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2.5次元ミュージカル~スタンダード化と世界普及への挑戦 プロデューサー  片岡義朗 

2020/06/25

僕が、どうしていわゆる2.5次元ミュージカルを僕の独自の方法で作り始めたのか。
どうして2.5次元ミュージカルが、僕が作り始めた方法がベースになって今や日本の娯楽の一つのジャンルとして定着し、年間300万人ともいえる観客を動員するまでになった、のかを僕なりの仮説としてここに提示しておきたい。

初めに言いたいことは、僕は舞台つくりの常識は破ったが、ミュージカルの型式=フォーマットは守った。

僕が1991年8月にSMAP主演で作った「聖闘士星矢」@青山劇場、
2000年12月のアニメ声優たちに声で演じたキャラクターを舞台上でも演じてもらった「HUNTER×HUNTER」@新宿スペースゼロも、そしてついにブレイクして一般の人も観に来てくれるようになった
2003年4月の無名の新人俳優たちで作った「テニスの王子様」@池袋芸術劇場中ホールでも、僕が意識したことの第一は、今までのミュージカルや演劇の常識は信用しない、新しい基準で作ろう、だった。

それは日本でも世界でもミュージカルの世界での常識とは、舞台上では俳優の技術は完璧が求められる、歌唱力のない俳優は舞台に立てない、ダンスが踊れない俳優は舞台に出てこられない、セリフをきちんと発声できない役者は役者ではない、稽古場で仕上げて初日公演では完璧を見せる、だった。
こんなこと誰が決めたんだ、って思った。これが観客が求めているものだったら、それはそのような俳優と観客たちに任せておけばよい、でも自分が目指していたものは、漫画アニメ世界の再現だった。技術が稚拙でもキャラクターに見えればよい、初日にできていなくてもやっているうちに成長し完成度は上がる、で何がいけないんだ。

キャラクターが好きになった漫画アニメファンをさらに、その世界にのめりこんでもらうために、その世界に浸ってもらいたいがために作る、漫画アニメファンに向けたミュージカルを作るんだ、音程が取れなくても、1番から5番のポジションを知らなくても、セリフがはっきりとは聞き取れなくてもいい。セリフは観客が知っている、いつものあのセリフだとキャラクターの決めセリフはすでに頭に入っている、もごもごでもいいんだ、ただし思いっきり叫べ、体全身でそのキャラクターになり切れ、汗をかけ、全力で走れ、とほとんどが何の経験も持っていない俳優たちに何度も念を押した。
観客が求めていたものは自分の好きなキャラクターが目の前に現れることで、俳優がそのキャラクターになり切ってくれていれば、あとは二の次になる。なり切ることに誠実であるかどうか、漫画アニメのキャラクターと同じ熱量がその俳優たちにあるか、舞台上にファンである観客たちがいつも接している漫画アニメ世界と同じ熱量を感じられるか、舞台上に自分の好きな漫画アニメタイトルへの愛があるか、そこが最大の関心事であるはずだ。
この1点で僕は、漫画アニメミュージカル=2.5次元ミュージカルを作り始めた。
それまでは日本でも世界でも、漫画アニメのファンに向けて、ファンの望む題材をファンの望むキャラクター重視の方向でミュージカルを作るということは、エスタブリッシュされた舞台の世界では常識ではなかった。
外国では話題の「オペラ座の怪人」「マンマミーア」「キンキーブーツ」「ミスサイゴン」「エビータ」でも日本ではそれを知っている人は一部に限られる。オリジナルの脚本でも身近な題材を扱ってはいるかもしれないが知られていないと話題が回らない。
TVアニメのミュージカル化であれば、観劇後に学校に行き「昨日、テニミュ観たよ」と言えば、クラスの友人が「越前リョーマ、ってどうだった、ちゃんと目玉大きかった、生意気なクチきいてた?」と会話が弾む。娯楽の広がりに必要な、旬の話題が詰まっている。テーマに普遍性が必要なことは言うまでもないが、その語り掛けを旬の話題で振らないと伝わらない。
「テニミュ」で言えばスポーツの持つ勝った負けたのドラマ、勝者の寛容/敗者の美学・ノーサイドの精神が普遍のテーマで、スポーツ選手に汗と泥まみれを廃しクールなイケメンを配置したことが旬の切り口だった。それらが羽生結弦君や錦織圭君の登場前で時代を先取りし、漫画は時代の前触れの役割を果たした。この例に限らず、時代の旬を感じる一番身近な共通の話題は、今や日本の青年層ではそれは漫画アニメの世界の出来事となるだろう。

