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SUSHIBOYSと考える、文化保存装置としての音楽・規格(前編)

2023/02/08

規格には様々な機能(役割)がありますが、その一つに「メモリー」としての機能があります。
時代の変化が目まぐるしい昨今、モノや技術、習慣といったものも次々に変化し、失われてしまうものも多くあります。技術を持った人が引退して、技術継承が困難になる、というお話もよく耳にします。
いつか振り返ったときに、それらを呼び覚ます方法は果たしてあるのでしょうか?
そこで、今回は埼玉県越生町出身のヒップホップグループであるSUSHIBOYSに、「SUSHIBOYSと考える、文化保存装置としての音楽・規格」と題し、お話を伺いました。

ヒップホップとの出会い~ヒップホップに観る「会話」

JSA(以下、J):
始めに、ヒップホップとの出会いのきっかけについて教えてください。
SUSHIBOYS(以下、S):
自分が最初にヒップホップにはまったのは高校の終わりの方というか、2年生の後半から3年生ぐらいの時です。それまでは基本的にロックっぽいサウンド、ギターがいてドラムがあって、といういわゆるバンドで構成されている音にノリがあってみたいなものを聴いていました。それがいいと思ってたし、カッコいいと思ってたんですけど、ある時友達に「Grateful Days」※1をYouTubeで見せてもらって、それがきっかけですね。そこからハマっていきました。
そのとき何にやられたかって言うと、歌詞の内容だったんです。まず情報量が多い。また、歌詞が「その人自身のことを書かれている」ことです。その動画では、Zeebraさんが黄色い大きいカッパみたいなのを着てステージの上に出てきてラップするんですけど、そのラップと恰好のマッチング度合いが今まで聴いた音楽の中に無い、自分にとって新しいものでした。「黄色いデカいカッパ着た人が自分のことについて歌ってる」っていうところで衝撃が倍増されたっていうか。
ロックバンドって、人の抽象的なことだったり、誰にでも当てはまりそうなこととかを歌うイメージがあるんですけど、ヒップホップはそうじゃなくて、そこに自分は喰らったんですね。
J:
ヒップホップでは、レペゼンやセルフボースといった、「自分は何者で、どこから来て、自分を誇る…」のような、自身や自身の背景を歌うことはよくありますよね。
S:
そうですね。自分の日常をラップすることが、結果的に色んな世代の人が刺さる部分になってるんじゃないかなって思います。
聴き手と会話する感じに近くて、その人が描いた絵を見せられるというよりは、言葉を使ってその人となりが見えるという感じで。

J:
「色んな世代の人に刺さる」というのは、ヒップホップがもはや共通言語となりつつあるということですね。情報量が多いというのは、リリックに言葉が詰まっているということでしょうか?
S:
そうですね。一小節に入る言葉の数がやっぱりラップの方が多いし、リズムに対してタイトです。あと、音程の幅って結構狭かったりするじゃないですか表現的に。だからより会話に近い感じになるんじゃないかと思います。
でも先にヒップホップを聴いてたら、逆にロックが新しく聴こえたりもするだろうから分かんないですけどね。自分の環境がそうだっただけかもしれないし。でも、全世代的にヒップホップがウケる理由の一つはそういうところにもあるんじゃないかと思います。
J:
ヒップホップからロックに寄るアーティストもいますしね。ただ、ヒップホップは日本ではまだ老若男女が知っている状況でない気はしますが、歴史を積み重ねて、しっかりと定着してきた感じはありますよね。
S:
そうですね。自分たちは先ほどの「Grateful days」をきっかけに、日本語ラップの世界には、BUDDHA BRANDから入っていったんですが、今やスタイルもだいぶ変わってきてますし、何より広がりましたね。
J:
一つの型、フォーマットとしてヒップホップはありますが、スタイルは時代に合わせて変わっていく。案外この辺も規格と近いのではないかと思います。よく「State of the art」(最新の技術)と言うのですが、規格は出来てからが始まりで、常に見直して、時代に合わせて最新の状態を保っていくことが必要なのです。
S:
なるほど、それは音楽と同じですね。時代の形に合わせてある程度変化していかないと、どんどんギャップが生まれていってしまうみたいなところがありますよね。
もちろん、例えばブーンバップの、同じBPMで、同じ形でずっとやってくっていう職人的な方もいますけど。
でも俺らは違くて、その時々に合った自分たちの好きなビートに乗っけるみたいなスタイルですね。その意味では規格のサイクルと似てるかもしれないです(笑)

文化を保存するツールとしての音楽と規格

J:
先ほどもお話したとおり、ヒップホップという様式も一つの標準と考えられると思います。ただ、同じツールを使いながら国や人ごとに表現が異なるのが面白いですよね。始まりはアメリカなのですが、日本の場合、「詫び寂び」のような世界観のあるものもありますし、SUSHIBOYSさんの場合は本当に「軽自動車」とか「ママチャリ」とか、また違った角度で日本人なら誰しも情景が思い浮かぶような日常的なテーマが多い印象です。
S:
ありがとうございます。最近「年賀状」を企画※2したんですけど、あれとかも一つの形だと思うんですよ。「消えゆくモノや習慣」ってある意味では面倒なものだったり、あとはいわゆる「コスパ」が悪かったりするので、それが理由で消されていっちゃうことが多いじゃないですか。

自分たちが大学の時、バックパッカーみたいにしてタイに行ったんですよ。その時はまだ「トゥクトゥク」っていう乗り物が主流だったんです。街中走ってて、安くて、風を感じられるところがすごい良くて。でも、最近タイに行ったら殆ど無くなってて、値段もすごく高くなってるし、タクシーやGrabの方が安いし便利だし安全だしっていうことで消えちゃってて。でもなんかちょっと寂しいというか、自分としてはそういう部分を音楽でも表現できたらいいんじゃないかなと思うんですよね。
J:
文化の保存ですね。この点では規格も近い役割を果たしているのではないかと思います。「こたつ」とか「畳」とか、日本固有の製品もJISになっていますが、仮にそのモノが無くなってしまったとしても、過去に作られた規格は「技術のメモリー」として生き続けます。
S:
なるほど。音楽と規格って初めは今一つピンとこなかったんですけど、ここにも共通点がありましたね。曲を聴くことである時の情景や記憶が呼び起こされる(記憶が保存されている)というのは、音楽も同じですからね。

※1:1999年のDragon Ashの楽曲。ゲストに、ZeebraとACOが参加した。
※2:SUSHIBOYSに年賀状を送ると、直筆の年賀状が送られてくるという企画。この企画をもとに「happy new year」が 制作された。



SUSHIBOYS

埼玉県越生町に突如現れた国民の最後の希望。
映画マトリックスの世界観に衝撃を受け、2016年にグループ結成。
自身たちが作成した楽曲は国民に真実を気付かせてしまうため、再生回数が伸びないよう政府によって厳重に管理されている。
メンバーはFARMHOUSE、サンテナ、DJ兼カメラマン兼マネージャー兼運転手兼スーパーバイザーのneoyosikawaで構成される。
アヒルの形をしたゴムボートのようなものを客席に投げるLIVEに定評がある。