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カーボンフットプリント(CFP)に係る国際標準と各国の動き

2024/09/12

1. 背景

 先月レポートでもふれたように(注1)、欧州エコデザイン規則が7月に公布されるなど、環境情報の開示が求められるようになっている。この中で、製品単位の排出量である、カーボンフットプリント(以下、「CFP」)の計算、開示について、その国際標準や各国の政策の状況について解説する(注2)。

2. 国際標準の動き

 CFPに取り組む企業の多くはISO14067:2018 又はGHG Protocol Product standardのどちらかを参照している。しかし、これらの国際ルールには解釈の余地があり、それを補完する算定ルールのひとつとしてPathFinder Framework60がある。PathFinder Frameworkは、WBCSDが、より正確なCFPの算定・交換を目指すために作成し、方法論的ガイダンスを示している。
 PathFinder Frameworkにおいては、排出量算定における方法論として、「Product specific rules(PEFCRやPCRが該当)」「Sector specific rules」「Cross sectoral rules」の順で採用すべきというヒエラルキーアプローチを提示しており、ISO 14067:2018やGHG Protocol Product Standardについては十分に具体的ではないガイドラインとして紹介している。Frameworkでは、原則的に1次データを利用すべきとし、1次データが利用できない場合のみ2次データの利用も排除されないとしている。また1次データは、自身より一つ上流のサプライヤから提出を求め、サプライチェーンを一階層ずつ遡ることで可能な限り正確な1次データの積み重ねを目指している。また、データ連携としては、PathFinder Networkがある。

3. 欧州の動き

計算方法に関して、次の動きがある。
(1)まず、PEFCRである。欧州委員会は、2021年12月に環境フットプリントに関する勧告を出した。この中で、PEFCRが存在する場合は、「その製品区分に属する製品の環境フットプリントを算出する際にPEFCRを使用する。」とされる。PEFCRは:1.充電式バッテリー、2.装飾用塗料、11.建築用断熱材、12.T-シャツ、13.無停電電源装置、など21分野で策定済みであり、以下の分野に注力している。アパレルと履物/飲料/化学ベースの最終製品/建設製品/電気・電子機器/食品(非食用製品を含む)/素材と中間製品/エネルギーの生産と伝達。
(2)BP(バッテリーパスポート)において、開示項目が示されており、そのうち、CFPについては、Annexに記載の方法でLCAを開示すべき項目として記載。このCFPの計算方法は、欧州が策定したPEF及び、PEFCRと整合性をとることが推奨されている(バッテリーパスポート改正指令、AnnexⅡ)。加えて、国際的な慣行と異なるCFF(サーキュラーフットプリント)が規定されている。これは、廃棄物が発生するライフサイクルでの報告が求められる。

4. 中国の動き

 6月5日、中国生態環境部は、低炭素サプライチェーンの構築を目的としたカーボンフットプリント管理システムのプログラムを発表した。この生態環境部のプログラムは、国内のカーボンフットプリント管理システムを確立するための初の国家レベルの政策である。このプログラムの目標は、国際基準に準拠した製品カーボンフットプリント(PCF)会計の一般基準を確立することで、2027年までに主要製品約100件、2030年までに約200件のカーボンフットプリント会計基準を定義する。PCF計算係数のデータベースとPCF認証および管理システムの基盤は2027年までに構築し、2030年までに完全に運用化される予定。カーボンフットプリント計算の一般的な基準の開発と、電気、石炭、天然ガス、燃料油、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、水素、石灰、ガラス、エチレン、アンモニア、メタノールなどの主要な商品や製品に焦点を当てた特定の基準の策定が含まれる。さらに、リチウム電池、電気自動車や燃料電池自動車、太陽光発電、電子機器などの複合製品に関する基準も開発される。カーボンフットプリント情報を開示するためのシステムの実装方法も確立される。
 中国は、国内のカーボンフットプリント制度を整合させるため、カーボン国境調整メカニズム(CBAM)やPCFに関する国際基準など、世界的な炭素関連貿易政策に整合化を目指し、また、カーボンフットプリント規則の相互承認を目指し、国際的なカーボンフットプリント基準と慣行の開発と形成において積極的な役割を果たす。と述べている(注3)。

5. CFPの構成要素

 そもそも、CFPには、①コミュニケーション、②計算方法、③データベースの3つの要素がある。
 このうち、いままでは、上記②の計算方法の議論を主に紹介してきたが、実は、③データベースも重要である。すなわち、計算においてどのようなパラメータを使うのかということである。パラメータとしては、生データを使う方法(一次情報)、データベースで記載のパラメータを使う方法(二次データ)の2つの方法がある。二次データとしては、国際的には、Ecoinventが最も使われ、日本の産総研が構築したIDEAも認められている。
 CFPの計算やデータベースは、業界ごとに特有の事情があり、業界別の取組も行われている(化粧品のEcoBeautyScore Consortiumなど)。こうした業界ごとの動きは、ISO14067:2018 又はGHG Protocol Product standardを参照しつつ進められている。
 ①コミュニケーションは企業が算定したCFPを社会に認めてもらうことであり、世界的にはEPD internationalがあり、日本のSuMPO環境プログラムもこのための手段である。

6. 今後の動き

  • 今後、CFPの情報開示は、欧州DPP(エコデザイン)などでも義務化されていく。DPPに関しては、今後、製品ごとの実施細則が制定されると見込まれており、こうした実施策則上でCFPの計算がどのように規定されるか注目したい。
  • CFPの認証の動きが進んでいる。もともと、ISO14067は、BSIが主導したPAS2020がもとになっており、その認証もBISと連携するカーボントラストが主導した。欧州では、TUV, SGS, DNV, Bureau VeritasなどがCFP認証を行っており、環境ラベリングについても(フランスでの食品へのCFP表示などが進んでいる)動向を注目したい。
  • 欧州炭素国境措置(CBAM)において、対象製品の排出量の報告が始まっている。その場合、製品別の排出量をCFPとして計算しなければならない。



JSAグローバルリサーチセンター フェロー
堀 史郎

(注1)欧州エコデザイン規則の公布及び国際標準化の動き、
https://webdesk.jsa.or.jp/common/W10K0620?id=1280
(注2)この項の多くは、海外標準化動向調査「環境政策に関連する標準開発に関与する組織マッピング」日本規格協会(令和5年度経済産業省委託調査)による。
(注3)Climate Cooperation Chinaなどを参照
https://climatecooperation.cn/climate/establishment-of-carbon-footprint-management-system/