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ドゥー氏に聞く「MPC、ものづくり、標準化」(前編)

2023/01/06

近年、製造業のデジタル化など、日本のものづくりに大きな変革が起きようとしています。「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉も登場して久しい状況ですが、一方で「何を行えばよいのかが分からない」という声もよく耳にします。

従来より、当会の記事では、フランスの経済学者であるジャック・アタリの言葉「音楽は予言的であるが故に来たるべき時代を告知する」を引用し、そのヒントを探っています。
そこで、今回はCreativeDrugStoreに所属するプロデューサー/ ビートメイカー/ DJであり、『Newsweek』などのメディアでも採り上げられた「人肉アイテム」を展開するdoooo(ドゥー)氏に、「MPC、ものづくり、標準化」と題し、ものづくりへのヒントとなるお話を伺いました。

MPCでの楽曲制作

JSA(以下、J):
音楽をものづくりと考えると、ドゥーさんがやられているMPCでの楽曲制作はまさにここに該当すると思います。実は昔私も2000XLを持っていたのですが、難しくて断念しました…。
サンプラーと呼ばれる機材のこと
ドゥー氏(以下、D)
MPCって最初は難易度高いですよね。昔の機材は説明書がまず難しい(笑)。概念を理解するのも難しいんですが、一度理解できるとスムーズです。といいつつ、そこに至るまでが長くて、自分も2年ぐらい寝かせてた気がしますね。
J:
ヒップホップにおいて、サンプリングは重要な要素だと思うのですが、これはものづくりにも活かせる気がしています。その辺のお考えはいかがでしょうか?
D:
無意識のうちに誰でもサンプリングに近いことはやってると思いますね。気になったものの一部分を自分の作ることややる事に取り入れるみたいなことです。サンプリングで音楽づくりをするという事を一番分かりやすく全面に出してるのが、MPCだと思います。サンプリングしてビートを作る機材として浸透していますので。
J:
私は最初にヒップホップを聴いた時、サンプリング含む、ヒップホップの「構造」が面白いなと思い、それがのめり込んだきっかけでした。
サンプリングに関するドゥーさんのアプローチをお聞かせください。
D:
先ほどお話ししたとおり、MPCとかヒップホップだと、サンプリングって一つの文化としてあるから、サンプリングだけで全部曲を作ったり、ワンループでヤバいビートを作るみたいなことも当然あると思うんですけど、最初はそれがあまり好きじゃなかったんですね。
自分の名前で作品を作るんだったら、もっと自分の手を動かして色々詰め込んだものの方がいいんじゃないかと考えていて。だから最初は、サンプリングをなるべくせず、したとしてもサンプリング元の原型がなくなるくらい、めちゃめちゃに変えたりとか展開とかもいっぱい付けてました。ファーストアルバムはそっちの方が多かったりします。

だからシンセサイザーとかもガンガン使って、ほぼシンセの曲の方が多かったりして。
でもこの前セカンドアルバムを出したんですけど、そっちはもう敢えてというかシンプルなことをガンガンやりました。

人がやっていないことをやる

J:
もともとはサンプリングは好きじゃなかったんですね。
D:
そうですね。僕は岩手出身なのですが、岩手でDJをやってる時はあまりヒップホップをかけなかったんですよ。生音のソウル、ファンク、ジャズやダンスミュージック、テクノとかハウスだったりいろいろなジャンルのレコードが好きだったのと、周りにヒップホップをかけるDJが多くて意図的にかけてませんでした(笑)。
J:
生音系だと繋ぐのが難しいんじゃないでしょうか?
D:
そうですね。その時からかもしれないですけど、人がやってないことをやるのが好きだったので。今でこそ色々な先輩方やカッコいいDJを知れましたけど、ソウルだけとか、ソウルから始まって中盤でダンスミュージックで繋いで、また締めで違う雰囲気にするっていう、そういうミックスで、一つの自分を出すような人って、クラブに通う前は周りにはいなかったので、そういうのをやろうと思ったんです。
J:
DJって要は人の楽曲を繋げていくわけですが、それでも個性が出るというのが不思議だと思います。
D:
たしかに。同じ職業とは思えないみたいなのが結構あるんで。DJって。
J:
といいますと?
D:
ほどんどの人が2台のターンテーブルかCDJとミキサーでDJやると思うんですけど、誰だか一発で分かる人と、そうでない人っているなって思ってて。例えば、KENSEIさん(DJ KENSEI)とかは、ビートもそうですがDJでもすぐ「KENSEIさんだ」って分かる気がします。

