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『パリピ孔明』原作者 四葉夕卜氏に聞く「異なる世界を繋ぐものとしての標準化」

2023/06/06

「標準化で、世界をつなげる。」これは日本規格協会のスローガンです。
標準化に世界をつなげる機能があることを示し、当会がそのように活動していくという意思を示した言葉ですが、異なる世界同士を繋げる場合、ヒト、モノを始め、様々な工夫や考慮が必要になります。

それらのキーとなる要素を探すことやそのマネジメントを行う際、スタンダードとしての古典から学べることが多いため、昨今過去の知見に学ぶ機運が高まってきています。

そこで、今回は人気マンガ・アニメ『パリピ孔明』の原作者である、四葉夕卜氏に、「異なる世界を繋ぐものとしての標準化」と題して、標準化・マネジメントに関するヒントについてお話を伺いました。

異なる世界を繋ぐ

JSA(以下、J):
いつも楽しく『パリピ孔明』※1を拝見しています。最初に、本作ヒロインである歌手を目指す女の子EIKOと三国志でお馴染みの諸葛亮孔明という一見すると交わることのない、国や時空すら超えた「異なる者」同士を繋げようと思われたきっかけについて教えてください。
四葉(以下、四):
そうですね。そもそも『パリピ孔明』が出来たきっかけが、朝5時の六本木のクラブ明けで、お酒を飲んだ後、友達と歩いているときに「諸葛亮孔明がパリピ※2になったら面白くない?」と言ったのが始まりです。孔明という歴史的キャラクターと、パリピの間には大きなギャップがあるけれど、繋げてみたら面白いかもしれないと。
『パリピ孔明』というタイトルもそこで思いついて、「じゃあそのタイトルに合った内容で企画を通そう」となりました。

最初は『聖☆おにいさん』※3のような、ちょっとゆるいギャグみたいな感じを考えていたのですが、その世界感では孔明が馴染まず全然うまくはまらなくて。多分標準化できなかったんだと思います(笑)。2、3回変えていって、最終的には、現代の日本を舞台に、孔明が三国志でお馴染みの計略を使い、歌が大好きな普通の女の子をプロデュースして、歌姫になるための道を進んでいくストーリーにしていったら面白いんじゃないか、ということになりました。そこで、最初の転生(登場シーン)は場所的にクラブカルチャーの中心地である渋谷のハロウィンが良いだろうと。


J:
ありがとうございます。標準化という単語が出ましたので、ここから『パリピ孔明』と標準化の機能との接点に踏み込んでいければと思います。
私は、標準化には、「異なる世界を繋げる」ハブのような機能があると考えています。
そもそも四葉さんご自身がクラブカルチャーと三国志という二つの全く異なる世界を繋げて作品を作られている訳ですが、違ったもの同士を組み合わせるところに面白さを感じられているのでしょうか?
四:
そうですね。それは元々好きでした。最近は別のマンガの原作で、「異世界の空港」の地上係員の話を書いています。現実で起こることを描きながらも異世界ですから色んな種族や文化があって、そこにカルチャーショックを受けつつも、主人公が奮闘していくというお話です。空港はハブでもありますし、今の標準化のお話に通じる部分がありそうですね。
ところで、「標準化が異なる世界を繋げる」とはどういうことなのでしょうか?
J:
標準が必要とされるシチュエーションには、物事がバラバラであったり、世界観が異なっていることが前提としてあります。すでにみんなが同じであったら、そもそも標準を作る必要がありません。バラバラである状況に、皆にとって共通の接点・理解となる場を提供するのが標準化の一つの役割ではないかと考えています。
四:
なるほど。標準化とはある種のコミュニケーションツールでもあるのですね。『パリピ孔明』でいえば、異なるBPM※4の曲を繋ぐDJのようなイメージでしょうか。
J:
そうですね。極論ですが、DJはBPMの標準化作業をしていると言えるかもしれません。
もちろん、ずっと同じBPMだとつまらなくなりますから、色々な展開を仕掛ける必要はあると思いますが(笑)。
J:
作中で孔明が駆使する計略と現代のストーリーとのマッチングはどのように考えられているのでしょうか?
四:
これはすごく大変でして…誰かに代わって欲しいくらいです。私も軍師が欲しいです(笑)。
『パリピ孔明』は一話完結型のストーリーなのですが、最初に使える計略を探して、それに合ったストーリーを考え、キャラクターを配置して行くという、パズルゲームのような感じで組み立てています。

