ビジネスに究極のメリットをもたらす標準化 日本産業標準調査会会長 遠藤信博
2020/05/11
現代ビジネスの特徴は、絶え間ない変化である。競合他社の一歩先を行き、テクノロジーに追いつき、顧客のニーズに応えていくためには、機敏性とリアルタイムに進化していく能力が求められる。急速に進化する世界に対応するためには、変化に対応できる体制を整えておく必要がある。国際標準は長年にわたり、企業が新製品やサービスを立ち上げたり、事業を拡大したり、あるいは単に事業を維持したりするために必要なフレームワークとソリューションを提供してきた。
標準は時代を映す鏡である。社会とビジネスの深遠な進化を反映している。時代の変化とともに、私たちのビジネスやそれを支える規格の範囲も変化してきた。日本産業規格(JIS)は、1949年に制定された工業標準化法(JIS法)に基づき、日本産業標準調査会(JISC)が管理している。工業製品の標準化を促進するために作られたもので、技術仕様、用語、大きさや分類、試験方法などを網羅しており、製品の製造に必要な一貫性と品質をもたらしている。
1980年代後半、ビジネスの再構築は、迅速な対応とインターネットベースの統合が可能な生産プロセスの抜本的な再設計に焦点を当てていた。これにより、ISOの標準化作業も、マネジメントシステム規格、情報技術、社会的責任など、これらの変化をサポートし得る新たな方向へ向かうこととなった。近年では、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の推進を支える食品や水の管理など、新たなサービスや技術革新、核心的な関心事の分野に対応して、その範囲は飛躍的に拡大している。
JISCは、当初からサービスの国際標準化に取り組んでおり、ISO/TC 224(飲料水,汚水及び雨水に関するサービス活動)、ISO/TC 225(市場・世論・社会調査)、ISO/TC 232(教育及び学習サービス)などの専門委員会の作業に参加していた。当時のJIS法の範囲は限られており、それが規格の進展の足枷となることがあった。そこで、より柔軟性を持たせ、より広い分野での標準化の推進を可能にするため、2019年7月にJIS法は産業標準化法として改正され、対象範囲がデータやサービスなどにも拡大された。
一方、JISCは、製造業からサービス業へのビジネスの変化に対応するため、多くのサービス関連の国際規格の策定に貢献してきた。例えば、ISO 23412「Indirect, temperature-controlled refrigerated delivery services - Land transport of parcels with intermediate transfer」は、JISCの主導でISO/PC 315プロジェクト委員会で開発が進められている。この規格は2020年に発行される予定で、郵便やインターネットを利用した電子商取引で販売される食品や生鮮品のコールドチェーン物流配送サービスを保護することを目的としている。
電子商取引は、世界的に人気が高まっている「シェアリングエコノミー」と呼ばれる急成長分野を生み出した。シェアリングエコノミーは、デジタルプラットフォームを介して商品やサービスを共有する活動と定義され、あらゆる組織に大きなビジネスチャンスを提供し、環境破壊や高齢化社会の進行など、世界の多くの課題を解決する可能性を秘めている。
しかし、新たな機会は新たな課題をもたらす。特に顧客が新しいタイプの商品やサービス、体験を低コストで提供する場合には、プライバシー、信頼性、責任の所在、労働衛生上の問題が懸念される。こうしたリスクに対応するため、一般社団法人シェアリングエコノミー協会は2017年、サービス利用者の情報を適切に扱うための共通ルールを定めたプラットフォーム事業者向けの自主認証制度(シェアリングエコノミー認証制度)を導入した。同年、ISOはシェアリングエコノミーの分野に参入し、世界の主要な専門家を集めて、IWA 27「シェアリングエコノミーの指針及び枠組み」という国際的なガイダンスを策定し、シェアリングエコノミーにおける将来の標準化の基礎をつくった。
世界的な優先事項について、これほど幅広いコンセンサスが得られたことはなかった。しかし同時に、世界の課題がこれほど複雑で相互に結びついたこともかつてなかった。国際標準は、企業が社会の新たな現実に適応し、より良く、より安全で、より持続可能な世界のための実用的なソリューションを提供する上で重要な役割を果たしている。物理的な国境が急速に薄れつつあるデジタル環境の中で、私たちは、特に発展途上国に焦点を当てて、大企業から中小企業まで、あらゆる場所でISO規格が使用されるように努力しなければならない。
スマートテクノロジーと人工知能で結ばれたグローバルなビジネスネットワークへとゆっくりと移行していく中で、膨大な量のデータを処理するためには、常識的な倫理観に基づいた社会システムを構築する必要がある。
出典 「ISO Focus」“THE ART OF BUSINESS” MARCH/APRIL 2020
https://www.iso.org/isofocus_139.html