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HAIIRO DE ROSSI氏に聞く「音楽、アパレル、持続可能性」(後編)

2022/04/01

後編では、メッセージの伝え方、付加価値の付け方、forteの目指すところについて伺います。

コンシャスであること

H:
今、ヒップホップは完全にメインストリームだし、日本でもそうかもしれないけど、一番盛り上がっているジャンルだと思います。
ただ、「パーティーの中でコンシャス(社会性、政治性を持つ内容)なこと言われてもアガんないよ」っていう気持ちももちろん分かるんだけど、それでも発信し続けないと、そういうラッパーがいないと、ラッパーの生み出すエフェクトは微々たるものかもしれないけど、そういう人達が続けていかないと、文化がもう一段上に行くことはないかなと思いますね。
水に一つ石を落とすと波紋が広がるじゃないですか。その波紋はものすごく遠くまで行くんだけど、石はそんなに大きくないみたいな。音楽も同じで、バシャバシャと沢山の石を投げるんじゃなく。
ワンライン(1小節)が色んな意味になって、ワンバースで16個、16パターンだからすごい数の意味になるだろうし。
ものすごく大きなエフェクトにはなるけど、行動としてはピンポイントにしたいです。
J:
ケンドリックの「バタフライ・エフェクト(To Pimp A Butterfly?)」が頭に浮かびました。
ただ、日本のヒップホップシーンでは、コンシャスなアーティストはまだそこまで多くないように思います。
H:
いないですね。盛り上がっている時ってやっぱりムードが大事だから。皆クラブとかは楽しみに来ていると思うんですよね。楽しんでいるときに問題を指摘されても、うざいだけじゃないですか。
この前、俺が友達(Pigeondust:プロデューサー)に「注意喚起するような曲を作りたい」って言ったんですよ。「今の現状にもうちょっと警笛をならすような曲を作りたいんだよね」と言った時に、彼から「楽しんでいる最中にそれは駄目だとかそれが違うって言われても、楽しいから聞こうとしないんだよ」と言われて。
「これは駄目」じゃなくて、「こうしたらもっと良くなるよ」っていう言い方だったら通じるんじゃない?って言われて。「なるほど」と思って。
「こうした方がもっと良くなるよ」っていうのって皆のことを考えている言葉じゃないですか。海外で言うとコモン(アメリカ、シカゴ出身のラッパー)とかその辺上手いですね。2020年にコモンの新作を聴いてすごく刺激的かって言ったらそうではない。
それこそ聴いた時のショックはないけど、理解した時にピークが来る、ああいうのが良いアーティストだと思います。
耳に入って鼓膜でインパクトを起こすっていうよりは胸に落ちたところでピークが来るのが俺は音楽では1番いいと思います。
メロディとかフローもそうだけど、それは耳の話をしているから、耳障りの良さとか気持ち良さだったり、それも備えた方がいいんだけど、そこがピークじゃなくて実は理解して胸に落ちたところがピークだったって気付いた時って多分リスナーも成長するし、そこを目指すことによって、やり手側、プレイヤーも成長すると思うんです。
J:
ピークを後ろにシフトさせるという考え方は、ビジネスでもヒントになるお話ですね。
H:
洋服も音楽もそうだけど、ピークはなるべく後に。下手したら着まくって破れちゃったりとかした時に気付くでもいいと思う。ピークが先に来ちゃう、買った瞬間とか予約した瞬間とかに来ちゃうと「その後どうすればいい?」ってなりますよね。もう後は下がっていくだけ。気付くところはなるべく後に、です。

付加価値の付け方

J:
「伝え方」は音楽のみならず、重要ですね。
H:
そうですね。forteで買い物をすると、ステッカーに毎回サインを入れていて、そういう繋がり方を大事にしています。
付加価値ってお金を掛けた量じゃなくて、気持ちの方が響くような気がしていて。
よくあるけど「1個買ったらもう1個付きます」みたいな感じより、製作者の「いつもありがとうございます」っていう直筆のメッセージの方が刺さったりするんですよね。
J:
物質的な価値観からの転換ですね。
H:
この先、日本も世界的にも物質主義じゃなくなって行ったら面白いと思います。
この10年ぐらいでそれは進んだと思うんです。CDを持たなくなったし、コロナ禍のこの2年ぐらいでも随分変わったじゃないですか。今までは会社に毎日行かなきゃいけなかったけど、実は行かなくてもできると分かったとか。
J:
そうですね。
H:
仕事はむしろ効率良くなったみたいなこともありますよね。毎日同じ会社に同じ時間に電車で行って同じ時間に帰って寝るみたいな生活をしていると、考える時間も無かったかもしれないですね。
コロナで亡くなった方がいる以上、決してプラスとは言えないですが、失ったものだけではなく得たものたくさんあって、そういう気づきも含め、それは知識や経験だと思うし。
これからも日々色んな事に気付いていければ、サステナブルもそうだし、例えば、自分、家具、食事との向き合い方など、色んなことが変わっていくんじゃないかな。「小さい気付きの連続」を続けて行きたいですね。