EIKOと孔明を繋ぐもの

J:
それは三国志をよく知る四葉さんでなければできないですね。先程標準には「異なるものを繋ぐ」機能があるとお話しました。これは相互理解・コミュニケーションに関係するのですが、これをさらに突き詰めると「合意形成」に行きつきます。
合意は契約にも近く、三国志で例えれば「桃園の誓い」ですが、EIKOと孔明の間にはどのような「契り」が交わされたと見るべきでしょうか?
四:
そうですね…「夢」の達成に関する契りとでも言えるでしょうか。二人を繋げている要素は、「夢」なのです。EIKOは全世界の人に自分の歌を聞いて欲しいという夢があり、孔明は劉備に仕えて天下統一・中華統一をして平和な世界を築くことを目指していた。
「夢を追う」という点が合致しているんです。そこが異なる二人を繋ぐ共通点かつ物語の主軸になります。
J:
「異なる世界を繋ぐ」という点では、「BBラウンジ」(作中で登場するEIKOと孔明が働くクラブ)もバウンダリー・オブジェクト※5としてその機能を果たしていますよね。そこに居る三国志好きのオーナーである小林は、バウンダリー・スパナ―※6として異なる世界の翻訳者の役割を果たしています。
これらの要素から、「パリピ孔明はビジネスに非常に役立つマンガ」というレビューもよく見かけます。
四:
そのような感想をいただくのは意外ですが、とても面白いですね。
J:
先程EIKOと孔明は夢で繋がっているというお話がありましたが、作品を拝見していると、夢という共通点はありつつも、常に行動を共にしたり、認識や気持ちをお互い歩み寄ってすり合わせているようには見えません。つまり二人の間には常に一定の「ギャップ」があるように思うのですが、これには何か意図があるのでしょうか?
四:
そうですね。平たく言うと孔明はEIKOを劉備じゃないですけど一応主として見ているのですが、EIKO的にはずっと「諸葛亮孔明」と言い張っている「めちゃくちゃ変なヤツ」っていう認識なんですよ。EIKOは別に三国志もそんなに好きじゃないですし、そもそも知りません。EIKO視点での孔明は、「すごい頼りになるけど、なんか変なヤツ」っていうキャラなんです。そこが二人の間にあるギャップですね。一応ギャグマンガということもあり(笑)。
J:
なるほど。例えば会社などの組織では、関係性のギャップは埋めなければ!と思いがちですが、EIKOと孔明の、「ギャップは埋まらないけれども、緩くまとまっている状況」は、いわゆるZ世代などの若い世代と旧世代との関係性構築のヒントになるように思いました。
四:
確かにそのとおりですね。孔明とEIKOは、上下の関係性だから信頼し合っている訳ではなく、互いの性格含め個人対個人で尊重し合っています。
今後ますます、そのような関係性構築が必要な社会になっていくのではないでしょうか。
J:
そうですね。ダイバーシティもうそうですが、多様性の理解は規格の世界でもホットトピックです。お互いの違いを違いとしてありのままに認識する、メタ認知が大切なのだと思います。


パリピ孔明に見るマネジメント力

J:
孔明のマネジメント力についてですが、孔明が最も優れているのは、「誰かに何かをさせる、そうなるように自然と仕向ける」能力だと感じます。読者の多くがここに爽快感を覚えると思うのですが、この点どのようにお考えでしょうか。
四:
これは孫氏の兵法にある「(善く戦うものは)人に致して人に致されず」です。自分の思う通りに相手を動かして自分は相手のもとに動かされない。これはビジネスの基本理念と言えると思いますが、作中の孔明においても、基本・スタンダードになっていますね。そもそも、兵法自体が規格的というか、スタンダードですよね。
J:
確かにそうですね。マネジメント力に関してもう一つ。『パリピ孔明』における孔明は「相手を信じる力」もずば抜けて高いように思います。人を信じて任せることは、とても忍耐の要ることです。
一方で、史実における孔明は割と自分自身で動いている印象もあります。
この違いについてはいかがでしょうか?
四:
『パリピ孔明』がEIKOの成長を見守るストーリーであることが大きく影響していると思いますが、自分には孔明はとても義理堅い人というイメージがありまして。劉備の言ったことをずっと守ってそのまま死んでいった人ですから、ある意味めちゃくちゃ意固地といいますか。やっぱりちょっと変な人ですよね(笑)。でも日本人は義理堅い人が好きじゃないですか。そういうところはブレずに出したいなと思っています。
J:
なるほど。劉備を信じるパワーと同じレベルのパワーをEIKOに向けているということですね。
四:
そうですね。物語の序盤では結構劉備が孔明の記憶に出てきて、孔明に対して劉備は「今のその感じいいぞ!」というメッセージを発します。
劉備は、「孔明はもっと自由にやってくれても良かった」と思っている。読者さんによってはそのように見えてもいいのかなと。そう思って脚本を書かせていただいています。
J:
物語的には、孔明の三国志時代における後悔を晴らす、という部分もあるのでしょうか?
孔明が後悔をしているような描写も多く見受けられます。
四:
これは孔明の一ファンである私の願いもありますね。孔明には二回目の人生を楽しんでいただきたいと思っていまして。
タイトルもパリピですし、楽しんでもらいたいのです。
転生後の孔明には前世のリベンジの要素もありますが、個人的には令和の日本を楽しんでいただきたいと思っています。
同じ天下泰平でも、三国志時代は人が死ぬことによって築かれたものですが、現代日本はそうではありません。人をハッピーにして、天下泰平を築いていく、ここを意識していますね。
J:
なるほど。それがあっての、孔明のセリフ「素直な意見や率直な感想は、生きているうちに語ってこそ!」が出てくるのですね。このセリフは『パリピ孔明』のストーリーの軸になっていると感じます。
四:
そうですね。このセリフが印象深いということで覚えてくださる方がとても多くて。あまり意識していたセリフではなかったのですが、入れて良かったなと思っています。実は脚本上は最初入っておらず、後で差し込んだセリフなんです。
J:
そうだったのですね。ところで四葉さんとしては、孔明はどの能力に一番秀でているとお考えなのでしょうか?
四:
情報を収集する能力ですね。マンガでは10巻辺りから「サマーソニア編」という、フェスの話になります。EIKOの敵役に前園ケイジというお金持ちで才能もあるキャラクターが登場するのですが、孔明は、彼がどういう性格でどういう行動をして…を予め分析して、しっかり落とし込んだ上で計略を作るという設定にしてありますので、やっぱり情報収集が何より大事かなと。
J:
なるほど。お話を伺っていて規格と軍師には共通点があると感じました。
規格は先人達による知識・知恵の結晶でもあります。この情報を頼りにすることでビジネスが成功したり、組織運営ができたり、新しいものを生みだすことができるのです。
四:
確かに意外な共通点ですね。規格はやはり兵法書のようなイメージなんですね。EIKOにとって孔明が良いパートナーであるように、規格もそれを使う人々にとっての良きパートナーであると。ちなみに規格の中に、組織運営に関係する内容のものはあるのでしょうか?
J:
はい。いわゆるISO 9001(品質マネジメントシステム)と呼ばれる規格がこれに該当します。最近では、君主と家臣の関係性ではないですが、上司部下の相互理解・従業員エンゲージメントを見るような、人的資本に関する規格もあり、規格の対象の幅は広がっています。

