった点に注目するのではなく、組織における標準化活動全体を対象としている [3]。

3. 結果の概要
2018年に実施した調査結果のうち、標準化に係る活動や組織に関する概要は以下のとおりである [3]。
3.1. 標準化活動の実施の有無とその活動
全体のうち約60%の組織が標準化活動を実施しているとの結果が得られた (表1)。実施している標準化活動の内容は、(1)製品とサービスに関する標準化活動 (2)製品やサービスの生産プロセスに関する標準化活動 (3)測定に関する標準化活動 (4)デザインやシンボルに関する標準化活動 である (表2)。

(1)製品に関する標準化活動とは、製品の品質などに関する標準化活動を意味している。このような標準化活動により部品の共通化を通じた製品コストの低減などが期待できる。(2)製品やサービスの生産プロセスに関する標準化活動とは、製品の生産方法に関する標準化活動を意味している。設備の管理運転方法などの標準化により、安全性の向上や、生産管理コストの低減が期待できる。(3)計測手法に関する標準化とは、性能や機能の評価のための計測手法に関する標準化活動を意味している。製品やサービスの性能の評価方法が標準化されることを通じて、異なる生産者による製品の性能の相互比較が可能となり、生産者にとっては、自社製品の機能表示の明確化が期待できる。消費者側にとっても、製品の機能等にかかる情報の読み取りが容易になるとの効果が期待できる。(4)デザインやシンボルに関する標準化とは、製品の形状、図柄、色彩などに関する標準化が含まれる。これらの標準化により、非言語的な情報の伝達や直感的な操作方法の理解が促進され、操作性が高まることを通じた製品やサービスの品質向上、安全性向上などにつながると考えられる [4][5]。

3.2. 標準化活動に関する組織
標準化に関する組織的整備については、全回答のうち約30%が、標準化活動を管理する部署の設置があると回答している (表3)。また、そのような標準化活動を管理する部署の設置部門について訪ねた項目では、約8割が本部組織中に設置されていると回答しており、事業部内と回答した約15%を上回っている (表4)。このことは、現在の標準化活動を管理する部署は、各部門における個別の標準化活動を見るより、全社的な標準化活動のコントロールをする役割を担った組織構造となっている場合が多い状況を示していると考えられる [6]。

組織は企業の戦略に従って変化する[7]。企業の戦略は、外部環境に応じて速やかな変更が求められるが、これに対応するための企業内の組織構造の再構築は、人員の再配置が伴うために柔軟な対応を行うことが難しい。このことは、本調査においても標準化活動を実施しない理由の結果に表れている (表5)。標準化活動を行わない理由については、「自社の製品サービスに標準化が必要ない」や「標準を利用する立場である」といった項目が多くを占めているが、その次に、「標準化活動を運営する組織がない」、「標準化活動を実施する人員の不足」といった点が挙げられており、実施する上で必要となる組織の整備が未整備である点と、適当な人員がいないことが、標準化活動を行う上での障害の要因になっていると推測される。

4. 今後の展望
本調査は、2018年度の実施に引き続き時系列変化を見るため、継続的な調査の実施を予定している。2019年度の実施を行うとともに、2020年度については、10月の“World Standards Day” 「世界 標準の日」に合わせての調査実施を予定している [8]。 また、結果については、とりまとめた形で公表すると共に、経済産業省の基準認証政策やイノベーション政策などにおいて、活用されることが期待されている。併せて、国際標準化機構 (ISO)、国際標準会議 (IEC)、OECD科学技術政策局といった部門などに結果概要の提供を行ってきており、今後の国際的な政策立案への反映と貢献を念頭に置いている。

注記:
文中の表1、表2、表3、表4および表5は[3]が出典である。日本語表記は仮訳であり、英文表記に変更を加えている。

謝辞:
本調査は、JSPS科研費(15K03718および19K01827:研究代表者 田村 傑)の助成を受けて実施している。また、本稿は、著者のRIETIコラム「標準化活動調査(Survey on Standardization Activities)と新たな標準化政策」(2020年)を加筆・修正したものである。

