ISO 50009(JIS Q 50009) ― 複数組織で進めるエネルギーマネジメントの新しいアプローチ ―
2025/12/10
■ はじめに:ISO 50001 とは
ISO 50001(初版2011年発行) は、組織がエネルギーの使用を継続的に改善するための国際規格です。エネルギー使用状況の把握(エネルギーレビュー)、改善目標(エネルギーパフォーマンス指標:EnPI)の設定、改善策の実行と成果の確認といった一連のプロセスを体系化し、省エネルギーとそれにともなうCO₂ 排出削減を効果的に進めるための枠組みを提供します。工場、オフィス、公共施設など、あらゆる組織が導入可能な国際規格として世界的に広く活用されています。
■ ISO 50009(JIS Q 50009)とは
ISO 50009 は、ISO 50001 の考え方を 複数の組織が共同で実践するためのガイダンスを示した国際規格です。2021 年に発行され、日本では JIS Q 50009 として制定されています。
省エネルギーの進展に伴い、工場単体や企業単体だけではなく、「工業団地」「企業グループ」「サプライチェーン」「自治体コミュニティ」など、複合的な主体の連携が重要になってきました。ISO 50009 はこうした複数組織の協働を支援し、エネルギー使用を効率化するための具体的なアプローチをまとめています。
■ ISO 50009 の適用対象
ISO 50009 は、次のような複数組織の集合体に適用できます。
・工業団地にある複数の工場
・建物群(オフィスビル群、商業施設群)
・サプライチェーン全体
・自治体が管轄する学校・病院・役所などの公共施設群
2 組織以上であれば適用可能であり、規模は問いません。
■ ISO 50009 を活用するメリット
● 協働によるエネルギー最適化
複数組織がデータ・知識・設備を共有することで、単独では得られない省エネ効果が期待できます。これまで単体ではエネルギーマネジメントを実施する(人的)資源、ノウハウを持たなかった中小規模の組織も、グループの一員としてエネルギーマネジメントに取り組むことが可能になります。
● CO₂ 排出とコストの同時削減
共同での再エネ導入、需要制御、廃熱利用、共同設備の効率改善などを通じて、コストと CO₂ の両方を低減できます。
● サプライチェーン全体での省エネルギー
Scope 2・3 を含む広範な排出削減に貢献し、ESG・サステナビリティ戦略の強化につながります。
■ ISO 50009 の主な指針(ガイダンスとして示されるポイント)
ISO 50009 は「要求事項」ではなく ガイダンスです。そのため、ISO 50001 を複数組織でどのように展開し、効率的に運用していくかについて“考え方”や“手順のモデル”を示しています。
● 複数組織が連携するためのガバナンス構築
・リーダー組織と参加組織の役割分担
・情報共有の仕組み
・合意形成や意思決定のプロセス
など、協働を円滑に進めるための運営体制を整えるための指針が示されています。
● 共同エネルギーレビューの進め方
複数組織のエネルギーデータを統合して
・指標の設定
・比較対象となる基準(ベースライン)の取り扱い
・データ収集・利用の方法
といった実務的なポイントをガイドしています。
● グループ単位の指標(EnPI)の設定方法
複合体としてのエネルギーパフォーマンスを評価するための
・指標の設定
・比較対象となる基準(ベースライン)の取り扱い
・データ収集
・利用の方法
といった実務的なポイントをガイドしています。
● 複数組織での改善計画の立案
共同で取り組める改善施策(例:再エネ導入、共同設備運用、廃熱利用)を検討する際の
・目標設定
・効果評価
・施策の優先順位付け
などのアプローチが示されています。
● 共同取り組みの評価と改善
成果のレビュー、ベンチマークの共有、改善策の水平展開など、継続的改善のための運用ノウハウも含まれます。
■ ISO 50001 と ISO 50009 の比較表
| 項目 | ISO 50001 | ISO 50009 (JIS Q 50009) |
|---|---|---|
| 主体 | 単独組織(工場、オフィス等) | 複数組織(工業団地、企業グループ、地域コミュニティ) |
| 性質 | 要求事項を持つ規格 | ガイダンス規格 |
| 目的 | 組織単独のエネルギーマネジメント | 複数組織の協働による最適化 |
| 適用範囲 | 組織単位 | グループ全体、サプライチェーン等 |
| データ管理 | 組織内で完結 | 組織間での共有と利用が重要 |
| 目標・指標 | 個別の EnPI | グループ全体の EnPIやベースラインの設定方法をガイド |
| 活動内容 | レビュー、改善策、運用確認 | 複数組織でのガバナンス、共同レビュー、共同改善計画などの進め方をガイド |
| 向いているケース | 単独工場や事業所 | 工業団地、サプライチェーン、自治体、多視点企業 |
■ まとめ
ISO 50009(JIS Q 50009)は、ISO 50001 を複数組織で活用するための有効なガイダンス規格です。工業団地やサプライチェーン、自治体施設など、脱炭素化を進めたい複数主体が協力する際に強力なフレームワークとして機能します。CO₂ 削減、コスト最適化、再エネ導入の拡大など、単独組織では得られない価値を生み出せる点が最大のメリットです。
複数組織の連携が求められる今、ISO 50009 はこれからのエネルギーマネジメントの標準的なアプローチとなっていくといえます。
これまでの省エネルギー活動を推進してきた主体は主に大規模組織でした。今後地球規模でさらに省エネルギー活動を進めるためには、中小規模組織の参加が重要な要因になります。その観点から、ISO 50009(JIS Q 50009)が大きな役割を果たすことが期待できます。
■ 規格購入ページ
ISO 50001:2018
エネルギーマネジメントシステム-要求事項及び利用の手引
JIS Q 50001:2019
エネルギーマネジメントシステム―要求事項及び利用の手引
ISO 50009:2021
エネルギーマネジメントシステム-複数の組織に共通のエネルギーマネジメントシステムを実装するためのガイダンス
JIS Q 50009:2023
エネルギーマネジメントシステム―複数の組織で共通のエネルギーマネジメントシステムを実施するための手引
石本 祐樹
(一財)エネルギー総合工学研究所 副主席研究員
ISO/TC301前身のTC242設立当初から国内審議団体事務局を務める。
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