IT サービスマネジメントシステム規格
第1回
ISO/IEC 20000-1:2018 の概要
1.はじめに
クラウド、ビッグデータ、AI、IoT といったデジタルテクノロジーの急速な進化により、我々の日常生活は数多くのサービスであふれている。
スマートフォンを開けば、多くのアプリケーションを利用してサービスの提供を受けられる。
銀行でのATM 利用も、身近なサービスの一つである。
銀行まで赴かなくてもコンビニエンスストアに寄れば、銀行と同じATM機能を利用できるし、 チケットの購入、保険への加入などの様々なサービスを手軽に利用できる時代である。
情報端末に呼びかけることによって、その場で、望んでいるサービスを手に入れることさえできる。
ヒト・モノ・コトの情報がデジタル的につながるデジタル時代においては、今後も多種多様な形のサービスを生み出していくことだろう。
IT(Information Technology:情報技術)を利用して提供するサービスはIT サービスと呼ばれる。
今日では、我々が享受しているサービスのほとんどがITサービスと考えても異論は出ないだろう。
IT サービスを提供する側、すなわちITサービス提供者の観点から眺めると、ITサービスは四つのPと呼ばれる要素から成り立っている。
People(人材)、Process (プロセス)、Product(技術、ツール)、そしてPartner(サプライヤ、ベンダ、メーカ)である。
これらの四つのPを効果的・効率的に組み合わせて、ITサービスを実施・管理していくことがITサービスマネジメントである。
ISO/IEC 20000は、一般的にはITサービスマネジメントの国際規格として知られている。
しかし、規格本文中のどこにも“ITサービスマネジメント”という文言は出てこない。
国際規格を制定したSC 40/WG 2の委員会組織が“Maintenance and development of ISO/IEC 20000 Information technologyService management" という名目のもとでの活動であることから、IT(Information technology)は自明の理であるということであろう。
実際、発行された規格の表紙には、Information technologyService management(情報技術サービスマネジメント)と載っている。
このような経緯から、規格本文中では要求事項の適用範囲はITSMSではなくSMS(サービスマネジメントシステム)としていることを留意しておく必要があるだろう。
本稿では、ISO/IEC 20000-1 の改訂版(以後、本規格と表記)についての概要を説明していく。
2.ISO/IEC 20000 改訂の変遷
2018年9月、サービスマネジメントシステムの国際規格ISO/IEC 20000-1:2018が発行された。初版から数えて第3版(3rd edition)の発行となる。
ISO/IEC 20000規格はシリーズ化されていて、多くの関連規格が存在するが、20000-1は第1部(Part 1)、20000-2は第2部(Part 2)というように規格の呼称により区別がなされている。
簡単にISO/IEC 20000 の生い立ちと変遷を概観しておく(図1参照)。
ITILはITサービスマネジメントのベストプラクティスとしてよく知られている。
ISO/IEC 20000の際立った特徴の一つとして、規格の原典ともいうべきITILの存在が挙げられる。
2000年頃にITIL V2が出版され、その内容をもとにしてBSI(英国規格)のBS 15000が制定された。
その後、BS 15000は国際規格として制定への道を歩むことになり、ISO/IEC JTC 1/SC 7/WG 25の国際の場において審議が重ねられ、2005年にISO/ IEC 20000-1:2005が発行された。
国際規格の発行を受けて、我が国の国内規格としての制定が行われ、JIS Q 20000-1:2007として発行されている。
これが初版(1st edition)ということになる。
第2版は 2011 年から 2012 年にかけて発行され、対応する国内規格も2012年から2013年にかけての発行となっている。
第1部(Part 1)と第2部(Part 2)の関係については、前版(第2版)であるJIS Q 20000では、それぞれ次のようになっている。
◎JIS Q 20000-1:2012 情報技術サービスマネジメント第1部:サービスマネジメントシステム要求事項
◎JIS Q 20000-2:2013 情報技術サービスマネジメント第2部:サービスマネジメントシステムの適用の手引
第2部は、組織が SMSを構築する上で、要求事項を理解するための手引(ガイダンス)を提供している。
図1からISO/IEC 20000の改訂とITILのバージョンにはある種の関連性があることが見てとれる。
これはITを取り巻く環境、テクノロジーの進化等が、規格あるいはベストプラクティスの違いはあるものの、改訂を促していると考えればよいだろう。
ITILとISO/IEC 20000の開発は相互に関連していないし、ISO/IEC 20000を実装すればITILを実装したことになるわけではない点に留意願いたい。
ITILとISO/ IEC 20000は整合し、補完する立場にあると考えるのが妥当である
本記事は「標準化と品質管理 2019年2月号」のトピックスより一部抜粋
洛ITサービス・マネジメント(株)代表取締役 塩田 貞夫
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外資系ベンダーにて運用現場におけるサポートエンジニアとして、長年にわたりミッションクリティカルシステムを担当。その後、コンサルタントとしてITシステムの運用/可用性サービス、ITILベースのアセスメント/コンサルティングサービスを提供。NPO団体itSMF Japanの設立から参画し、ITサービスマネジメントの普及・啓蒙に貢献。ISO/IEC 20000の国内委員会(ISO/IEC JTC1 SC40/WG2)の委員を務め、現在はアドバイザーとして参加。
ITILV2/V3/2011Edition/ITIL4などのITIL書籍の英語版/日本語版の書籍レビュァー、ISO/IEC20000 JIS化原案作成WG委員を務める。
直近では、ITSMコンサルタントとして、ITILベースのアセスメント、プロセス設計、運用改善サービスの提供に加えて、ISO/IEC 20000認証取得支援、ITIL教育コースの講師を行っている。
【団体/委員】(2023年3月)
・ITSMS適合性評価制度技術専門部会 主査(一般財団法人 日本情報経済社会推進協会) ・情報マネジメントシステム運営委員会 委員(一般財団法人 日本情報経済社会推進協会) ・ SC40/WG2 ITサービスマネジメント国内小委員会 アドバイザー(一般社団法人 情報処理学会) 【著書/共著】
・ISO/IEC 20000活用ガイドと実践事例(日本規格協会) ISBN 978-4-542-30535-9 ・ISO/IEC20000-1:2005(JIS Q 20000-1:2007)情報技術‐サービスマネジメント 第1部:仕様 要求事項の解説(日本規格協会) ISBN 978-4-542-30536-6 【主な資格】
・ITIL 4 マネージングプロフェッショナル ・ITIL V3 Expert ・ITIL V2 Manager ・EXIN ISO/IEC 20000 Foundation ・EXIN ISO/IEC 20000 コンサルタント・マネージャ