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第3回 ISO26000にみる責任の概念

ISO 26000発行10周年記念

第3回
ISO26000にみる責任の概念

 CSRはcorporate, social, responsibilityの3つからなるが,その中で中核をなす用語はresponsibility(責任)である。しかし,CSRの世界において,この最も鍵となる用語は,これまで必ずしも明確に定義されてこなかった。
 たとえば,CSRという略語が世界に普及するきっかけとなったEUの欧州委員会の2001年のグリーンペーパーは,冒頭の一文で,「企業の社会的責任は,本質的に,それによって,企業がよりよい社会やよりクリーンな環境に自主的に貢献すると決定する概念である」と定義している。しかし,これでは自主的な社会貢献活動や環境改善活動と責任を区別することはできず,責任の本質的な意味が明確にされているとは言えない。これはEUの文書だけに限らず,CSRに関する多くの提言やガイドラインにも共通している。
 しかし,EUのグリーンペーパーからほぼ10年後に刊行されたISO26000はこの点について,注目すべき踏み込んだ議論を展開しているのである。特に重要なのは,「社会的責任」について論じた3節の中の以下の説明である。

「社会的責任の本質的な特徴は,社会及び環境に対する配慮を自らの意思決定に組み込み,自らの決定および活動が社会および環境に及ぼす影響に対して説明責任を負うという組織の意欲である。」(3.3.1節)

 ここで重要な点は,「責任」を「意欲(willingness)」であると捉えていることである。通常,責任とは誰かによって課せられた義務のように理解されやすいが,英語のresponsibilityは,response(応答する)とability(できる)の合成語であることから分かるように,応答するという主体的な意欲がその基本にある。 割り当てられた義務であれば,それを果たせば終わりである。
 しかし,意欲であれば,果たせば果たすほど,次へ向けた意欲が生まれてくるであろう。つまり,責任とは,本来,果たせば果たすほど増えていくものなのである。これが責任の本質で,ISO26000はこの点を的確に捉えている。そして,続いて以下のようにさらに詳しく説明する。

「社会的責任は,社会の幅広い期待の理解を必要とする。社会的責任の根本原則は,法の支配の尊重および法的拘束力を持つ義務の遵守である。しかし,社会的責任は,法令遵守を超えた行動および法的拘束力のない他者に対する義務の認識も必要とする。これらの義務は,広く共有される倫理,その他の価値観から発生する。」(3.3.2節)

 上記の説明の前半部分は,法律に基づく責任を議論しており,これは遵守の範囲が明確に規定されているもので,一般にはコンプライアンスと呼ばれるものに相当するであろう。それに対して後者の「法的拘束力のない他者に対する義務の認識」は,法律に書きこまれているものではないため,予め範囲を限定することができないものである。したがって,前述の自らの「意欲」でその範囲を決めるべきということになる。
 このようにISO26000は,責任を,外部から与えられるものではなく,社会で共有されている倫理や価値観を考慮して,組織自らが決定すべきものとして捉えている。このような理解は現在世界で注目されているパーパス経営とも通じるものである。それどころか,わざわざパーパスなどと言い換えなくても,ISO26000で規定されている責任を履行すれば,自然とパーパス経営が実現できるようになるはずである。
  パーパス経営の重要性を強調するハーバード大学のヘンダーソン教授は,『資本主義の再構築』の中で,パーパスは「あなたという人間の一番深い部分と一致していなければならない」と指摘している。人間に一番深い部分から出てくるものそれが意欲の源であることは明らかで,その意味で,パーパスと責任は同じことの違う表現にすぎないと言えよう。
  ちなみに,ISO26000は説明責任(accountability)についても,「決定および活動に関して,組織の統治機関,規制当局およびより広義にはそのステークホルダーに対して,責任のある対応のとれる状態」(2.1節)であると定義しており,これも注目すべきである。「責任のある対応のとれる状態」は,state of being answerableの訳で,answerableを「責任のある対応のとれる」とするのはやや訳しすぎの感があるが,accountabilityを状態(state)と定義していることは卓見である。
  通常の理解では,説明責任は情報開示行為そのものを指すように理解されているが,説明責任は行為ではなく,それを可能とする状態であると理解することで,意欲から行為に至るresponsibilityと,行為の前提であると同時に結果でもある状態を意味するaccountabilityの関係が明確になっている。
  CSRの世界では,人権問題や気候変動あるいは地域課題など,個別の問題ばかりが注目される傾向が強いが,それらの問題が法律の範囲を超える課題であれば(われわれが現在直面しているのはそのような課題ばかりである),それに対処するための組織の姿勢が問われることになる。その姿勢の在り方を示す概念が責任なのである。
  CSRの最初の一歩として,すべての組織が,責任の本質を突き詰めて考えなければ,すべての行為は表層的なものに終わってしまうであろう。ISO26000は,この点で今もなお最高の指針のひとつである。

本コラムは次回で完結です。掲載は6月下旬を予定しています。

【執筆者】
神戸大学大学院経営学研究科教授
國部 克彦


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