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国連WP29(自動車基準調和世界フォーラム)と自動車規格

第2回
国連WP29(自動車基準調和世界フォーラム)と自動車規格(中編)

 基準(法規)と規格の連携の必要性が叫ばれて久しい。とりわけ自動運転などの新しい技術領域でその重みは増している。国際的な基準調和の場である国連自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において規格がどのように関わり、活用されているかについて解説する。

5.WP29での規格の活用

 前回、WP29の概要を説明したが、今回はWP29でUN規則もしくはGTRが作られる中で規格がどのように活用されているかについてご説明する。様々な形で規格が活用されているが大きくは以下のパターンに分かれる。

 a. WP29での議論の中で、規格の考え方を含める。WP29にはISOなど標準化団体が参加して意見を述べる他、業界からも規格の内容を基に提案が可能である。
 b. 試験設備、ツール、材質など規格化されたものを使ったり試験法を引用したりする。
 c. 管理手法・資格要件などの証明方法として規格を活用する。

国連規則 規格 活用パターン
歩行者保護
UN R 127
ISO 14513, 16850, 11096 頭部,子供頭部,脚部試験法 a.
ISO 6487 電気計測装置 ISO 3784 インパクタ速度計測 b.
ISO 2416 乗員質量 b.
騒音試験
UN R51
ISO 10844 試験場,試験路面 b.
ISO 362 屋内試験場 ISO 26101 屋内試験設備 b.
ISO 612 車両諸元(寸法・質量) b.
水素燃料車
UNR13/GTR13
ISO 14687/SAE J2719 水素燃料品質 b.
ISO 1431,ASTM*1 D1148 大気暴露試験法 b.
電動車の出力
GTR21
ISO 20762 HVシステム出力 a.
ISO 1585 内燃機関出力 a.
電波障害
UN R10
ISO 7637, 11451, 11452, IEC 61000, CISPR*2 12,16,22,25,32 電磁両立性に係る試験法・要件・設備 b.
IEC 61851 AC/DC 充電方式 b.
ISO 17025試験設備管理・較正 c.*3
58年協定
監査/資格
ISO 19011, 9001, 31000 監査ガイドライン,危機管理 c.*3
ISO 17020, 17021, 17025 試験設備管理・較正・資質 c.*3

*1 ASTM (ASTM 旧American Society for Testing and Materials International規格)
*2 CISPR(International Special Committee on Radio Interference:国際無線障害特別委員会)はIECの特別委員会による規格
*3 ISOによる第三者認可は義務ではないが例示規格として証明時に有効

  WP29ではb. のパターンが多かった。しかし、自動運転など高度な技術分野は、専門性も高く、新規に試験法の開発が必要だったりするために、ISOのような専門家による検討を早い段階で始めたほうがよい場合もある。歩行者保護を例とすると、車両構造に大きく影響するため基準化については国際的に慎重に議論が行われた。WP29では、まず基準調和研究活動(IHRA)が進められISOでは試験法、ツール(インパクター)の検討を行い、最終的にそれらの成果を反映させたUNR 127が成立した。また、最近着目されているものとして、ISO 26262のような、開発プロセスや管理手法についての規格がある。これまで、政府機関による認証は、所謂ワーストケースによる、代表試験を課し、全体としての基準を満足していると言う考え方であった。ところが、自動運転などでは、市場で現出するすべての条件に対し(「合理的に予見される範囲で」)適合性の証明が求められるようになり、一回の認証試験だけでなく開発の体制、プロセスに問題がないかと言う観点での監査が求められている。これらの領域ではISOでの証明は有効な手段のひとつである。

6.基準と規格が連携する上での課題

 基準と規格の連携の必要性についてご理解戴けたかと思う。しかし、必ずしも連携がうまく行っているとは言えない。要因としては、基準と規格で互いのニーズ゙を把握しておらず進み方がずれてしまう。基準・規格を担当して進めている人間が異なるなどがあげられる。規格の制定に必要な期間はおおよそ3年余りを要する。基準についても、行政のニーズに従って2~3年かかるが、双方が話し合ってスタートしているわけではないので、基準の最終化にあたって規格化が間に合わないと言ったことも生じる。また、基準と規格を担当して進める人間が異なるとベクトルが異なる事もあるし、管轄する政府組織も異なったりする。日本では規格は経済産業省のもとで、自動車技術会、自動車研究所などが対応しており、WP29については、国土交通省のもとでJASICが支援するというように別々である。しかし、自動運転のような高度な技術領域では基準と規格の連携がなくてはならないため産官学の基準・規格の関係者が一同に会する機会を設けて、お互いに基準・規格の進捗状況を確認しあいながら進めている。


図3:自動運転分野における基準と規格の連携


続編は6月上旬の掲載を予定しています。




 【執筆者情報】
 自動車基準認証国際化研究センター
 研究部長
 汲田 邦彦


 トヨタ自動車で、グローバルな法規・認証・標準化の業務に従事。
 その間、欧州、米国に駐在し、欧州委員会、EPA,CARBなどとの渉外を経験。
 欧州のWVTA(車両統合認証)、CO2、歩行者保護、米国環境規制などへ対応。
 標準化では、ISOのリサイクル可能率、SAEでEVの充電の規格化等を進めた。
 2017年より現職。

【自動車関連規格・書籍情報】
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WP29関連規格
ISO 19206-1:2018
路上走行車-アクティブ安全機能の評価のためのターゲット車両,交通弱者及び他の目標物のための試験デバイスび-第1部:乗用車後部のターゲットに対する要求事項
ISO 19206-2:2018
路上走行車-アクティブ安全機能の評価のためのターゲット車両,交通弱者及び他の目標物のための試験デバイスび-第2部:歩行者ターゲットに対する要求事項
ISO 19206-4:2020
路上走行車-アクティブ安全機能の評価のためのターゲット車両,交通弱者及び他の目標物のための試験デバイスび-第4部:自転車ターゲットの要求事項
ISO/SAE 21434:2021
自動車-サイバーセキュリティエンジニアリング
ISO/DIS 21448:2021
自動車-意図した機能の安全性
ISO 26262シリーズ 自動車-機能安全-
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