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Society5.0時代における都市とテクノロジーが共存する政策とアーバニズム-テクノロジーと都市・パブリックスペースのアクティビティに関する考察-

Society5.0時代における都市とテクノロジーが共存する政策とアーバニズム-テクノロジーと都市・パブリックスペースのアクティビティに関する考察-

2019/06/19

都市とテクノロジーの融合・共存の議論の中で
最近では、Society5.0 に代表されるように、スマートシティ、ビッグデータ、IoT、センシング、自動運転など、テクノロジーの進化とそれに伴う社会対応の議論が多くみられる。都市やパブリックスペースが専門の自身の周りでも、テクノロジーの議論を多く聞くようになってきた。しかし、法制度はもちろんのこと、テクノロジーと共存した都市や社会のあり方は未だ議論半ばの状況である。


自動運転社会の都市とストリートのあり方:Blueprint for Autonomous Urbanism
先日、アメリカから、ニューヨーク市元交通局長のジャネット・サディク=カーン氏が来日し、セミナーシリーズが 行われた。ジャネットさんは、ニューヨークで、タイムズスクエアの広場化(一部車道を歩行者専用広場へ)に貢献した行政側の功労者の一人である。ジャネットさんは、現在、NACTO(National Association of City Transportation Officials:米国自治体交通局職員協会)の議長を務めている。NACTOでは、自動運転社会におけるストリート(街路)のあり方の議論をまとめた、 Blueprint for Autonomous Urbanism(自律的アーバニズムのための青写真)を発行。Autonomous(オートノマス)は、自律的な、自主的なという意味があるが、自動運転車なども、Autonomous Carと使われ、自分自身で判断して自分をコントロールしているものを指す。このブループリントで示されているのは、自動運転社会に変わった時の都市やストリートのあり方の一例を示している。自動運転社会に変わると、様々な変化が予想されるが、輸送用トラックや自家用車のルートが適正化され、人々の移動のためのモビリティは、LRTなどの公共交通と、シェアカー、LIMEやLIFTなどのシェア電動スクーターなどのライドシェアが普及し、モビリティのシェアは一層進むと考えられる。





自動運転社会の青写真、データ社会によるLRTなどの公共交通と多様なモビリティの進化
出典:Blueprint for Autonomous Urbanism, NACTO




ジャネットさんは、日本の講演の中で、問題提起をしたのは、「自動運転社会になっても、車であることは変わらない。人と車の関係を考えなければならない」とあった。自動運転が進むと、車の中で、コーヒーを飲んだり、映画を見るなど、楽しむことができる。都市の中で、人が歩くということが減ってくる。そうなれば、SF映画などでも描かれているように、都市の中で、人が誰も歩いていない、モビリティだけが動いているイメージが、想像される。
機能重視の都市づくりは、これまで私たちが自動車社会(モータリゼーション)で経験した二の舞になりかねない。これまでの日本の都市づくりは、主に戦後に、土地区画整理事業や市街地再開発事業などで、自動車中心や機能重視に再開発され、結果、まちの個性や都市の魅力を失ってきた。これからのテクノロジーと都市の融合・共存の議論は、いかに都市の魅力やまちの個性と、テクノロジーを共存させるかでもあり、手段であるテクノロジーを人がどのように使っていくかでもある。


グーグルが手がけるテクノロジーを生かした進行中の都市開発プロジェクト:トロント市・Sidewalk Tronto
具体的な事例を紹介しよう。現在、カナダのトロントでは、テクノロジーを都市へ導入した都市開発プロジェクトが進行中であり、同時に議論が沸き起こっている。グーグルの親会社・Alphabet Inc.の子会社である、Sidewalk Labsと、行政であるWaterfront Torontoの共同プロジェクトとして、Sidewalk Tronto が立ち上がった。2017年10月、Sidewalk Labsがトロントのイーストベイフロント周辺にある4.9ヘクタールの敷地であるQuaysideを開発すると発表した。Waterfront Torontoが主催するコンペを勝ち取ったものだ。ここでは、住民と情報管理について議論が一つの問題になっている。スマートシティでは、センシングなどあらゆる手段で、都市内のデータを取得し、それを都市マーケティングや都市開発に生かすとされている。そのデータ公開や個人情報・プライバシーをセキュア(安全に)に守ることが欠かせない。プロジェクトの目的としても、「多様な住民、労働者、および訪問者の生活の質を向上させる完全なコミュニティを確立します。」と謳っているだけに重要な課題である。




