NEWS TOPICS

会員向け情報

SQオンライン

英国規格協会が主導するネットゼロイニシアティブ、 Our 2050 World

英国規格協会が主導するネットゼロイニシアティブ、 Our 2050 World

2023/11/14


Our 2050 Worldとは、英国規格協会(以下、BSI)が標準を通じて、2050年に向けたネットゼロへの移行を支援することを目的にISO、国連のRace To Zeroキャンペーン、UNFCCC※1グローバル・イノベーション・ハブとの間で立上げたイニシアティブある。BSIは、このイニシアティブを主導、2022年に発行されたISOネットゼロガイドライン開発の中心的な役割を担った。今回、このOur 2050 Worldの中心メンバーであるBSIのエミリー・フェイント氏に話を聞いた。

※1 United Nations Framework Convention on Climate Change(気候変動に関する国際連合枠組条約)


先ず、BSIがOur 2050 Worldを開始した背景を教えてください。

このイニシアティブは、2021年末にグラスゴーで開催されたCOP26で発表された後に発足しました。COP26がネットゼロに向けて前例のない誓約した中で、 BSIは英国の国家標準化機関として、私たちの行動、役割、声を高める必要があると考えました。そして、その必要性に応えるため、設置したのが、この“Our 2050 World”です。

「Race To Zero」キャンペーンの専門家査読グループの議長も務めているオックスフォード大学のトーマス・ヘイル教授が発表した論文によれば、“Our 2050 World”は、ネット・ゼロ・ガバナンス・ベルトコンベア・モデルに沿ったものになります。論文によれば、ネットゼロは、組織の自発的な行動だけではパリ協定の目標に到達することができず、経済の仕組みの一部となるような場所に移すことが必要となります。論文では、これまでの気候変動対策は、自主的な領域に留まっていることを示唆しています。野心的な企業や非政府組織が作成する自主的なイニシアティブは、独自の標準を通じて、組織を支援しようとしていますが、強制力はありません。ベルトコンベア・モデルでは、国際標準が自主的なイニシアティブやベストプラクティスと政策立案者や規制当局とつなぐ重要な鍵となり得ると説明しています。つまり、Our 2050 Worldは、自主的な領域でのアクションを国際標準システムがどのような役割を果たすことができるかを考えた結果、生まれたイニシアティブです。

私たちは、この活動の中で、ISOネットゼロガイドライン※2を発行しました。このガイドラインは、Our 2050 Worldによる最初の成果物であり、2022年11月に開催されたCOP 27の際にISO会長のウルリカ・フランケ氏によって公表されました。このISOネットゼロガイドラインの開発には、100カ国以上から1,200を超える組織又は個人が参加しました。数あるネットゼロに関するイニシアティブの中でも最大規模のものだと思います。

※2 IWA 42(Net zero guideline)。 ※ IWA(International Workshop Agreement)、国際ワークショップ協定

ISOネットゼロガイドラインの概要を紹介してください。

企業は、ネットゼロに向けて、何をすればよいのか、対応に苦慮しています。またネットゼロに関わるガイドライン、標準、イニシアティブは、世界に散らばっており、複雑さを極めているといえます。そんな中で、私たちは、これらのベストプラクティスを一つのガイドラインに調和する必要があると考えました。ISOネットゼロガイドラインは、世界共通のプラクティスが一箇所に集約されており、ネットゼロに向けて組織がどのようなアクションをとるべきか容易に把握できるような文書になっています。例えば、文書中、利用可能な国際標準としてISO 14064 シリーズ(温室効果ガス)も参照しています。

ISOネットゼロガイドラインは、ネットゼロジャーニーの全ての段階を網羅しています。現在のネットゼロに関わる既存の標準を見ると、主に“準備”について耳にすることが多いでしょう。具体的には、排出量の測定方法や目標設定に関する要素が多く強調されています。しかし実際には、ネットゼロアクションの本当に重要な段階を見逃してしまっていることがあります。例えば、排出量削減への具体的な取り組み方や長期的な削減計画などです。これらの要素が欠落しているため、組織は何をすべきか、目標達成に向けてどのような行動を取るべきかについて、混乱し続けています。ISOネットゼロガイドラインは、ネットゼロアクションの各段階において、ベストプラクティスやツールを知ることができるのが特徴です。

またネットゼロに向けて、既に行動している組織もありますが、組織によっては、これから行動を計画しなければならないところもあり、当然ながら全ての組織が同じライン上にはいません。すでに野心的で成熟したネットゼロ戦略を持っている組織の場合、自分たちの戦略がガイドラインの考慮事項を組み込んでいることを確認する自己参照チェックリストのようなもとしても使うことができます。つまり、ISOネットゼロガイドラインを参照することで、組織が自分たちの現在地を把握し、ネットゼロ目標を達成するために取るべきステップやこれまで考慮していなかった分野のギャップを特定することができるのです。

尚、ISOネットゼロガイドラインは、各国の標準機関のウェブサイトなどから無料でダウンロードすることが可能です。

ISOネットゼロガイドライン開発までのプロセスを教えてください。

2022年の初めに、このガイドラインの開発を開始するための提案をISOに対して行いました。そして、3月から6月にかけて、世界中の国家標準化機関にこのプロセスが招集されることを伝え、世界中の組織を招集しました。目的は、完全なネットゼロアクションに関するガイドラインを作成し、全世界にそれを認識してもらうことでした。私たちは、数ヶ月間にわたって、参加が必要不可欠な主要な利害関係者との会議を繰り返し、参加を求めました。

(続きは、「標準化と品質管理 2023年冬号」に掲載予定です)

[ジュネーブ事務所]



エミリー・フェイント

BSI ネットゼロポリシーマネジャー
BSIにおいて、政策及び利害関係者とのエンゲージメントに関わる業務を指揮する。Our 2050 Worldのコアメンバーの一員として、ISOネットゼロガイドラインの普及に取り組む。