夢を諦めない

J:
四葉さんにとってのスタンダードについてお聞かせください。
四:
私はずっと小説家になりたくて、大学生の時からずっと書いていました。でも全然上手くいかなくて。賞にも応募したんですが、全然駄目で10年ぐらい働きながらずっと書いていました。そういう経験もあって、後で自分の作品を読み返してみると、「自分はこうなりたい」、「こういう人生を送りたい」といった「自分の夢」が入っていることに気が付きました。『パリピ孔明』のEIKOがまさにそうですね。歌手になりたかったけれどなれなくて諦めようとしたところに、孔明に「あなたのファンです」と言われてもう一回やってみようと。ですので、最近はそういう部分を意識して入れるようにしています。これが私の根本であり、スタンダードですね。
J:
四葉さんが夢を諦めなかった理由は何でしょうか?
四:
無いですね。絶対にやりたかったので。ある意味それが自分の精神の軸になっていました。仕事で働いていても、ただお金さえもらえればそれでいい、という人もいると思いますが、私はそういう人生にはしたくなかったですし、「自分は違うぞ」と思うことが救いになっていた部分はありますね。
J:
ありがとうございます。最後に、『パリピ孔明』の今後のストーリー展開についてお聞かせください。EIKOを取り巻く世界もどんどん広がって来ていますが、新たな計略などが出てくるのでしょうか?
四:
はい。計略は探しておきます(笑)。だんだん世界が広がっていっているのは、EIKOの成長にリンクしています。最初は自信が無くて、様々な経験をするたびに自信をつけていって、色々な人に認められて、SNSのフォロワーもどんどん増えていって、CDも出して、有名なミュージシャンとコラボもして、フェスに出演して…と、どんどんEIKOが成長していきますので、成長しきった後にどのように動いていくのかについても、考えながら構成を組んでいます。
やはり成長し切ってしまうと、そこにはもうフォーカスできませんので。そうなると、ストーリーとしてはまた違う形になっていきますね。ご期待ください。

※1 『パリピ孔明』:原作:四葉夕卜、漫画:小川亮によるマンガ。諸葛亮孔明が若き日の姿でハロウィンが催される現代の渋谷に転生し、そこで出会った駆け出しのシンガーソングライターである月見英子(EIKO)の夢を叶える軍師として活躍する姿を描く。
※2 パリピ:パーティー・ピープルの略。パーティーやフェスなど、多く人が集まるイベントなどで皆で盛り上がることを好む人のこと。
※3 『聖☆おにいさん』:東京・立川でアパートをシェアして暮らすブッダとイエスの日常を描いた、中村光のマンガ。
※4 BPM:Beats Per Minute。1分あたりの4分音符の数で曲のテンポを表す。
※5 バウンダリー・オブジェクト:Susan Leigh Star氏とJames R. Griesemer 氏によって提唱された、境界をつなぐもののこと。
※6 バウンダリー・スパナ―:境界を越えて組織/個人を繋ぎ、組織に影響を及ぼす人物のこと。


四葉夕卜(よつばゆうと)

2016年第4回ネット小説大賞を受賞しデビュー。2020年には「転生七女ではじめる異世界ライフ」で第5回カクヨムWeb小説コンテスト大賞を受賞。
漫画「パリピ孔明」「魔法空艇の案内係」などの原作も手がける。趣味は映画、音楽観賞、DJ、旅行など。