
HAIIRO DE ROSSI氏に聞く「音楽、アパレル、持続可能性」(前編)
2022/03/11
ISO(国際標準化機構)は2021年9月に開催されたロンドンでの総会において、規格の開発等を通じて気候変動対策へのアプローチを変革し、ネットゼロを達成するための国際的な取組みを推進していくことを宣言しました。日本規格協会グループはこのロンドン宣言を支持し、国内外の標準化活動で貢献すべく、本活動に賛意を表明し、持続可能な開発目標である「SDGs」についても、情報発信を続けています。
コンシャスかつリリシストであるラッパー、HAIIRO DE ROSSI氏がディレクターを務める「forte」。2020年より衣服ロスの削減に取組み、オーガニック、カーボンニュートラル、フェアトレードに配慮を行った商品を取り扱うこのブランドがどのような経緯で衣服ロス削減を考えるに至ったのか、音楽との関係等も含め、お話を伺いました。
持続可能なビジネス
- JSA(以下J):
- 現在はアパレルを展開するアーティストも増えてきていますが、HAIIRO DE ROSSIさんは取り組みがだいぶ早かったように思います。
- HAIIRO DE ROSSI(以下H):
- 洋服を本格的に作り始めたのが2017年です。音楽をやっている人達がまだ洋服とかグッズとかを作っていなかった時期で。ただ、遅かれ早かれ絶対そうなるだろうなっていうのは直感としてありました。
何故かと言うと当時音楽マーケットのあり方が随分変わってきていたからです。CDよりストリーミングの方が主流になってきていて、大きく変わるだろうとなった時に、大体のアーティストなりレーベルが手を出すのがアパレルだろうというのがあって。
これは音楽にも共通しているんですけど、常に「アーリー・アダプター」でなければならない、と思っていて、いち早く取り入れたんです。
最初はアーティストグッズでした。アルバムのタイトルをプリントしたグッズなどを展開していたんですが、このビジネスって初速はあるんですよ。即完売になったりするのは、見栄えはとてもいいんですけど、このビジネスモデルでは長く続かないなと感じて。
何より、購買欲を刺激して即売り切れにさせるやり方では、比重がモノというより人気に偏ってしまいますし。
また、アーティストのファンであれば、いわば妄信的に買ってしまうとも思っていて。これを続けていたらリスナーやファンの財布が疲弊しちゃうっていうのを感じて。
衣服ロスへの取組み
- J:
- 「衣服ロス」の表明をされているブランドはほとんど無い様に思います。ここに注目されたきっかけ何でしょうか?
- H:
- 洋服ってどうしてもサイズの偏りが出てしまい、やっぱり余りが出てきてしまうんです。それを会う人にあげたりしていたんですが、そこから根本的に考え直そうと思ったのがきっかけですね。
当時はまだサステナブルとかSDGsっていう言葉が出る前だったんですけど、色々調べていたら、コーヒーの製造過程でアフリカの人達が安い賃金で使われて、それが凄い高いコーヒーとして売られている現状みたいなものを知って。一時期ベジタリアンみたいなこともやっていたせいか、環境保護に興味があったんです。そこで、コーヒーだけじゃなく、洋服も同じだと思いました。
働いている方に正当な対価が払われていない現状を正した上で、そこにきちんと透明性を持たせた方がこの先長く続けられるんじゃないかと。 - J:
- 持続可能的な思考ですよね。
- H:
- そうですね。どこかにお金がドンってあって、どこかには無いっていう状態は正当じゃないというか、フェアトレードのようなアクションに対して協力することに意味を見出したんです。
2013年ぐらいから、いわゆるハイブランドとか、あの頃って「ラグジュアリー・ストリート」と言われる、Off-White(デザイナー、故ヴァージル・アブローのブランド)とかFear of God(デザイナー、Jerry Lorenzoのブランド)だとかが出てきた時代で、とりあえずそういうのも買って着て、ファストファッションも着て、いわゆるメゾンブランドも着てと、とにかく色々な洋服の作りを知りたくて手段を選ばず着まくった時期があるんです。 - J:
- そうですね。Off-WhiteやFear of Godは私も買っていました。
- H:
- それを2018年ぐらいまで続けて。そこで分かったのが、例えばユニクロってモノがめちゃくちゃ良いんですよね。「安かろう悪かろう」じゃないんです。
なんでそれができるかと言ったら大量に作れるからです。大量に作れるからこそ、さっき言った労働者の問題などに不透明なところが出てしまう部分はあると思います。一方、「ラグジュアリー・ストリート」と言われるブランドはロット数をものすごく少なくしているので、出したら即完売して、「レアモノ」になるような形態を取っています。要は、この間のポジションを取れないかな、と考えたんです。その結果、オーガニックコットンに行き着きました。
着てみて比べると分かるんですけど、僕が扱っているオーガニックコットンはとにかくモノが良いんですよ。ヘタらないし。それの良さも伝えていきたいなと思っています。
着たいものを着て、その背景を知ってそれをリスペクトして、自信を持って着られると、衣類でもずいぶんモチベーションって変わると思うんですよね。 - J:
- オーガニックコットンはどのように仕入れているのでしょうか?