作り方や題材は常識に反したものにするけど、ミュージカルとして成立させるほうが多くの大衆には見やすいはずだ。ミュージカルの表現形式は、感覚のレセプターが視覚・聴覚・体感が働くので音楽とダンスがある分、脳内への伝達チャンネルが多い、ストレート演劇より有利で黙ってみていれば自然に楽しめるようにミュージカルは作られている。だからミュージカルのフォーマットに則って作るほうが良い、と考えた。
そのために、ミュージカル「テニスの王子様」(原作:許斐剛)では、ミュージカルの世界ですでに活躍している人たちをスタッフに迎えた。演出・振り付けの上島雪夫さんは劇団四季のダンサーから振り付けで退団し宝塚と東宝ミュージカルの振り付け担当というキャリア、作曲の佐橋俊彦さんは東京芸大作曲科卒⇒劇団四季でオーケストラ譜面の作成担当、脚本の三ツ矢雄二さんはアニメ声優であり、自身でも劇団持ち脚本・演出も手がけるブロードウェイ観劇オタク、を選任し、主要3スタッフと僕ともう一人のプロデューサー松田誠くんの共通認識として、ちゃんとしたミュージカル作ろう、を共有した。

オペラから始まりオペレッタを通してミュージカルが生まれた、その誕生からでいえばすでに100年以上の歴史があり、その間に表現は洗練され、定着し、完成された型式として整っている。
具体的に言えば、オーバチュア⇒序曲が奏でられる⇒その序曲に乗って世界観が提示され⇒人物の登場≒紹介があって⇒物語が始まる⇒1幕の終わりは希望・不安・恐怖・熱気などの感情の昂りで終わる⇒休憩⇒トランスアクション(気分転換)軽い話題の別場面から2幕が始まる⇒物語が語られ⇒カタルシス⇒大団円⇒エピローグ⇒カーテンコール(俳優が登場人物から俳優自身に戻る)という流れだ。
音楽でいえば、主旋律のリプライズ、主観の詞の主旋律の歌唱、客観の詞による情景描写と場面転換、感情表現のあるダンス、といったような事柄が気を付けるべき型式の実際だと思う。
このフォーマットに則って表現されていれば、ミュージカルを観たことがない人も見慣れた人も、ミュージカルがそもそも持っている見やすい演劇という本来の力を発揮してくれるはずだ、と思った。

だからミュージカルの持っている型式は守ろうと思った。
結果は、この仮説の通りの筋道かどうかは不明だが、大衆娯楽として定着した。

僕は自分の好きなアニメ作品のミュージカル化で世界に出て行きたかった。
いまやそれは原作の持っている創作の力もアニメの制作陣が頑張ったことも相まって「テニスの王子様」「美少女戦士セーラームーン」「黒執事」「弱虫ペダル」「刀剣乱舞」をはじめいろいろなタイトルで現実になった。
それ以上に日本で初めて成立した2.5次元ミュージカルが、世界中のココロのピュアな人々の娯楽のスタンダードになる、それがもうすぐそこに見えている。



片岡義朗 プロデューサー

1945年生まれ
慶應義塾大学法学部法律学科卒(1969)、(株)アサツー・ディ ケイ(現ADKホールディングス)(1982~2000)、㈱マーベラス取締役(2000~2009)、㈱ドワンゴ執行役員(2010~2013)、(株)コントラ 代表取締役社長(2014~)

各社でアニメ&ミュージカルプロデューサーとして作品の企画・製作、アニメ製作委員会の組成と運用、商品化許諾、海外販売、映像パッケージ販売、音楽著作権管理、イベント実施などアニメビジネスとその2次利用展開などの業務を実施。
アニメプロデューサーとしては、「タッチ」「ハイスクール!奇面組」「蟲師」「ガンスリンガーガール」「HUNTER×HUNTER」「クレヨンしんちゃん」「遊戯王デュエルモンスターズ」「家庭教師ヒットマンREBORN!」「ラムネ40」「CAPETA」「キテレツ大百科」「こちら葛飾区亀有公園前派出所」「るろうに剣心」「BECK」「ジパング」「スクールランブル」「さすがの猿飛」「餓狼伝説」など約140作品をプロデュース。

2.5次元ミュージカルプロデューサーとしては、「テニスの王子様」「HUNTER×HUNTER」「美少女戦士セーラームーン」「聖闘士星矢」「少女革命ウテナ」「ギャラクシーエンジェル」「DEAR BOYS」「こち亀」など約50作品をプロデュース。日本で初めてアニメファン向けに「聖闘士星矢」(1999)をSMAP主演でプロデュースしその後も作り続け、2.5次元ミュージカルという分野を創りだした。
現在は、㈱コントラとしてアニメビジネスコンサルティングとアニメ「Under the Dog」(2017)「臨死‼江古田ちゃん」(2019)、ミュージカル「ホリエモンのクリスマスキャロル」(2018)「監獄学園」(2018)などをプロデュースしている。