
コミュニケーションツールとしての標準化(後編)
2025/03/17
前編では、「コミュニケーションツールとしての小説」や「伝える工夫」についてお話を伺いました。
後編では、「文章の解釈」や「言語化」についてさらにお話を伺います。
解釈について
- JSA(以下、J):
- 文章解釈の話になりましたが、読者の方による宮田さんの小説への解釈には、揺らぎがあってもいいと思いますか?狙った意図と異なる解釈を受けることもあるように思いますが。
- 宮田氏(以下,宮):
- そうですね、そこは全然平気です。もちろん、先程お話したとおり、伝える工夫は最大限行っていますが、私の手から離れた本は全て読者のものなので、そこから先の解釈はもう私のものではありません。
ただ、解釈が違う場合は、「私の技術がまだ足りない」とか、あとは「この人が見ている世界はどのようなものなんだろう」とかを考えたりはしますね。
ちなみに短歌は本当に人によって解釈が違うんですよ。例えば、俵万智さんや笹公人さんとアイドル歌会※でご一緒するのですが、同じ歌でもお二人の解釈は違ったりするんです。 お二人とも素晴らしい歌人ですが、この「一致しない」という部分が短歌の面白さの一つですね。私は大学で万葉集の研究をしていたのですが、万葉集も解釈が自由なんです。一応、「万葉集註釈」と「萬葉集釋注」という二つの解釈本はあるのですが、全然違うことを言っていたりします(笑)。 - J:
- 詠み人本人の解説ではないですしね。
- 宮:
- そうなんです。万葉集の時代はよく分からないことも多いじゃないですか。本当に分からなすぎるから、「自由にやっていいよ」と言われるんですよ。
だから本と同じ解釈を書いてきたらダメって基本的に言われています。「自分の解釈」が重要だと。
読んだ人が私とは違う解釈をしてもそれはそれ、と思います。逆にそこから新しいものが生まれることもあるので。
規格あっての自由
- J:
- 短歌は、フォーマット(五・七・五・七・七)は決まっているけれど、その中での表現の自由ですね。
- 宮:
- そうですね。「規格があってこその自由」かもしれません。 現代短歌だと五・七・五・七・七を区切らずに、つなげてもよいですし、六・六・五・七・七とかもよくあります。31文字であればOKみたいなものもあります。
- J:
- 小説の中にはご自身が一番伝えたいポイント、汲み取ってほしい点があると思うのですが、それに対する工夫はあるのでしょうか?
- 宮:
- なんかもうダメ押しでシチュエーションを出すとか、繰り返しちゃいますね。私は文章を読むとき、要点っぽい場所が大体浮いて見えるので、なんとなく浮いて見えるようにしているというのはあります。これは国語の試験にすごく役立つ能力ですよ。
- J:
- それは宮田さんにしかできなさそうな能力ですね(笑)。小説はご自身の実体験がベースになっているのでしょうか?
- 宮:
- 本当に完全創作なんです。この本(『あやふやで、不確かな』)はすごいファンタジーだと思って書いたんですよ。「ファンタジーな恋愛小説です」って出そうと思ったんですが、みんなから「リアリティに溢れる本だ・リアルを追及している」とコメントをいただいてしまって…。
- J:
- そうなんですね。例えば、サラリーマン同士の飲み会の場面などとてもリアルに感じましたが…そのような描写はどうして可能なのでしょうか?
