
IEC/ISO JTC3 第3回会合、日本で開催 ― 量子技術標準化の加速に向け新たな体制
2025/06/27
いままで夢の技術と思われてきた量子技術の実用化が近づいていることをニュースなどでご存じの方も多いと思います。一方、量子技術は多様な技術の集合体で実現されるため、実用化が近くなればなるほど技術の分類や構造を定義するアーキテクチャや、多様な技術の容易な接続、検査や評価方法が必要となり標準化が必須となります。
そのような量子技術の実用化の流れを受けて、世界的な標準化団体であるIEC(International Electrotechnical Commission )/ISO(International Organization for Standardization)では、量子技術の標準化を議論するJTC3を昨年1月にスタートさせました。昨年5月には韓国ソウルで第1回会合、10月には英国スコットランドのエジンバラで第2回会合が行われました。
第1回、第2回の会合まではアドホックグループ(AhG)と呼ばれる議論グループで、たとえば用語や今後の標準化の方針が各技術に対して話し合われてきました。これらは標準化を決めるというよりは、標準化の必要性や標準化を決めるとしたらどのような分野でどのような標準化を決めるか?などの今後必要な議論項目を検討しており、2025年から本格的に標準化を決める議論が開始するスケジュールで議論が進んでいました。その本格的に標準化を決める議論を行うJTC3の第3回の会合が2025年5月に日本のお台場で行われましたのでご報告します。

当日の様子
IEC/ISO JTC 3(量子技術)の日本会合が5月26日(月)~29日(木)に産業技術総合研究所(産総研)の臨界副都心センターにて開催されました。第3回となる今回の会合には16か国から約70名(オンライン参加を含めると24か国約120名)のエキスパートの参加をいただきました。日本からはJTC 3国内対応委員会の委員長である私を始め7名のエキスパートが参加し、量子技術の標準化に向けた議論を行いました。
量子技術は主にコンピュータ、セキュア通信(量子暗号通信)、センサー、乱数などの技術分野に分かれており、これまで日本のエキスパートを含めて6つのAhGで議論を行ってきましたが、セキュア通信を除く3つの技術分野と量子技術全般に対して実用化を議論する技術に関して、AhGを解体してワーキンググループ(WG)へと再構築することが決まりました(コンピューティングはベンチマークとサプライチェーンの2つのWGが設置されました(図1))。特にベンチマークのWGに関しては日本が提案して設置されたWGであることから、日本がリーダーシップ的役割を貢献できるように今後も他国への呼びかけを継続していきます。
本報告書の策定は,最初に日本提案で発行されたISO/TS 42501:2022(シェアリングエコノミー-デジタルプラットフォームの一般的な信頼性と安全性の要件)の次の規格案の検討から始まりました。TS 42051は,内閣官房IT総合戦略室のシェアリングエコノミー運営のモデルガイドラインを基とした規格であり,シェアリングエコノミーサービスの安全安心な利活用の環境づくりを目指しています。この規格の発行の後,シェアリングエコノミーの標準化によって解決し得る課題は何か,関係各所にヒアリングを行い,国内メンバーで検討を重ねていました。
なお、量子暗号通信に関しては、通信規格を扱う標準化団体との連携も強化しながらAhGでの議論が継続されます。
また、今回の会合に先立って、用語及び量に関するWG9や光関連の用語のプロジェクトチームもすでに構成済です。
この東京会合ですが、せっかく量子技術の関係者が一堂に集まるということで、各国の技術の取り組みを共有するシンポジウムや、つくばにオープンしたばかりの量子技術のビジネス拠点であり、各種量子コンピュータの実機が設置される量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)の見学をプログラムに組み入れました。これらのプログラムは前回、前々回のソウルやエジンバラの会合にはなかったもので、各国のエキスパートは高い満足を頂戴して盛況に終わりました。
量子技術の標準化はまだはじまったばかりです。技術の進展によっては、関連技術をお持ちのみなさまのご協力が不可欠となるかもしれません。その際はご協力よろしくお願いします。私たち量子技術のエキスパートは日本の国益と量子技術のあるべき姿の実現に向けて標準化の観点で貢献を継続していきます。今後ともよろしくお願いします。
図1-JTC 3の体制(新旧)

※前回エジンバラ会合での決定
他にAG(アドバイザリーグループ)1、CAG(議長諮問グループ)がある。
(中村 祐一)
博士(工学)、NEC(日本電気株式会社)主席技術主幹
JTC3国内審議委員会委員長
内閣府量子イノベーション戦略委員
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