- H:
- forteで使っているオーガニックコットンはインドで作られていて、イギリスの会社から卸しています。インドで作ってイギリスに持ってきてイギリスから日本に送るから結構手間がかかるのですが、この会社はフェアトレードやローカルカーボン等に関して規定がとてもしっかりしていて、forteのホームページを見てもらえば分かるんですが、かなり厳密です。これなら安心だと思い、この会社とやり取りするようになりました。
ただ、オーガニックコットンをそこまで徹底してやるとなると、正直原価率はかなり高くなってしまいます。 - J:
- つまり、利幅は少ないと。
- H:
- はい。ものすごく少ないです。だからforteではオーガニックじゃない製品もまだ扱わざるを得ないんです。それであれば、比較的安価で単純に服が着たい人が着られます。もうちょっと意識の高い方には、値段は張りますが、オーガニックコットンをご提供、という感じですね。最終的にはオーガニックだけで行きたいですが。
- J:
- 衣服ロス削減の取組みとは具体的にどのようなものなのでしょうか?
- H:
- forteでは毎週月曜から日曜日までのオーダーを翌週の月曜にまとめ、翌々週の週末にお届けするサイクルを取っています。
服1着作るのに対してかかるCO2排出量などの環境負荷を微力でもいいから減らしたいと思っています。その代わり、注文が入ってからお届けするまでに時間いただいているんです。 - J:
- 受注生産のような仕組みですね。
- H:
- そうですね。一番大事なのは、お客様の理解を得ることですね。そこにはとても気を付けていて、ホームページでも「最初に必ず読んでください」と書いています。
環境等を配慮した取組みを行っているから、どうしても時間がかかってしまう。これはきちんと説明すれば分かってくれることだから、そこを明確にして、透明性があるブランドにしていけば、長くやれるんじゃないかな。 - J:
- オーガニックコットンの購買層はどのような感じなのでしょうか?