DJに考えるロイヤルカスタマー

J:
前に何かのインタビューで読んだのですが、KENSEIさんが「さて、今日も帰すか」といって、「お客さんをフロアーから帰すDJをする」って言っていて、「なるほどな」と思いました。

企業で考えた場合、顧客はたくさん作りたいわけで、DJの場合でいえば、なるべく多くの人に来てもらって、踊って(楽しんで)もらうというのが一つのアプローチだと思うのですが、一方で、企業としては、単に数を追うだけではダメで、熱心なファンを作りたいのですね。その時には、KENSEIさんが言う、「フロアーからお客さんが出て行ってしまった」としても、それでも残った人たちはとても重要なお客さん、つまりそれが企業でいう「ロイヤルカスタマー」なんじゃないか、と気づかされたといいますか。
D:
今聞いて気づかされました。昔から大好きなDJや先輩で今も前線で変わらず面白い事できている人って凄いなって思ってて。昔よく聞いてたMIX TAPEやMIX CDを聴き返すとまたDJ聴きたいなと思ったりするんですけど、今はもう昔ほど活動してない人だったりするので。KENSEIさんは今クラブでDJ聴いても昔から好きなKENSEIさんで、しかも新しいこともやっていて凄く好きです。

DJって一言でいうけど、その人のDJみたいなのをKENSEIさんは、めちゃくちゃカッコよくできてる方だなって、後輩なりに見させてもらって思います。
黙々とカッコいい事やる人好きです。

DJとオフィスワークの共通点

J:
仕事について、私はDJをよく例に出します。DJは基本フロアーを沸かせる、割と黒子的なイメージがあって、私は最初総務部門に配属されたのですが、「部署間を繋げる」というか、そういう仕事だったのです。いわば「部署間のBPMを調整する」ような。管理部門なので、黒子的でもありますし。当会のスローガンが、「標準化で、世界をつなげる。」であることもあり(笑)。
D:
違う世界でも共通点があるし、同じ考え方が活かせる場面ってすごくありそうですよね。小山ゆうじろうさんとイーピャオさんの漫画「とんかつDJアゲ太郎」でも同じようなこと出てたと思います。アゲ太郎が「トンカツ揚げるのもDJも一緒なんだ!」と気づくみたいな(笑)。
J:
そうですね(笑)。とても近いものがあると感じます。
私は仕事で調査をするのですが、これも先ほどのMPCでの楽曲制作やDJに近いと思っていまして。様々な断片情報を集めてきて、それを組み合わせて、一つの曲を作るようなイメージなのです。
集めた情報で新しい「何か」が見えてくるので、そこで自分なりの見解といいますか「インサイト(洞察)」を出します。世の中の調査はだいたいこういう感じだと思います。

情報を集めるところはレコードをディグる(掘る・探す)感じに近くて、それを切り取って(サンプリング)、くっつけたりしてオリジナリティを作っていく。この一連の流れはMPCでの楽曲制作プロセスがとても参考になると思っています。
一方で、ただ単に集めた素材をくっつけただけではオリジナリティは生まれないと思うのですが、そのための工夫やコツなどはあるのでしょうか?
D:
大前提としてまず自分が好きなもの、これはもう当たり前っていえば当たり前なんですけど、自分が好きなものを集めることですかね。同じものが好きな人同士でも集め方が違ったり、出会った経緯が違ったりで全然変わると思います。自分が好きなものをアウトプットする中で、その好きな部分をできるだけ外に出していければその人のオリジナリティは出るかもしれないですね。ミックスを作る時とかも。クラブで聴くようなDJの話になると曲のつなぎ方とか曲をかけるタイミング・流れなんかでその人っぽいみたいな部分は出ると思います。

