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ものづくり日本復活のために!~品質管理から経営管理へ~ 連載8回目

2020/04/23

小林雅之
Masayuki Kobayashi
日鉄日新製鋼建材株式会社 本社製造所
商品センター長

第4回 価格とコストのマネジメント(1)続

戦略的な価格設定のためには、個別原価の値のみに振り回されず、
  その製造プロセスに余力や生産性向上の余地があるのか、値引きによる
  売上げ数量の増加を適切に予測できるのか、事前に検討する必要がある。

製造プロセスが生産余力をもち、人員増などの固定費増を伴わない範囲で大きな増産の可能性がある場合は、そのプロセスで生産される製品の拡販がスムーズに行きやすいような管理上の工夫が必要と考える。個別原価管理では表現しきれない部分、拡販部分のメリットを適正に評価する指標を与えることにより、個々の販売員のモチベーションを高め、固定費の低減効果を享受できるような仕組みが望まれる。
この場合の“拡販部分”とは、生産余力のある工程においては、過去の生産量から算出した個別原価の値に対して、その個別原価の算定の基になった、生産量を超えて増産した製品の販売数量のことを示す。この拡販部分については、人件費や設備や建屋の賃料等の固定費分が増産の前後で変化していないので、この増産分には固定費を考慮せずに、変動費(比例費)に利益を上乗せした価格設定でも十分に企業の収益増につながるということになる。固定費分を含まない分だけ、従来の製品より、低価格を提示することができる。したがって、生産余力のある製品については、単に販売部門に対して、工場での製造個別原価の値だけを情報として伝えるのではなく、生産工程に余力がどのくらいあり、その余力で生産した場合の固定費を除いた原価の値も含めて情報として伝えて、販売部門側に柔軟な価格決定権の幅をもたせることで、売上げ増及び利益の増につながるというものである。言うまでもないが、新商品開発や改良品、品質改善などによってシェアを拡大する場合にも、可能な限り、余力のある生産設備を活用することで、魅力的な価格設定が可能になる。
なお、実際にはどこまで売上げ数量を拡大できるのかは、自らの生産能力だけではなく、マーケットの規模も関係してくる。マーケットの規模と自社のマーケットでのポジションを考えなければならない。いくら余力があるといっても、自社製品のマーケットシェアが全体の70%にも達するトップ企業であるならば、2 倍、3 倍の売上げ数量の増加は見込めないので、増産による固定費低減による値下げ戦略を取ることが困難といえる。もちろん、圧倒的なコストダウンが可能で、該当製品のマーケット以外の領域も対象とし、異なるマーケットの顧客をも引き付けることが可能な価格設定ができる場合は別である。また、マーケットシェアが2 位以下のグループにいる企業の場合は、売上げ数量の2 倍、3 倍の拡大の可能性があるならば、増産と値引きの最適ポイントを検討する価値は大いにあるということになる。いずれにせよ、戦略の実施にあたっては、

マーケットの規模と自らのポジション(シェア)の確認が必要である

といえる。
また、同様な理由で、新規参入の若い企業の低価格戦略も説明できる。新規参入の若い企業では、社員の平均年齢が若く、人件費そのものが低いことと、過去に退職した社員への企業年金の負担もない(あるいは少ない)こと、最初から自動化された生産設備を導入している等の原価(固定費)上の競争力がある。このため、新規参入企業の場合、会計上は、その製品の生産に必要な設備への投資は、原価償却費として固定費に入るが、キャッシュフロー的には設備投資費用は埋没費用となる。したがって彼らは、この部分にあまりかかわらずに、更なる拡販から総収益増につながる可能性があるなら、マーケットにとって魅力的な価格設定をし、シェアを拡大し、以後の安定した生産・販売量の確保に努める戦略なのである。結果的に、ある程度低価格であったとしても、十分な売上げ数量が稼げるなら設備投資の減価償却も順調に進むことになる。
なお、新規参入企業も、いずれは平均年齢が高くなり、人件費が上昇し、企業年金の負担も生まれ、固定費面の競争力は低下する。したがって、そのような状況になる前に、大きなシェアを確保し、顧客を抱き込み、競争相手を駆逐し、スケールメリットによって原材料費等の購入価格の交渉力を高め、将来的な競争力を維持するという手法も重要な戦略の一つとなる。大きなシェアをとることは、ランチェスターの法則でも知られるように、企業の競争力維持に大きな効果をもたらすものであるのだから。

