国連WP29(自動車基準調和世界フォーラム)と自動車規格
第1回
国連WP29(自動車基準調和世界フォーラム)と自動車規格(前編)
基準(法規)と規格の連携の必要性が叫ばれて久しい。とりわけ自動運転などの新しい技術領域でその重みは増している。国際的な基準調和の場である国連自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において規格がどのように関わり、活用されているかについて解説する。
1.自動車の基準と規格
自動車は不特定多数の方に利用される高度なマンマシンシステムであり、一旦事故が起きると、運転者ばかりでなく相手の車両、歩行者など甚大な被害を与えるほか、環境への影響など社会的な責任が大きく、他の製品と比べても数多くの基準が要求されている。また3万点にも上る部品から構成されT型フォード以来、規格化によって量産効果を高める努力がなされてきた。基準と規格が機能することで、お客様に安全・安心で廉価な車をご提供できる。
2.自動車の基準調和とWP29の成り立ち
車が各国で走行するためには、それぞれの基準に従う必要がある。基準は、その成り立ち(歴史)、使用環境条件(風土・道路インフラなど)さらに運転者の習慣などさまざまな要因から独自に作られてきた。日本も昭和26年には、はやくも安全性を確保するために道路運送車両法が定められ現在も基準の根幹をなしている。一方、自動車メーカから見ると国際的な量産品であることから基準はできるだけ統一される方が望ましい。とりわけそのニーズが高かったのが国境をまたいで走行する機会も多く、広く流通する欧州であった。国境のない世界を実現するために、欧州共同体(EEC*)ではローマ条約100条に基づきEEC指令によって車両の基準の統一が図られ、国連欧州経済委員会(ECE)のもとでは「車両・装置等の型式認定相互承認協定」(58年協定)が締結されECE規則(現在はUN規則)を作成するための最終決定作業部会としてWP29、その下に専門分野毎に分科会(現在は6つ)が置かれた。設立の経緯から、WP29は独・仏といった欧州が中心で、彼らの多くが同時にEECの加盟国でもあったため、ECE規則とEEC指令とは相似であった。日本は1987年に自動車基準認証国際化研究センター(JASIC)を設立、翌年にはジュネーブ事務所も開設しWP29の動向を把握して来た。
80年代頃より、日本車も、性能面で欧米と肩をならべ欧米を含む全世界へ輸出が拡大していった。そこで、メーカでも基準調和を希求する機運が高まった。さらに、交通事故死者が毎年1万人を超え、国内向けと海外向けの車両で安全面での仕様差が社会的に問題とされ日本自ら国際的な基準作りに参加し、取り入れて行くのは自然な流れであった。政治的にも米・欧と貿易摩擦が生じ基準・認証制度を国際化する必要に迫られていた。そのような背景で、日本も1998年に58年協定に加入した。それまでは、国際的な枠組みの活動と言えば、ISOなどの標準化の方が活発であったが、WP29への加入にともない、基準についても活動が本格的に始まった。
* 設立当初はEECだったが、機能・加盟国の拡大とともにEC(欧州共同体)となり現在はEU(欧州連合)となっている。
3.WP29(自動車基準調和世界フォーラム)の活動
WP29の活動には、基準に加え認証の相互承認制度を含む58年協定のほか、認証制度を除いたGlobal Technical Regulations世界技術基準(GTR)を作成するために「車両等の世界技術規則協定」(98年協定)もあり、日本、EUなどの58年協定加入国の他、米国・中国・インドなどが加入している。WP29では各国やEUのような地域共同体の代表による議論が行われている。日本からは、国土交通省等とそれを支援してJASICが参加している。NGOも参加可能であり投票権はないが、発言も許され、基準案も提出できる。(58年協定では直接、98年協定の場合はスポンサー国を介して可)NGOとしてOICA(国際自動車工業連合会)など業界団体に加えISO,SAE,ETRTO,ITUなど標準化団体も参加している。
図1:WP29の組織
4.WP29と日本の基準
58年協定は協定に加入している国が認可を相互に承認することができる制度である。日本は協定加入後、順次UN規則を取入れ、現在では採用数は92項目にものぼり車両安全に必要とされる基準は、ほぼ網羅している。また、自動運転のような新しい技術分野に対してもWP29で日本が主体的に議論を進め国内に取り込んでいる。日本の基準はWP29において検討されていると言っても過言ではない。近年、基準は技術の進歩、社会的要請からますます高度で複雑なものになっており、基準策定には基礎データの集積に始まり、試験法の開発、技術フィジビリティの検討など膨大な作業を伴うため、WP29のように世界中から文殊の知恵を集めて基準をつくるしくみは合理的である。
図2:WP29での規則成立プロセスと国内基準への取り込み
自動車基準認証国際化研究センター
研究部長
汲田 邦彦
トヨタ自動車で、グローバルな法規・認証・標準化の業務に従事。
その間、欧州、米国に駐在し、欧州委員会、EPA,CARBなどとの渉外を経験。
欧州のWVTA(車両統合認証)、CO2、歩行者保護、米国環境規制などへ対応。
標準化では、ISOのリサイクル可能率、SAEでEVの充電の規格化等を進めた。
2017年より現職。
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ISO 19206-4:2020 路上走行車-アクティブ安全機能の評価のためのターゲット車両,交通弱者及び他の目標物のための試験デバイスび-第4部:自転車ターゲットの要求事項 |
ISO/SAE 21434:2021 自動車-サイバーセキュリティエンジニアリング |
ISO/DIS 21448:2021 自動車-意図した機能の安全性 |
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