- 宮:
- これも共通認識に関係しますが、「みんながイメージするエッセンスの真ん中の部分」を入れているんです。このエッセンスは、「経験したことがある人たちの発言や経験から来ているもの」で、核にあるものです。この中核の部分は、人によって変わらないし、印象も変わらないと思うので。
もう少し分かりやすい話で言えば、「コント」を参考にすることはありますね。コントで見るものって全員が笑えないといけないから、「あるある」なシチュエーションと言えるわけですが、逆にそこで扱われていないものについて考えてみたり。
私的に一番リアルだと思っているのは、「ドラマだったら絶対カットがかかるであろう、気まずさが続く時間」の描写ですね。
ドラマの世界ではシーンが変わってくれるけど、現実では当然ですが場面転換もない。結構日常生活であるシチュエーションだと思います。私はこれが苦手で…。このリアルさは共感して欲しいですね。 - J:
- 観察や情報収集もされているのですね。
- 宮:
- そうですね。この本は恋愛に関する内容だったので、友達に「別れた時のエピソード」やその時の心境などを詳しく聞いたりもしました。
誰かに嫉妬する感覚を私は持っていないんです。だから友達に嫉妬したエピソードとかを聞きまくったり。その嫉妬の感情の「種」みたいなものをもらって、そのときの状況を考えながら書きました。
言語化へのこだわり
- J:
- お話を伺っていて、宮田さんは言語化に対するこだわりが強いように感じます。
- 宮:
- やっぱり言葉にしてもらわないと分からないですからね。察するとかではなくて。
それに私は全て文字で考えるタイプなんですよ。記憶するのも画像じゃなく、文字です。
結構記憶力がいいって言われるんですけど、文字だからデータ容量が少なくて済むからなんじゃないかなと思っています(笑)。画像より文字の方がデータとして軽いじゃないですか。 - J:
- これも宮田さん独特の能力ですね。『あやふやで、不確かな』における、宮田さん渾身のフレーズは何でしょうか?
- 宮:
- プロポーズのセリフとして「あなたの喪主になりたい」というセリフですね。これはこの世で一番ロマンチックなプロポーズだと思って考えたもので、3ヶ月くらい温めて、満を持してこの小説で出そうと書き始めたんですよ。でも、誰も共感してくれなくって…。
- J:
- いきなり喪主になりたいと言われたら…う~ん、ちょっとびっくりはしますね(笑)。
- 宮:
- 死んだ方への法的な手続きとかって、喪主がやらなければならない仕事ですよね。それこそ「同じ墓に入りたい」だと、これは子孫がやることじゃないですか。なので、骨を拾って喪主を勤め上げることが、最後に相手にできることだと思うんです。これは自分の意思でやる訳ですから、責任感があることだし、プロポーズの言葉として最良なんじゃないかと思って。
- J:
- たしかに、喪主を務めるということは、ずっと一緒にいることが前提にはなりますが…。
- 宮:
- 「ユニークな表現」と言われてびっくりして。みんなの反応を見て、一般的には違うのか、と思って少し考えを変えました。
- J:
- 最後に、書くことが苦手な人に対してアドバイスをいただけますか?
- 宮:
- そうですね。書きかけとかでもいいからとにかく書いてみることですかね。みんなX(旧ツイッター)なら気軽にできるじゃないですか。ツイート1件140字で10件書けば、1400文字、すごい量ですよ。
あとは先程お話した「三題噺」です。これは面白いですよ。書くことや思考の訓練にもなると思います。即興のラップとかジャズとか、そんなイメージで取り組むといいと思います。 単語3つ持ってお風呂で暇つぶしとか、おススメです。
※:短歌研究社が主催する、アイドルが短歌を発表し合うイベント。
⼩説家・タレント
1998年4⽉28⽇⽣まれ、東京都出⾝。
2023年アイドル卒業時にデビュー作『きらきらし』を上梓。
現在は⽂筆家として⼩説、エッセイ、短歌などジャンルを問わず活躍。
本に関連するTV/トークイベント/対談なども出演。
・バターの⼥王アンバサダー
・TBSポッドキャスト 「ぶくぶくラジオ」
・⼩説現代エッセイ連載「ねてもさめても本のなか」講談社
・短歌研究エッセイ連載「猫には猫の・⽝には⽝の」
・TV LIFE ラジオ番組「⽂化部特派員『宮⽥愛萌』」パーソナリティ
・著者「あやふやで不確かな」幻冬舎
・著者「春、出逢い」講談社