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ChatGPTって何?~AI日本最先端の東大松尾研究室に聞いてみた~ 5/5

2023/09/26

5.具体的に私たちの仕事にどうやって使うか考えてみよう

■情報を与えて、整理されたほしい情報を生成してもらうという発想は目からうろこでした。お話をきいていくうちに、ChatGPTは質問に対して何でも正しい答えが返ってくるツールだという感覚でいると、永遠に使いこなすことができない気になってきました。

まさにおっしゃるとおりで、単体で使って全ての正解が返ってくるものではないです。例えば、「人類は両生類だ」という明らかに事実と異なる内容にもかかわらず、その文章自体がインターネット上で流行した場合どうでしょう。先ほどの海の中の一滴の絵の具の話にもどると、「人類は両生類だ」というのは事実ではないが、流行をする、つまりデータとして何度も繰り返し登場するとなると、一滴の絵の具が何滴も海に垂らされるとちょっと濃くなります(つまり重みが増す)。そうなると、ChatGPTは「人間はなんですか?」という質問に対し「人間は~」の後に「両生類」という言葉を選んでしまう可能性もあります。しかしながら、もっとも、インターネットミームは世界中のデータの一握りにすぎませんし、前後の文脈ではインターネットミームであることが分かるようになっているはずなので、出力する際にもインターネットミームであることが分かる文脈でのみ出現する、ということになると思います。

ちょっと期待したいなと思っているのは、真偽判断する場面です。真偽には大きく分けて「論理的に正しい」ということと、「事実が正しい」ということがあると思います。
人間でもAIでも、事実が正しくない(事実誤認)はあるでしょう。AIの場合、論理的な部分は得意です。つまり、正しい事実があれば論理的に正しく推論するのが得意です。
先ほどChatGPTにおカンペを与えると良いと言いましたが、大規模言語モデル(LLM)の中に事前に学習させているデータは学習させればさせるほど重み付けが代わるため、重みが薄らいでいくと「忘れてしまっている」感じなります。しかし、消えてなくなったわけではないので何となく残っている状態です。ですから、カンペを与えることで最新情報の更新もしつつデータベースから動的に引っ張ってきてあげること、これはリトリーブ(retrieve)すると言いますが、そういう観点を持っておくことが大事だと思います。
日本規格協会の所在地と連絡先の情報を与え、連絡先一覧を生成させる。日本史の情報を与え、その中から年表を生成させるなど、参照できる情報があるということは重要です。

■仕事で使うという視点ではどのようなことがポイントになりますか?

ビジネス利用の場合、まずは社内のデータを与えることと、いわゆる一般的な情報が学習できる環境を構築するのが大事だと思います。
ChatGPTはブラウザで簡単に使えるのでそれを利用することは簡単ではありますが、API(Application Programming Interface)を使って自社システムを構築することも、かなり難易度のハードルがさがってきており、そういうプロダクトも提供され始めています。

■実際に、どのような仕事につかえそうでしょうか?

形式的なもの、フォーマットのようなものに入力するという場面などはうまく利用できると思います。
形式が決まったものにインプットするような場合、入れようとしているデータが、そのシステムの形式に沿っているかチェックをしなければなりません。人間がそのチェックを行うのは大変な作業になりえますが、AIは得意だと思います。例えば今の会議(会話)の内容を、このシステムに入れられるように変換してくださいとか、マニュアルに沿ってこの申請書に会社情報を入力してくださいというようなイメージです。

あとはコード言語系のものは得意です。HTMLを書かせるとか、CAD/CAMもコードですよね。あと、プログラミングをしていてエラーがたくさん出てきて解読するのが大変というような時に、どういうエラーなのかを教えてくださいと頼むと便利です。

要約させるのも得意です。それこそ、規格など難解な文章の要点を拾ってもらうなども得意だと思います。この議事録要約してとか、この文章要約してとか、あと、対比も得意化だと思います。この文章とこの文章でどこが変わっているのか差分を教えてというのもあり得るでしょう。過去のデータがテキストでまとまっているのであれば、どういう経緯で何がどう変わっていったのかを抽出させるということもできると思います。

■自分の仕事を思い浮かべてみても、使ってみたい場面はいろいろありますね。議事録を作ってというのは今すぐにでも利用したい気持ちです。それでは最後に、一言メッセージをお願いします。

とにかく、たくさん業務上で使ってみてほしいですね。遊びの場面ではなく、業務の場面で。
日本は自動車産業が盛んですよね。しかし、自動車そのものは日本で発明されたわけではありません。まずは自動車を入手して、乗ってみたり、分解したり、直してみたりと沢山触れてきたことで自動車を作ってみようという話になったり、もっとよい自動車を作ろうということにつながったと思います。

先ほどの話ではないですが、日本規格協会の住所一覧表を作らせるとか、過去の会議の議事録を与えて会議日時と出席者のリストを作らせるとか、そういうことからまずはやってみてはどうでしょうか。

~完~



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上田 雄登
東京大学工学系研究科技術経営学専攻 松尾研究室 学術専門職員
株式会社松尾研究所 経営戦略本部 経営企画 マネージャー

東京大学工学部卒業後、2016年同大学工学系研究科技術経営戦略学専攻修了(松尾研究室)。
その後は、コンサルティングやPE投資を行う株式会社YCP Japan(現 株式会社YCP Solidiance)へ新卒第1号として入社、複数の投資検討、全社戦略策定業務といった経営コンサル業務に加え、AIコンサル業務や投資先の外食事業におけるマネジメント業務にも従事。
2021年4月から松尾研究室の学術専門職員、株式会社松尾研究所の経営企画を担当。新規技術の社会実装についての戦略策定や社内事業の改善に従事。