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ものづくり日本復活のために!~品質管理から経営管理へ~ 連載7回目

2020/01/24

小林雅之
Masayuki Kobayashi
日鉄日新製鋼建材株式会社 本社製造所
商品センター長

第4回 価格とコストのマネジメント(1)

1.価格戦略 値下げの戦略

価格というものは,顧客が快くその価値に支払ってくれるであろう金額に設定することが基本である。ただ単に売れる値に設定するのでは,企業の収益をかえって悪化させてしまうことにもなりかねない。価格設定においては,価格の設定値と,その値がどれだけマーケットに受け入れられるかを可能な限り正確に予測することが大切である。予測なしに,行き当たりばったりの価格設定では,確かな経営などできないということである。価格設定は収益に直接的に影響する経営判断1),2)なのだから。

1.1 値下げ戦略が失敗する場合

売るために値引きする場合には,いくら値引きしたらどのくらいの数量が多く売れるのか,予測が精度良くできていないと,かえって損害が大きくなる。値引きしないで,売れる量だけ売った方が全体の利益が大きい場合もある1),2)。以下にその例を説明する。
◀例▶
これまで,原価が1 個当たり900 円で,売価が1,000 円であった商品が毎月1,000 個売れていたが,競合相手の値引きにより売れ行きが悪くなり,800 個しか売れなくなった。そこで,競合相手に勝つために,売価を950 円に下げたところ1,200 個まで売上げが回復,増加した。これは正しい判断であったのか? 以下のように利益を計算して考える。
これまでの利益①
(1,000 円-900 円)×1,000 個 = 100,000 円の利益
競争相手の値引き後の利益②
(1,000 円-900 円)×800 個 = 80,000 円の利益
競争相手に対抗,当社も50 円の値引き実施をした場合の利益③
(950 円-900 円)×1,200 個 = 60,000 円の利益
*実際には,売上げ個数の変動は,工場の操業度を変動させることから1 個当たりの原価の変動につながる。したがって,厳密な比較をする場合には,原価の変動も考慮しなければならない(増産により固定費は安くなるが,今回はシンプルに考えるため,このレベルの変動は無視して計算する)。

何と,950 円に値引きした結果は,値引き前と比較し,利益が20,000 円下がり,

いろいろ考えて値引きという行動をとった結果,
何もしないよりも,利益が更に減じてしまうことになった。

これでは,検討した意味がない。したがって,これまでの経験や実績等から,値引き額と売上げ増の関係をつかみ,精度の高い予測を立て,価格設定をしていかなければならない。プライシング戦略がいかに大切か,価格と売上げ数量の予測をいかにして行うかということは,収益に直結する活動なのである。
それでは,もう少し詳しく表と図で表現してみる。これまでの利益①と競争相手の値引き後の利益②については,1 個当たりの利益はどちらも100 円/個であるから,Ⅹ個の売上げの場合の利益は100×Ⅹとなる。次に,競争相手に対抗,当社も50 円の値引き実施した場合の利益③については,1 個当たりの利益は50 円/個であるから,Ⅹ個の売上げの場合の利益は50×Ⅹとなる。表1,図1 に前述の①~③のケースと④,⑤のケースを追記した今回は,単純化のため,原価の大半は比例費で,増産による固定費低減は考慮しない。

今回,競合他社との対応上,50 円の値下げを実施した結果,③のように,売上げ個数並びに売上高ともに,②はおろか,従来の売上げ個数,売上高の①をも超えるものになった。売上高が回復どころか,以前より14%も増加となったのである。多くの人は,この売上高に一喜一憂してしまうことが多く,売上高のわなにはまってしまう。実は,利益は②より更に悪化しているのである。
②と同じ利益を出すには,④のように今までの1.6 倍の売上げ個数が,従来の①と同じ利益を出すには,⑤のように2 倍の売上げ個数の達成が必要なのである。価格設定には,戦略がなければならないのである。
本当に,今より1.6 倍,2 倍の売上げ個数が達成できるのか? たちまちの利益は減少するかもしれないが,売上げ個数増により,マーケットシェアを大きく伸ばし,シェアNo.1 となり,将来的に価格コントロールが可能となる業界でのポジションを築くことができるのか? という事前の検討・戦略が必要なのである。それなくしては,自分で自分の首を絞めることになりかねない。

1.2 低価格化で十分な収益を出す理論3)~ 5)

