NEWS TOPICS

会員向け情報はこちら

SQオンライン

サーキュラーエコノミーに関連する国際標準の動き=ISO/TC323サーキュラーエコノミー規格の発行、その役割=

2024/07/02

1.サーキュラーエコノミーの規格発行

 2024年5月、ISO/TC323において検討されていた、サーキュラーエコノミー(CE)の規格が発行された。今回発行されるのはISO 59004(WG1、用語と定義)、ISO 59010(WG2、実施のためのガイダンス)、ISO 59020(WG3、CEの測定と評価)である。今回の規格は、循環経済の定義、評価方法(バリューチェーン)、境界(バウンダリーの設定)に焦点を当てている。循環経済の達成のためには、多数の企業が参加することが不可欠であり、この観点から、今回発行された規格においてバリューチェーンやバウンダリーの概念が整理された。しかしながら、多くの議論が残っており、さらに規格の改定作業が続くと予定されている。
 なお、ISO/TC323においては、今回発行された3つの規格以外にも、ISO 59031(ビジネスモデルとバリューチェーン) 、ISO 59040(データシート)が策定中である。3つの規格の概要は以下のとおりである。
ISO 59004は、循環型経済の原則とビジョンを規定しており、循環型経済への移行を促進するための実装ガイダンスを定義している。この規格の策定作業においては、循環と有害物質含有の関係、定義の範囲などが議論になっている。
ISO 59010は、循環型ビジネスモデルへの移行について規定しており、価値創造モデルと循環フレームワークへの移行に関するガイダンスを提供する。循環経済のためには、複数の企業が連携したバリューチェーンが必要であることから、この点に議論が集まった。
ISO 59020は、循環性パフォーマンスの測定および評価のための要件とガイダンスを規定している。循環性について重要な、システム境界すなわちバウンダリーの設定にも焦点を当てている。

2.ISO以外のサーキュラーエコノミーに関する規格化の動き

(1)欧州においては、CEN/TC473において、欧州のCEのためのフレームワーク、定義、情報共有について検討されている。もともと、サーキュラーエコノミー規格を最初に策定したのは、イギリス規格協会であり、2017年にサーキュラーエコノミー規格、BS8001を策定した。ドイツ規格協会は、のちに述べるように、プラスチックのCEに向けた品質規格の原案を策定している。

(2)米国NISTはASTMと合同でCEについてのワークショップを開催し、いくつかの課題を取りまとめている。

3.プラスチックのCE規格の動き

 CEの定義や概念の規格策定の動きと並行して、具体的な物品のCEに向けた規格策定の動きも進んでいる。ここでは、特に注目されているプラスチックの循環に向けた規格の動きを紹介する。

(1)ISOにおいては、TC61プラスチックにおいて、検討が行われている。SC9(熱可塑性プラスチック)においては、主に容器包装リサイクルを念頭に、ISO18263-1,1(包装に使用されるPP、PEから派生するPPとPEのリサイクル物質)が策定されている。SC14(環境的側面)において、ISO15270(再生プラスチック)規格が改定中である。

(2)欧州CENにおいては、再生プラスチックのスペックのEN規格(EN153427(PS)、15344(PE)、15345(PP))などが策定中である(2025年8月採択予定)。

(3)ASTMにおいては、ASTM WK87117(循環型プラスチックに関する新しいガイド)が策定中である。この文書は、資源の循環フローにおけるプラスチックの開発、製造、回収を支援するための一般的なガイダンス、要件、用語、定義を網羅している。この規格は、プラスチック、コンポーネント、配合成分、入力、およびプラスチックの製造または回収に関連するすべての材料を対象としている。

4.CEの実現に必要な品質管理

 CE社会の構築のためには、リサイクルされた物品の品質管理が重要となってくる。こうした静脈産業の品質管理は、動脈産業のようには行われておらず、品質規格の整備が急務となってくる。今年2月にドイツ規格協会から、再生プラスチックの原料品質についての、SPECが出された(DIN SPEC 91481)。これは、CEに向けた品質管理の先駆的な規格案であるが、かなり厳密な規定となっており、これを実施していくには大変なことにも感じられる。DQL(Data Quality Levels)(品質規格のようなもの)が、そのレベルごとに要求項目が規定されている。例えば、 ・どのような廃棄プラから作られたのか、そのトレーサビリティ ・どの業者が作成したものか ・成形加工や成形品の品質に関わる各種基礎物性 ・添加物の種類や量そして付録Aに記載されている表の項目を全部、あるいは可能な限り埋めることを求めている。

5.CEに関するリサイクルの定義

 リサイクルの定義については、ISO14009の3.2.8~ に定義されており、同じことが、ISO14021の環境ラベルにも定義されている。これを見ると、製造段階の端材、製品であるが使用前のもの、製品で使用後のものが分類されおり、リサイクルに該当するのは使用前、使用後のものであり、製造段階の端材はリサイクルには該当しないとされている。ISO59004などのサーキュラーエコノミーの規格においては、こうした用語が引用されており、59004においては、あらためて定義はされていない。しかしながら、使用前の段階でのサプライチェーンでのどの段階までを含めるか、については、TCにおける議論にもなっている。
 また、ISO策定の過程においても、用語の定義、原則、循環性指標など様々な議論があり、引き続き検討されることが予定されている。

6.今後の動き

 グローバルなサプライチェーンの中で、リサイクルされた材料、部品もグローバルな調達が必要になってくる。そうなると、循環経済の材料、部品の規格も国際標準の中で取引されることになろう。一般に、競争領域にある製品は、規格ではなく、企業の製品仕様が使われる。しかしながら、再生原料のように不特定の事業者が生産する可能性のある製品を使う場合は、製品であっても標準化の必要が発生する可能性がある。
 このように、CE経済は、いままでの、規格と製品仕様の区分を変えるかもしれない。

ISO59004、59010、59020の詳細については、以下を参照。
胡桃澤昭夫(2024)「ISO/TC323(循環経済)の新規発行とその概要」『標準化と品質管理』vo.75.
BSI, (2024) BS/ISO59000シリーズ、循環型経済を組織に導入する方法



一般財団法人 日本規格協会
標準化研究センター フェロー
堀 史郎