ラップ力より人間力

H:
音楽に関しては今までの10年で年に1枚ぐらいのペースでアルバムをリリースしてきたんですが、これからはラップをする頻度を下げて、「精度を上げる」ことを考えています。
1曲に時間をかけようと思っていて。
今までは瞬発的に書きながら録ったりとか、ビートに対して割とセッション的に録ってたんですけど、時間に縛られず、作り込みながらやっていこうかなと思っています。
10枚のリリースが無かったらこの考えには至ってないんですけど、今「ラップ力」より「人間力」を伸ばした方が絶対俺のためになるって思っていて。
なぜなら、伸びる余地が全然違うからです。ラップ力が伸びる余地ももちろんまだあるんだけど、人間として未熟なところの方が明らかに多いから、より伸びる余地はそっちなんだろうなと。
それが伸びていけばしゃべる言葉とか醸し出す雰囲気自体に音楽が感じられるようになるから、ラップしないで良くなるかなと。Jay-Z(アメリカ、ニューヨーク出身のラッパー)とかSnoop Dogg(アメリカ、カリフォルニア出身のラッパー)とかってそういうところあるじゃないですか。何やっていてもヒップホップを感じるみたいな。
J:
確かにそうですね。
H:
例えば、俺がパーティーチューンを作ったとしてもコンシャスに聞こえるみたいな感じが良いとは思っています。クラブの現場では分かりづらくて、良し悪しあるとは思いますが。俺が立っていなければならない位置はだいぶ分かってきた。
音楽と洋服両方に共通するんだけど、「大人としてどうすべきか」っていう俺の成長過程を描き、伝えていくのが自分の役目かなと。
その伝え方は先ほど話したように「これをこうしたらもっとみんな良くなるんじゃない?」になれば、もうちょっとスムーズにいく気がしています。
今の目標はお金が沢山欲しいとかそういうことではなくて、forteをどう残すか、特に、マインドをどう残すかですね。forteは俺が亡くなった後とかにも残せるなら残したい。俺と接した人が語り継いでくれるようにしたいですね。

forteの服は心のプロテクター

J:
最後に、forteの服に込められたメッセージをお聞かせください。
H:
forteのロゴは、今はもう引退された有名なデザイナーの方が作ってくれたんですよ。これを大切に使っていきたいというのがあります。
だから、このロゴが入っている服を着ていると、「お守り」じゃないけど外に出るのが苦手な人とかでも、ちょっと勇気が出るというか、そういう感じで使ってくれれば一番いいと思っていて。
リスナーには結構、切羽詰まった人とか、切羽詰まっている時期に出会ったという方が多くて。「〇〇という曲に救われました」ということを良く言われます。
そういう人達が音楽以外の選択肢も持てるようにしたいですね。
今、服以外にもアクセサリーやファブリックミストなどを作って幅を広げようとしているんですが、何かしらの支えになり続けてあげたいです。
forteの服は「心のプロテクター」のように使ってくれたら嬉しいですね。

HAIIRO DE ROSSI



HIPHOPアーティストHAIIRO DE ROSSIとして活動。 21歳の若さでSlye Recordsからデビューし、二枚のシングル、二枚のスタジオアルバムを経て独立(レコードやシングル、客演等のディスコグラフィは100曲を越える)。独立後に発表した3枚目のアルバム『forte』がHIPHOP界のみならず賞賛を得た。また尖閣諸島の問題について発表した曲や震災後の復興支援で使われた曲等はYahoo!ニュース等で取り上げられ、文化雑誌等からの オファーも相次ぎ、活動家としての一面も併せ持つ。 その後体調不良による約二年半の活動休止を経て2014年5月に復帰作として発売したシングルがオリコンインディーズチャート9位を記録。 同年11月末に発売された最新アルバムも各媒体で高い評価を得た。その後、日本人に向けた別名義でのプロジェクトを経て、2019年に原点回帰の6thアルバムを発売。自身のアパレルブランドなどの展開も活発で、着実にファンを増やしながらハイペースで制作を継続。そして2020年ついにセルフタイトルの7thアルバムを発売。同年11/21には表参道WALL&WALLで初のワンマンライブを成功させる。翌年2021年には8thアルバムとなる『The Time Has Come』をアナログ盤でリリースした。その後、反響を受けアルバムのデラックス版もCDで同年にリリース。