ものづくりと顧客の「n」数

J:
当会のお客様には製造業の方が多く、どうやってものづくりをすべきか?など、日々悩まれているのですが、今のお話はとても参考になるのではないかと思いました。
作り手の、自分の「好き」を突き詰めることはとても大切で、例えば顧客アンケートを取って、「何が欲しいですか?」と聞くと、案外正直な意見が出ないこともあれば、好き勝手な意見になってしまうこともありますし、それらを全部満足するような製品を作ってみたら、逆につまらない製品になってしまったというお話もよく聞きます。
D:
顧客の「n」がたくさんじゃなくて、極論そのお客さんが1人であってもよくて、その1人にめっちゃ刺さるものを追求していくっていうのもいいんじゃないかなって。さっきお話されたKENSEIさんのコメントもそうですよね。フロアーに残ったお客さんが大事っていう。

究極的な「n」って自分なんですよね。自分が一番好きなものが一番いい。あとは、それを続けるというかずっとやるみたいな。同じことかもしれないけどやり続けるのが大事ですね。好きなことじゃないとやり続けられないっていうこともありますけど。
J:
繰り返しメッセージを発信し続けるということですね。
D:
そうですね。あと、やっぱりいろんな現場やいろんなメディアとかで同じことをし続けていると、刺さる人がちょっとずつ増えてくると思うんですよ。

それを積み重ねていって好きな人たちが増えてくれれば、ちょっとは心細くなくなるというか。僕も結構DJとか好き勝手やっちゃう方なんで。あんまり刺さらなかったっぽいなみたいなのでも、続けていこうということは心がけてます。
J:
ドゥーさんは、DJは独学だったのでしょうか?
D:
もう本当に遊びに行って覚えた感じです。岩手は結構恵まれてたと思うんですけど、レコード屋がたくさんあったり、あとJazzy Sportsの本店があったり、「APPI JAZZY SPORT」っていうフェスがあったりと、結構盛んだったので。それは本当に良かったと思いますね。

デファクトスタンダードとしてのMPC

J:
ところで、MPCは16個のパッドがありますが、例えば、ドラムをアサインする位置などは、プレーヤーの中でスタンダードがあったりするのでしょうか?
D:
楽曲作りに関してはないですが、楽器的に使うときはありますかね。ただそれも自分の中の定義ですね。同時に叩けるパッドの数が限られてるので、一番叩く数が多い音を叩きやすい真ん中に置いて、例えばハイハットだったら2つのパッドに入れて沢山叩けるようにしたり。あとキックとスネア、ドラムの装飾音を周りにおく感じで。例えばヒップホップでいうと、ループのリフの頭は4小節の頭1回叩けばいいから、あまり叩かなくてもいい場所にアサインするとかは考えますね。
J:
パッドの16個という数字はある意味業界のスタンダードと言えますよね。
D:
そうですね、まさに「スタンダード」です。本当に僕は良いバランスな気がします。それ以上だとライブに関して言えば、僕はですけど叩けないし、あと機体を大きくしたらもっとパッドの数も増やせるかもしれないですけど、それだと使いずらそうだし、使い勝手を考えたらMPCは本当によく考えて作られた機材だなって思いますね。あと見た目がカッコいいなって僕は思いますね。
J:
なるほど、MPCは事実上の標準(デファクトスタンダード)なのですね。


doooo(ドゥー)



岩手県出身のプロデューサー、ビートメイカー、DJ。クリエイター集団CreativeDrugStoreに所属。
2017年に1stアルバム「PANIC」を発売するもジャケットに人肉MPCを使用した為リスナーの皆様から引かれる。
2020年にMOTHER FACTORYを立ち上げ人肉アイテムの販売を開始し、一部のマニアの人から絶大な支持を集める。 2022年5月に2ndアルバム「COLORFUL」をリリース。