- H:
- オーガニック製品を取り入れてから女性のお客様が増えましたね。簡単に男女比では括れないですが、女性の方が、おしゃれもそうですが、環境などへの意識も高い気がしますね。
もちろん、女性に共感をいただく理由はそれだけではなく、コラボしている相手(Alice Korotova:モデル)もあると思います。日本のファッション誌の表紙に沢山出ている子なので。
2018年頃、恵比寿でポップアップストアをやった時にロシアから彼女がたまたま来てくれて、それから仲良くなりました。
彼女は写真もやっているし、絵も描いていて、「絵が良いから使わせてくれない?」っていう感じでコラボするようになって。2人で色々話し合って、「製品を社会貢献に使いたいよね」みたいな話になりました。
お互い動物が好きだったから、利益の10%を動物愛護団体に寄付したんですが、有難いことにこのアクションに結構共感をいただいて。 - J:
- レーベルでポップアップストアを行うというのも、当時としては珍しい気がします。
- H:
- そうですね。2018年にレーベルでやっていたところは無いと思います。そういうところも、自分がアーリー・アダプターでなければならない、って意識と繋がっていますね。
アーリー・アダプターであって、それが定番化した時にはもうそこには居ないっていうのが俺の理想で。音楽ではそれが良くも悪くも出来ちゃっていて。よく人から、「出てくるのが10年遅かったらめちゃくちゃ流行ってたよね」と言われます。 - J:
- なるほど。
- H:
- ただ俺は、富とか名声とかの面で言えば損したかもしれないけど、アーティストとしてのアティチュードとしては間違っていないと思っていて。
それで良かったと思っているし、それもアパレルに持ち込もうと思って。
だから両方アーリーであって、それがスタンダードになった時にはもうそこに居なくて、次の事をやっている…これを意識していますね。常に「誰もまだやってないことをやってすぐいなくなる」みたいな。
そういえばカセットテープをリリースする時にカセットプレイヤーもオリジナルで作ったりしましたね。それも当時は新しい方なんじゃないかな。 - J:
- 居なくなった後にその場所はスタンダードになると。
- H:
- そうそう。アーリー・アダプターがいて、トレンドがあって定番になるっていう流れですが、トレンドになっていることをやっても俺の中ではしょうがなくて。
そこまで冷静に見る人はいないかもしれないけど、後々歴史として見た時に「あの人ってもうこの段階でこれをやっていたんだ」っていう話になりますから。
HAIIRO DE ROSSI

HIPHOPアーティストHAIIRO DE ROSSIとして活動。 21歳の若さでSlye Recordsからデビューし、二枚のシングル、二枚のスタジオアルバムを経て独立(レコードやシングル、客演等のディスコグラフィは100曲を越える)。独立後に発表した3枚目のアルバム『forte』がHIPHOP界のみならず賞賛を得た。また尖閣諸島の問題について発表した曲や震災後の復興支援で使われた曲等はYahoo!ニュース等で取り上げられ、文化雑誌等からの オファーも相次ぎ、活動家としての一面も併せ持つ。 その後体調不良による約二年半の活動休止を経て2014年5月に復帰作として発売したシングルがオリコンインディーズチャート9位を記録。 同年11月末に発売された最新アルバムも各媒体で高い評価を得た。その後、日本人に向けた別名義でのプロジェクトを経て、2019年に原点回帰の6thアルバムを発売。自身のアパレルブランドなどの展開も活発で、着実にファンを増やしながらハイペースで制作を継続。そして2020年ついにセルフタイトルの7thアルバムを発売。同年11/21には表参道WALL&WALLで初のワンマンライブを成功させる。翌年2021年には8thアルバムとなる『The Time Has Come』をアナログ盤でリリースした。その後、反響を受けアルバムのデラックス版もCDで同年にリリース。

HIPHOPアーティストHAIIRO DE ROSSIとして活動。 21歳の若さでSlye Recordsからデビューし、二枚のシングル、二枚のスタジオアルバムを経て独立(レコードやシングル、客演等のディスコグラフィは100曲を越える)。独立後に発表した3枚目のアルバム『forte』がHIPHOP界のみならず賞賛を得た。また尖閣諸島の問題について発表した曲や震災後の復興支援で使われた曲等はYahoo!ニュース等で取り上げられ、文化雑誌等からの オファーも相次ぎ、活動家としての一面も併せ持つ。 その後体調不良による約二年半の活動休止を経て2014年5月に復帰作として発売したシングルがオリコンインディーズチャート9位を記録。 同年11月末に発売された最新アルバムも各媒体で高い評価を得た。その後、日本人に向けた別名義でのプロジェクトを経て、2019年に原点回帰の6thアルバムを発売。自身のアパレルブランドなどの展開も活発で、着実にファンを増やしながらハイペースで制作を継続。そして2020年ついにセルフタイトルの7thアルバムを発売。同年11/21には表参道WALL&WALLで初のワンマンライブを成功させる。翌年2021年には8thアルバムとなる『The Time Has Come』をアナログ盤でリリースした。その後、反響を受けアルバムのデラックス版もCDで同年にリリース。