2.価格戦略/新製品の投入

価格設定の難しさの例として、従来品に比べ品質が改善された製品、新しい機能を付与された製品をマーケットに投入する場合について考えてみよう。

従来製品は、原材料にA、B、C を用い、プロセスA ⇒ B でつくられ、新製品は原材料A、Y、Zを用い、プロセスA ⇒ C でつくられる。両者の共通部分は、原材料A とプロセスA のみで、後は原材料もプロセスも異なるものである。
価格戦略は、その製品のコスト、生産性と機能、品質、ブランドといった価値の条件で変わっていく。場合分けをして考えてみる。

① 新製品が低コストで高品質・高機能の場合

コスト   従来製品 > 新製品
機 能   従来製品 < 新製品
品 質   従来製品 < 新製品
生産性   従来製品 < 新製品

この場合は、コストが安くて、生産性も高い(大量に生産可能)、なおかつ機能や品質も優れている場合であるから、早急に従来品から新製品へのリプレースを推し進めるべきとなる。
新製品へのリプレースが完了すると、原材料B、C は不要になり原料在庫をもつ必要はなくなる。また、プロセスB を休止させることもできる。より低コストで大量につくることができて、価値も高い新製品に集中することで収益性が大きく改善する。従来製品と新製品の両方を生産していても利益は出るが、新製品に一本化した方がはるかに収益は改善される。可能な限り短時間で共食い(カニバリゼーション)をさせるべきなのである。
この場合の価格戦略は、

従来品:値上げ(あるいは現状維持)
新製品:従来品より低価格に(値上げした従来品より安く)

顧客が進んで新製品へ切り替えることを促すことがポイント。中途半端では、従来品が残ってしまう。そうなると得られる成果は半減する。無理なく迅速に一本化することができる価格設定が求められるのである。ここで、よくある間違いが、新商品は高価値なのだから、価格を吊り上げ、従来品は競争力が低下し他社製品とのシェアの関係もあるので価格を引き下げるというもの。こんなことをしていては、両方の製品が生き延びてしまい、収益性の悪い従来品を止めることができなくなってしまう。
次に、新商品の製造コストは従来品より高く、生産性も低い(大量につくれない)、しかし機能や品質は従来品より優れている場合の価格戦略を考えてみる。

② 新製品が高コストで高品質・高機能の場合

コスト   従来製品 < 新製品
機 能   従来製品 < 新製品
品 質   従来製品 < 新製品
生産性   従来製品 > 新製品

この場合は、高機能や高品質という売りやすい面があるが、コストが高く、生産量も稼げないので、必然的にマーケットで一定のシェアを確保するためには、従来製品と新製品を混在させ、共食いをしないようにしたい。従来品をしっかり売りながらも、特定の顧客で高性能・高機能を求める顧客が、従来製品より高いが、機能から見て快くお金を払う価格に設定する必要がある。したがって、この場合の価格戦略は、

従来品:現状維持
新製品:従来品より高価格に

となる。一般的な新製品はこのパターンが多いので、価格設定はあまり悩まないといえる。将来、画期的な生産技術改善によって、コスト・生産性が向上した後には、再度一本化を検討することとなる。
なお、実際のマーケットでは、競合他社の出方により新製品の投入の仕方も変わり得る。これまで多く見られた現象は、新規参入企業が、

品質・機能は劣るけれど、かなりの低価格といった製品を
マーケットに投入してきた場合は要注意である。

マーケット投入の初期時点では、安かろう・悪かろうの製品だから脅威には感じない。しかし、1、2 年後には品質も改善し、マーケットシェアの大部分を低価格製品に押さえられてしまうというものである。家電製品(PC、DRAM、HD 等)で多くの事例がある6)。
そのような製品がマーケットに投入された場合には、そのマーケットで生き抜いていくと決めたならば、品質・機能を適正化(過剰品質・機能を削る、よりシンプルな廉価版の投入等)しながら、

参入企業より安い価格で新製品を投入し、
彼らの参入の意志を砕かなければならない。それも、
できるだけ早いタイミングでそれを行う必要がある。

マーケットで生き残るためには、戦える新製品を早急につくり、投入しなければならない7)。競争相手が強大になる前に、弱いうちに叩くことが大切なのである。もちろん、競合他社がはるかに高いコスト競争力をもつ場合は、マーケットを移る(引っ越す)ことも必要である。

引用・参考文献
6) 湯之上隆(2009):イノベーションのジレンマ/日本「半導体」敗戦、光文社
7) スチュアート・クレイナー、デス・ディアラブル著、関和美訳(2014):THINKERS 50 /イノベーション、pp.46–48、プレジデント社

ブラックジャックによろしく 佐藤秀峰
http://mangaonweb.com