グーグル傘下のアルファベットが手がけるトロントのウォーターフロント開発
出典:Sidewalk Tronto



テクノロジーでストリートはこう変わる!:トロント・Dynamic Street
Sidewalk Trontoの資料によれば、テクノロジーを使った新しい形のストリートの提案がある。その名もダイナミックストリート(Dynamic Street)。Modular Pavementと呼ばれた、正六角形の新しいモジュールを舗装にし、歩行者や自動運転車、LRTなどの公共交通のピーク以外の時間帯を歩行者優先に変更するというのがダイナミックストリートである。2018年にモックアップワークショップ も行われている。また、合わせて、1階をアクティブにする取組み(Active Ground Floor)も並行して、パブリックスペースのアクティビティを創出しようとしているところにも注目である。





データによって、交通ピークを感知し、ピーク以外は歩行者優先のストリートに転換するDynamic Street
出典:Sidewalk Tronto



データを取得して、都市政策につなげる:メルボルン市・Pedestrian Counting System
オーストラリアのメルボルン市では、Pedestrian Counting System(歩行者交通量測定システム)を 導入している。これは、まちなかに、センサーを導入し、メルボルン市のオープンデータ原則に則り、個人情報や商業の機密情報などをセキュアに守った上でデータを無料で公開するというものである。メルボルン市のロビン氏へのインタビューによれば、「データがなければ、都市戦略は描けない」と、データの重要性を指摘した。




Pedestrian Counting System
出典:メルボルン市・WEB



人のための居場所・パブリックライフを都市につくる:メルボルン市・Places for People
このようなデータ取得は、パブリックスペースの専門家:ゲール氏(Jan Gehl)が非テクノロジー手法でも、メルボルンのパブリックスペースの調査を してきた。メルボルン市では、パブリクライフ調査(Public Space Public Life surveys)を、1994、2004、2013年にゲール事務所が実施している。その調査結果を踏まえ、Places for Peopleという政策調査レポートを1994、2005、2015年に発行している。それは、メルボルン市のFuture Melbourne 2026 Planの目標にも掲げられている。その一つとして、パブリックスペースのデザイン基準を定め、デザインの統一されたベンチ(シティベンチ)がまちなかに設置されている。これにより、オープンカフェとは異なり、無料で、誰もが休んだり、休憩したり、まちなかの居場所を提供し、パブリックライフを過ごす場所を提供している。





メルボルンのシティベンチ 写真:泉山塁威撮影



テクノロジーはあるべき都市やパブリックスペースをつくるための手段
このように、テクノロジーは、あくまで手段であり、手段先行であってはならない。なぜ?(WHY?)が非常に重要で、手段が目的化してしまうのは誰もが本意ではない。テクノロジーの開発や実装は、一つの手段であり、私の場合、「テクノロジーによって都市やパブリックスペースはどう変わってしまうのか?」よりも、「こんな都市やパブリックスペースをつくって行きたいから、このテクノロジーを使っていく」という思考でいたいと思う。



泉山塁威(いずみやま るい)






泉山塁威(いずみやま るい)
タクティカル・アーバニスト/東京大学先端科学技術研究センター 助教/一般社団法人ソトノバ 共同代表理事・編集長/PlacemakingX Regional Network Leader, Japan/アーバンデザインセンター大宮|UDCO ディレクター
博士(工学)/認定准都市プランナー/1984年札幌市生まれ/明治大学大学院理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了。エリアマネジメントやパブリックスペース利活用及び規制緩和制度、社会実験やアクティビティ調査、タクティカル・アーバニズムの研究及び実践に関わる。
主な著書に「ストリートデザイン・マネジメント: 公共空間を活用する制度・組織・プロセス」(共著、学芸出版社、2019年)、「アナザーユートピア: オープンスペースから都市を考える」(共著、NTT出版、2019年)「 市民が関わるパブリックスペースデザイン-姫路市における市民・行政・専門家の創造的連携-」(共著、エクスナレッジ、2015年)、「初めて学ぶ 都市計画(第二版)」(共著、市ケ谷出版社、2018年)/受賞に、「黒石市こみせ再生提案競技・保存修理部門―現存する「こみせ」による歴史的町並みのストリートマネジメント― 優秀賞」がある。