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国連WP29(自動車基準調和世界フォーラム)と自動車規格

第3回
国連WP29(自動車基準調和世界フォーラム)と自動車規格(後編)

 基準(法規)と規格の連携の必要性が叫ばれて久しい。とりわけ自動運転などの新しい技術領域でその重みは増している。国際的な基準調和の場である国連自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において規格がどのように関わり、活用されているかについて解説する。

6.国際連携について

 第一回で、WP29は当初欧州中心であった事を説明したが、今では域外からも多くの国が参加するグローバルな議論の場となり、日本が議長を取ることも珍しくはない。EUも2009年以降、基本の枠組みとして一般安全規則(General Safety Regulation)を定め基準の中身は日本と同じようにWP29で議論を進めて、UN規則をそのまま取り入れるプロセスを取るようになり名実ともにWP29は基準策定の中心になっている。結果として、WP29での議論は、以前と比べると各国の利害・主張がぶつかり合う場面が増えて来ている。
  また、中国は、国家政策として積極的に標準化の活動を推進して国際的なプレゼンスを高める努力をしているが、同時にWP29にも力を入れはじめている。
基準・規格両面で存在感を増しているなかで、欧州、特にドイツとの関係が深まっている。米国は、世界の自動車技術のリーダを自負し長年、独自性を保って来たSAEもISOと提携し、ダブルロゴでの規格を発行するなど、世界的に合従連衡の時代になっている。標準化の世界では、昔から仲間づくりの重要性が認識され、そのための作戦も重視されて来たがWP29においてもいわゆる平場の議論ばかりではなく、各国との連携は重要である。

7.これからのWP29の活動

 今、自動車業界は100年に一度の変革の時期を迎えていると言われている。例えば米家電見本市(CES)への自動車業界からの参加、逆にIT分野から自動車分野への参入も進んでいる。その動きは、WP29でも例外ではなく、これまでの伝統的なプレーヤ以外の団体、メーカも参加している。例えば、The European Association for Electromobility(欧州電動車協会 AVERE)として参加しているテスラ、あるいはMOBILE EYE(現在はインテル傘下)、NVIDIAなどもCLEPA(欧州部品工業会)から参加し新しい息吹を吹き込んでいる。業界としてのコンセンサスがなかなかとれないOICAに対し、テスラはAVEREとして比較的自由に意見を発信している。NVIDIAは規則づくりに貢献するテクニカルセクレタリー役を自主的に買ってでるなど短期間に存在感を増している。既存のプレーヤはどちらかと言うとコンセンサスを重視する傾向にあるが、こういった新興勢力への対処も求められている。

8.技術イノベーションと基準・規格

 たとえ安全・環境と言った社会ニーズから基準、規格の重要性を理解していても、開発者、設計者の中には、それらがイノベーションの制約になると言うイメージをお持ちの方もみえられるかもしれない。しかし、これまで自動車業界は、マスキー法(日本の排気規制では53年規制)、衝突基準など対応が極めて困難な基準に取り組み、そのたびに三元触媒によるクローズドループ制御、エアバッグなどの革新的な技術に挑戦し乗り越えて来た事はまぎれもない事実である。また、排気の測定などの基盤技術についても日本のメーカが世界でデファクトをとっている。現在、議論が進んでいる自動運転なども同様に高いレベルでの安全性が求められており基準づくりでも高いハードルが課されているが、それらに応えて行くことで、安全に自動運転技術の普及がはかられ、これまで同様に技術革新が生まれる可能性もある。
 最後に、人口の減少に伴い、国内市場の縮小が避けられない中で、常に世界の市場を視野において来た多くの日本の自動車、部品メーカの技術開発力・国際競争力は高い。とりわけ、一旦目標が定まった時に短期間で商品化する力は並大抵ではない。日本はWP29においても、ISOなどの標準化の活動においても主導的な役割を果たしているが、これからも基準、規格を先取りし更なる飛躍につながっていくことを期待して止まない。




 【執筆者情報】
 自動車基準認証国際化研究センター
 研究部長
 汲田 邦彦


 トヨタ自動車で、グローバルな法規・認証・標準化の業務に従事。
 その間、欧州、米国に駐在し、欧州委員会、EPA,CARBなどとの渉外を経験。
 欧州のWVTA(車両統合認証)、CO2、歩行者保護、米国環境規制などへ対応。
 標準化では、ISOのリサイクル可能率、SAEでEVの充電の規格化等を進めた。
 2017年より現職。

【自動車関連規格・書籍情報】
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WP29関連規格
ISO 19206-1:2018
路上走行車-アクティブ安全機能の評価のためのターゲット車両,交通弱者及び他の目標物のための試験デバイスび-第1部:乗用車後部のターゲットに対する要求事項
ISO 19206-2:2018
路上走行車-アクティブ安全機能の評価のためのターゲット車両,交通弱者及び他の目標物のための試験デバイスび-第2部:歩行者ターゲットに対する要求事項
ISO 19206-4:2020
路上走行車-アクティブ安全機能の評価のためのターゲット車両,交通弱者及び他の目標物のための試験デバイスび-第4部:自転車ターゲットの要求事項
ISO/SAE 21434:2021
自動車-サイバーセキュリティエンジニアリング
ISO/DIS 21448:2021
自動車-意図した機能の安全性
ISO 26262シリーズ 自動車-機能安全-
2018年に改訂されたISO 26262シリーズの規格票(原文・日英対訳版)のほか、解説書を販売しております。
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