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無駄づくりから考えるものづくり コンテンツクリエイター、文筆家 藤原麻里菜

2021/05/13

わたしは「無駄づくり」と称して、無駄なものを作る活動をしています。「インスタ映え台無しマシーン」とか「オンライン飲み会緊急脱出ボタン」とか、そういった「べつに世の中になくてもいいもの」を思い浮かんだらすぐ手を動かして作って、動画を撮ってSNSを通してみんなに見てもらう、そんなことを8年くらい続けていて、200個以上の無駄なものをつくってきました。




なぜ無駄づくりをしているのか

なぜ無駄づくりをやっているのかよく聞かれるのですが、まず一番の答えは「物を作ることが好きだから」です。申し訳ないくらい普通のことなのですが、わたしは物を作ることが好きなんです。じゃあなんで普通の物作りじゃなくて「無駄づくり」をやっているのかというと、「物を作ることが好きだけど、めっちゃ下手だから」です。

わたしは、不器用中の不器用です。かわいいハンドメイドを真似してやろうとしても、怪物みたいなものが出来上がるし、かっこいいDIYをやろうとしても、つぎはぎだらけのクソダサ家具ができあがります。そんな感じで、物を作ることに挑戦してきては、理想とのギャップに悩まされて、高校生くらいにはそれがコンプレックスになっていました。芸術家やクリエイターのようにかっこいい作品を作りたくても、理想をそのままアウトプットできない技術のなさ、不器用さがコンプレックスでした。

「無駄づくり」という言葉は、そういう自分自身を救ってくれる祈りみたいなものです。よくわたしが「無駄づくり」を通して発表する作品に対して「これは、こういった役割で役にたつので無駄じゃないですね」とコメントをいただくことがあるのですが、わたしはそもそも「完璧な無駄」を作ることを目的に制作しているわけではありません。物作りに寛容を与えるために“無駄”という言葉を使っていて、「べつに人の役に立たないものでも、立つものでも、なんでも作っていいじゃん」という精神性を「無駄づくり」というタイトルに込めています。だから作ったものが結果的に人の役に立つものになっても、それはそれで間違いではありませんし、よく考えたら「人の役に立つから間違えだ!」という指摘もよくわからないものですね。

物を作ることで得られること

わたしは”無駄”という言葉で自分の不完全さを包み込み、容認することができて、やっと物作りを再開することができました。頭の中に浮かぶ変なロボットやマシーンを手のひらを使って形にする、そんなことを8年間続けることで、得られたことはたくさんあります。
まずは、技術です。はじめはハサミと段ボールとかで作っていた無駄づくりですが、今は基板を自分で設計してみたり、3Dプリンターやレーザーカッターなど新しい道具を使えるようになりました。一つの物を作る時間もすごく短くなって、なんか無駄のプロっぽいなあと思います。

また、自分自身のことをよく分かるようになりました。アイディアを形にする工程を重ねていると、好き/嫌いやもっと複雑な自分の感情、感覚が手のひらを通して得ることができます。個性、というのでしょうか。自分の輪郭みたいなものが物を作り続けることで見えてきて、それによってなんか社会が生きやすくなった気がします。
これに関しては、作ったものを人に見せていることも関係しています。自分が作ったものが、名刺以上に名刺の役割をして、わたしの作ったものを見るだけで「は〜ん。藤原麻里菜ってこういう人間なのね」とわかってもらえる効果があると思います。自分のことを他人に理解(とまではいかなくとも、知って)してもらえることって、やっぱり自分の世界を生きやすくするためにとても大切なことだと思うのです。

そんなことを続けていると、物作りをすることによって自分の人生がどんどん自分好みのほうに向かっていきました。自分にフィットする物を自分自身で設計し作る。この経験を積み重ねることって、他のなによりも自分のことを知れるし、思考する力にも繋がると思います。

物作りは寛容であるべき

物作りって、こんなにもすばらしいものなのに、なんだかすごく厳しい世界じゃないですか。こどものときは、なんか作っただけで手放しに褒められて、調子にのっていろいろな物を生み出していたと思うんですよ。牛乳パックで貯金箱を作ってみたり、トイレットペーパーの芯でなにかできないか模索したり。そういう自由さは大人になっても持っていていいはずなのに、なぜか成長の段階で物作りを生活と離してしまう人が多いのではないかなと感じています。

わたしはすごくそれがもったいないことだと思っています。大の大人が子どものように無邪気に物作りをする姿を見たいし、それが容認される社会でありたいと思っています。
わたしが手のひらから自分自身のことを知り、さらにそれによってわたしの社会が生きやすくなったように、物作りで助けられる人は潜在的に多くいるはずです。

だからこそわたしは「無駄づくり」という活動を通して、自分自身と社会に寛容を与えていきたいと考えているのです。


藤原麻里菜



1993年生まれ。コンテンツクリエイター、文筆家。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。2013年からYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開始。現在に至るまで200個以上の不必要なものを作る。2016年、Google社主催の「YouTubeNextUp」に入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展- 無中生有的沒有用部屋in台北」を開催。25000人以上の来場者を記録した。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019年度」採択。