[1] 経済産業省(2019). 「JIS法(産業標準化法)改正関連」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/jisho/jis.html (2019年12月現在)
[2] Tamura, S. (2013). Generic definition of standardization and the correlation between innovation and standardization in corporate intellectual property activities. Science and Public Policy, 40: 143 - 156.
[3] Tamura, S. (2019). Results of a survey on standardization activities: Japanese institutions' standardization activities in 2017 (Implementation, knowledge source, organizational structure, and interest to artificial intelligence), RIETI PDP 19-P-013.
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/19080009.html
[4] Tamura, S. (2018). The dynamics and determinants of de jure standards: Evidence from the electronic and electrical engineering industries. Computer Standards & Interfaces, 56:1-12.
[5] 田村 傑(2017). 「デザイン・シンボル標準リスト データ」
https://www.rieti.go.jp/en/publications/summary/14080016.html
[6] Tamura, S. (2012). Effects of integrating patents and standards on intellectual property management and corporate innovativeness in Japanese electric machine corporations. International Journal of Technology Management, 59(3/4) : 180 - 202.
[7] Chandler, A. (1962). Strategy and Structure. Cambridge: MIT Press.
[8] RIETI (2020). 「標準化活動調査」
https://www.rieti.go.jp/jp/projects/research_activity/standardization-activities2019/
[1] 経済産業省(2019). 「JIS法(産業標準化法)改正関連」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/jisho/jis.html (2019年12月現在)
[2] Tamura, S. (2013). Generic definition of standardization and the correlation between innovation and standardization in corporate intellectual property activities. Science and Public Policy, 40: 143 - 156.
[3] Tamura, S. (2019). Results of a survey on standardization activities: Japanese institutions' standardization activities in 2017 (Implementation, knowledge source, organizational structure, and interest to artificial intelligence), RIETI PDP 19-P-013.
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/19080009.html
[4] Tamura, S. (2018). The dynamics and determinants of de jure standards: Evidence from the electronic and electrical engineering industries. Computer Standards & Interfaces, 56:1-12.
[5] 田村 傑(2017). 「デザイン・シンボル標準リスト データ」
https://www.rieti.go.jp/en/publications/summary/14080016.html
[6] Tamura, S. (2012). Effects of integrating patents and standards on intellectual property management and corporate innovativeness in Japanese electric machine corporations. International Journal of Technology Management, 59(3/4) : 180 - 202.
[7] Chandler, A. (1962). Strategy and Structure. Cambridge: MIT Press.
[8] RIETI (2020). 「標準化活動調査」
https://www.rieti.go.jp/jp/projects/research_activity/standardization-activities2019/


田村 傑 (Suguru TAMURA (Dr.) )

経済産業研究所 上席研究員(博士) 通商産業省(現経済産業省)に入省、研究開発政策や研究開発プロジェクトの技術評価システム、標準化政策の企画立案を行う。内閣府総合科学技術会議でイノベーション政策の企画立案と科学技術基本計画の策定に従事する。これまで早稲田大学理工学研究科准教授、東京大学大学院情報理工学研究科非常勤講師、東京大学未来ビジョン研究センター非常勤研究員、早稲田大学客員教授、東京農工大学産業技術専攻非常勤講師などを務める。専門は、戦略論、イノベーション論、関連する政策分析他。
主要単著論文(SCI&SSCI)は Computer Standards & Interfaces, Technovation, Science and Public Policy, International Journal of Technology Management, Applied Economics Lettersなどにある。著書に「知的財産イノベーション研究の展望」第6章(白桃書房)。 国際学会Academy of Management conference(AOM)他で研究成果を発表。ISOの 研究論文レポジトリー Standards and Innovationに単著論文が採録。所属学会はAOM(全米経営学会)、人工知能学会他。
連絡先: e-mail: tamura.edu@nifty.com
Researchmap: https://researchmap.jp/innovation/