それでは,具体的な価格戦略について考えてみよう。ここからは,固定費も考慮する。価格戦略としてまず考えなければならないのが,設定した価格で,どのくらいの数量が売れるのかということである。売れる数量を予測することができなければ,生産量が決まらず,生産量が決まらないということは,コスト(主に固定費)が決まらない。これでは,利益が出るのか,出ないのかもわからないということになってしまうのである。
ある程度成熟した商品マーケットで,たくさんつくって,たくさん売って儲ける場合は,たくさん買っていただくために,他社の商品より価格を下げる戦略をとる企業が多い。一般に,

コストに占める固定費の割合が高いほど,この戦略は有効である

と言われている。これは,コスト構造において大半が比例費であったならば,生産しただけ費用が掛かるので当たり前のことである。固定費の比率が大きく,増産の余地が大きい場合に,この価格を下げて販売数量を拡大する戦略が収益的に成功するのである。
言い換えるなら,収益を増大させるほどの増産をする余地がない場合(人員増や店舗数増が増産のために必要な場合)は,価格を下げての「増産⇒拡販⇒収益増」の戦略は成り立たない。増産にあたり,一般的な固定費である人件費,工場建屋の賃借料,広告費,販売促進費等が,現状のままでも対応できるときに,価格を下げての収益拡大が成功しやすい状況となるのである。
図2 でわかりやすく説明すると,ある工場で生産販売している商品において,もともとは左側の固定費=6 で生産されていた。1 個当たりの利益=1 で,毎月10 個売れていたので,総利益=10 となっていた。この工場では,生産ピークにあわせて従業員を雇用しており,ピーク時以外には,従業員は休んでいた。連続的に,ピーク時の作業量をこなした場合には,月の生産量を3 倍程度に拡大することは可能であった。そこで,段階的に値下げをしていき売上げ数量と生産数量を2 倍,3 倍にしていくこととした。
売上げ数量を2 倍,3 倍にするためには,他社製品よりも売価が魅力的でなければならないので,その都度,値下げを実施した。売上数を2 倍にするときは,売価を12 ⇒ 9 へ,2 倍から3 倍に売上数を増やすときには,売価を9 ⇒ 8 へ下げたのである。元の売価より33%も値引きしたのである。

しかしながら今回の例では,総利益は10 ⇒ 20 ⇒ 60 へと増加している。このからくりは,図2 で示した,固定費(製品1 個当たり)の大きな低減にある。もともと,従業員を生産ピークにあわせた人数分確保しているわけであるから,ここの余力を十分に活用することにより,製品1 個当たりの固定費を大きく低減でき,売上数の増加につなげることができた。この売上数の増加は生産数量の増加となることから,原材料の使用量の大きな増加となり,最終的には納入業者との交渉力の強化につながり,この部分で原材料の値引きも可能になった。トータルの製造原価は更に低減され,更に値下げをしても,それ以上に十分な利益を確保可能とすることができる。この例は極端な例ではあるが,

大きな生産余力のある場合,
大きな生産性向上が見込める場合は,
大胆な価格設定で勝負に出るという戦略がとれる。

このことを理解していないと,販売政策において間違った判断をしてしまうことになる。一般的に,企業は製品ごとに個別原価を計算して,各々に,あの製品は利益があるが,この製品は製造原価が高いから利益が出ないといった判断をし,できるだけ利益が出るものを優先して拡販しようとする。しかしながら,売れる製品の製造プロセスはいつもフル生産体制であり,これ以上増産ができないとしたならば,社内の別の製造プロセスに目を向けてみることである。すなわち,社内で大きな余力をもった製造プロセスに目を向けろということである。この製造プロセスから生まれる製品については,売価と売上げ数量の関係を精度よく予測できるなら,顧客にとって大胆で魅力的な価格設定でありながらも,十分な総収益を得られる数量―売値バランスのポイントがあるかもしれないということである。

引用・参考文献
1) マイケル・V. マーン,エリック・V. ログナーほか,村井章子訳(2005):価格優位戦略,pp.3–8, ダイヤモンド社
2) DIAMONDO ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編(2005):価格戦略を知る者が利益を制す,第7 章,pp.176–188,ダイヤモンド社
3) 上田隆穂編(2003):ケースで学ぶ 価格戦略・入門,pp.19–32, 有斐閣
4) 藤田精一(2013):損得計算入門,pp.76–96,日経BP 社
5) 千住鎭雄編(1986):経済性分析,pp.28–30,日本規格協会

ブラックジャックによろしく 佐藤秀峰
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