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第1回 ISO26000の10周年に寄せて -消費者政策における標準化の視点から-

ISO 26000発行10周年記念

第1回
ISO26000の10周年に寄せて -消費者政策における標準化の視点から-

1.ISO2600の発行から10年

 ISO26000「社会的責任に関する手引」が2010年11月に発行されてからちょうど10年が経過した。
 ISOにおける社会的責任の標準化の議論は、さらに10年ほどさかのぼる、2001年4月、ノルウェイのオスロで開催された国際標準化機構の消費者政策委員会(COPOLCO)総会の際に、イスラエルSIIからの社会的説明責任についての標準化の提案を受けて、ISO理事会から企業の社会的責任の標準化の要否についてCOPOLCOで検討することが求められた。
 翌2002年5月、トリニダード・トバゴのポート・オブ・スペインでのCOPOLCO総会は、COPOLCOの「グローバル市場における消費者保護WG」における1年間の検討結果とワークショップでの議論を踏まえて、マルチステークホルダーの下でさらに検討することを理事会に勧告した。
 ISO技術管理評議会の下に設置された高等諮問委員会は、1年半の討議を経て、2004年4月に、対象を営利企業に限定しないこと、適合性評価の対象となる認証用規格とはしないこと、企業と消費者以外のステークホルダーも加えたマルチステークホルダー・プロセスで作業を進めること等を答申し、同年6月にスウェーデンのストックホルムでの多くの関係者が集まった会合において、開発作業を開始すべきとのコンセンサスが形成された。

 その後、新規項目提案が可決され、技術管理評議会直属の社会的責任WGにおいて具体的規格づくりをスタートさせた。日本は、新規項目提案に際しては反対票を投じたが、賛成多数でWGが動き出すと、積極的関与の方針をとり、WGの執行部にも2名を送り込んだ。
 そして、2005年3月のブラジルのサルバドールでの第1回WG総会を皮切りに、具体的な開発作業が開始された。

2.ISO2600の開発プロセスの特徴と意義

 筆者は、国内委員会の委員長として日本の意見をまとめる作業を行うとともに、WGのエキスパートとして国際審議にもかかわった。いろいろな意味で、ISO26000の開発作業は、従来のISOの作業からは異例であった。

 人権や労働といったISOによる標準化の対象でなかった項目を含むという課題の広範さを反映して、WGには、加盟各国から、産業界、労働、消費者、政府、NGO、その他の6つのステークホルダーから各1人のエキスパートを派遣することができるとされた。
 エキスパートは各国の代表であるが、同時に国際的ステークホルダーグループのメンバーともなり、ステークホルダーごとの意見の集約にもあたった。また、WGの議長や事務局、各分科会の座長は、先進国と途上国がペアになって行うこととされた。

 WGでは、2005年3月の第1回総会から、2010年5月の第8回総会まで、アフリカを除く、南北両半球の4大陸にわたって、毎回数百人規模の会合をもった。
 ISOでは、国際規格は作業開始から3年で完成させ、それができない場合は中止するというのが原則であるが、例外的に長期間の作業が継続された。
 このようなマルチステークホルダー・プロセスにおける合意が最終的に成立したことは、その成果物としての国際規格の内容面においてだけではなく、そのプロセス自体が地球規模レベルにおける社会的実践としての大きな成果である。

3.ISO26000と消費者政策

 ところで、筆者のように、消費者政策・消費者法の世界から、標準化の世界に入ってきた者にとっては、ISO26000はそれ単独でのみならず、その発行前後の他の動きとも合わせてみることによってその意義がいっそう明らかとなる。

 消費者問題とは、事業者と消費者との間の情報や交渉力の格差、さらには消費者が生身の人間であることから生じる問題であり、その点を行政が認識した上で展開する施策が消費者政策である。すなわち、消費者問題のステークホルダーは、事業者、消費者、行政の3者である。
 2009年の消費者庁・消費者委員会の設置は、これら3者の1つである行政のあり方を、縦割りから横割りに一元化することによって変えるという意味を持っていた。
 他方、2010年のISO26000の発行は、7つの中核主題の1つとして消費者課題を含んでおり、事業者のあり方を変えるという意味をもつ。

 さらに、2012年に成立した「消費者教育の推進に関する法律」は、消費者教育の内容として、消費者市民社会の形成に消費者が参画することへの理解と関心を深めることを含むと明記している。
 そして、「消費者市民社会」を「消費者が、個々の消費者の特性及び消費生活の多様性を相互に尊重しつつ、自らの消費生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に影響を及ぼし得るものであることを自覚して、公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画する社会」(同法2条2項)と定義している。
 これは、まさにISO26000の消費者版であり、消費者の社会的責任を宣言するものといってよい。

4.そして国連SDGs

 日本において、ISO26000制定の前後わずか3年ほどの間に、3つのステークホルダーに変革を迫る大きな動きが生じたことは、特筆されてよい。
 このような流れの上に、すべてのステークホルダーにかかわるものとして、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」が現れている。
 SDGsの知名度はISO26000を上回るが、その多くはISO26000にすでに取り入れられていたものである。

【執筆者】
一橋大学名誉教授・独立行政法人国民生活センター顧問
松本 恒雄


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