NEWS TOPICS

会員向け情報はこちら

SQオンライン

身近にあるJIS K 3362(家庭用合成洗剤試験方法)

2024/07/12

■はじめに

 JIS K 3362とは家庭用合成洗剤という身近な商品を対象とした試験方法に関する規格である。 この度、この JIS K 3362を改正することになったので、この機会にその概要・特徴と改正点について説明したい。

■JIS K 3362の試験項目

 この規格には試験項目として試料採取方法、化学試験、物理試験、洗浄力評価方法が含まれる。 化学試験には石油エーテル可溶分の定量、エタノール可溶分の定量をはじめとして各種界面活性剤の 定性・定量、全リン酸塩、ケイ酸塩、硫酸塩、炭酸塩等の塩類の定量、ゼオライトの定量、 蛍光増白剤の確認試験等が含まれる。物理試験には粒度・見掛け密度、pH値に加えて、 表面張力や起泡力・泡安定度等の界面活性剤の性質に密着する性質が含まれる。 しかし何より特徴的なのは洗浄力評価方法であろう。

■誰もに身近な洗浄力評価

 洗浄力の評価は全世界の人々が経験したことのあるものであろう。 洗濯や食器洗い、手洗いやふろ場での身体を洗う経験から洗浄力について 考えたことのない人はほぼ皆無と言ってよい。 誰もが過去に洗浄力評価を行った経験があるといっても過言ではないであろう。

■感覚的な洗浄力評価の罠

 誰にも身近な洗浄力評価は、汚れの落ち具合の感覚的な記憶をもとに評価するというものが大部分を占める。 しかし、そこには誤った結論を導く罠が多く潜んでいる。たとえば、スポンジを用いる食器洗いでの夏場と冬場の洗浄結果を比較したなら、 冬場が圧倒的に不利になる。汚れ自体が低温・乾燥時には落ちにくくなり、飯粒などはその傾向が著しい。
 また、醤油を垂らした布を洗う実演で市販洗剤液と機能水Aとでどちらも真っ白になって同程度の洗浄力を発揮すると宣伝する情報もあったが、 実は単なる水道水でも真っ白になるので機能水Aには特に優れた洗浄力はないというオチであった。その他、第三者から「よく落ちる」と情報を得たならば、 一般消費者の感覚にはバイアスがかかってしまう傾向がある。条件を定めない洗浄力試験は非常に厄介な結論を導くことになるのである。

■JISでの洗浄力試験

 JISの洗浄力試験は基本的に指標洗剤を定め、その指標洗剤と評価対象である洗剤を用いて同一条件で洗浄試験を行い、 両者の優劣を判定するというものである。汚れの種類によって洗浄メカニズムも大きく左右されるので、汚れの種類によっても洗剤の優劣に違いが生じる場合が多い。
 そこで、JISでの衣料用洗剤の洗浄試験では実際の汚れの中で最も代表的なものである襟垢汚れ(襟部に白布をとり付けて汚染した布)を用い、 それを2分割してそれぞれ指標洗剤と試験対象洗剤を用いて洗浄し、その結果を優劣判定する。
 台所用洗剤の試験では代表的な汚れとして着色油脂汚れをスライドガラスに付着させた試料を用いるが、この場合も指標洗剤との洗浄力比較を行う。

■JIS K 3362の改正点

 この度、JIS K 3362が改正されたが、そのポイントは衣料用合成洗剤の洗浄力評価方法に新たに液体指標洗剤を導入したこと、 衣料用合成洗剤の再汚染防止力評価方法を付け加えたこと、台所用合成洗剤の洗浄力評価方法に使用できる有機溶剤を作業・管理の観点を考慮し追加したことなどが含まれる。
 液体指標洗剤の設定は、近年洗濯用洗剤が粉末タイプから液体タイプへの切り替えが進み、現在では液体洗剤が主流になったという背景による。 粉末洗剤はアルカリ剤を利用しやすいが液体洗剤ではアルカリ剤の使用がかなり制限される。pHを高めると一般にタンパク質、皮脂、 泥汚れなどの洗浄力を高めやすくなるため、所謂頑固な汚れには粉末洗剤が有利となる。一方で、界面活性剤の能力を最大限に活かすという観点において、 液体タイプでは使用性を担保しつつ界面活性剤を濃縮化しやすいため、洗剤使用量を削減・コンパクト化した環境配慮型の洗剤の開発に有利であるといえる。 近年ライフスタイルの変化等で、頑固な汚れを落とすニーズよりも地球規模での環境配慮が重視される流れの中、液体洗剤が主力となってきた。 そのような商品を評価するために、液体の指標洗剤が新たに求められ、この度、導入されたのである。
 また、環境配慮のために水を節約する低浴比型の洗濯機が増えてきたが、低浴比型の洗濯では脱離した汚れが他の衣類に黒ずみを生じさせる再汚染現象が問題になりやすい。 汚れを落とすだけではなく、落ちた汚れによる再汚染を防ぐという性能が非常に重要になってきたのである。 そこで、今回の改正では洗剤の再汚染防止作用を評価するための方法論も採り入れられた。

■おわりに

 今後の洗剤類には洗浄力と環境配慮のバランスが求められるが、日本の洗剤類は技術的には世界のトップランナーに位置づけられる。 関連JISの改正も相まって、今後の益々環境配慮型洗剤の発展に寄与することが望まれる。

JIS K 3362:2008

家庭用合成洗剤試験方法
Test method of household synthetic detergent
原案作成団体:日本石鹸洗剤工業会、一般財団法人日本規格協会

JIS K 3362:2024(家庭用合成洗剤試験方法)規格改正説明会はこちら





大矢 勝
Masaru Oya
横浜国立大学名誉教授
放送大学神奈川学習センター客員教授。日本繊維製品消費科学会会長。JIS K 3362改正原案作成委員会(2008)委員 (2024)委員長。