NEWS TOPICS

会員向け情報はこちら

第1回 ナレッジマネジメントシステムの国際規格 ISO 30401

ISO 30401 ナレッジマネジメントシステム

第1回
ナレッジマネジメントシステムの国際規格 ISO 30401 の活用

 日本ナレッジ・マネジメント学会が監修したナレッジマネジメントシステムの国際規格 ISO 30401:2018 Knowledge management systems – Requirements(以下 ISO 30401)の英和対訳版が、一般財団法人日本規格協会から発行された。
 新しく発行されているISO国際規格は、以下のように知識に関する記述を含むようになってきている。知識について改めて検討する良い機会でもあり、本稿ではISO 30401の概要を紹介し活用方法を提案する。
・「ISO 9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項 」の箇条7.1.6
・「ISO 9004:2018 品質マネジメント-組織の品質- 持続的成功を達成するための指針」の箇条11.3.2
・「ISO 56002:2019 イノベーション・マネジメント-イノベーション・マネジメントシステム-手引」の箇条7.1.6

1. ISO 30401の概要

 ISO 30401はISOのマネジメントシステムの1つであり、要求事項部分の構成(箇条4~10)は基本的に他のISOマネジメントシステムと同じである。ISO 30401の構成を図1に示す。
 箇条4~10以外では、各マネジメントシステム固有の内容を記述してよいことになっている。ISO 30401の序文に記載されている「知識は無形の組織資産であり、他の資産同様に管理する必要がある。労働者が過去の経験と未来への新たな洞察に基づいて問題を解決し、効果的な意思決定を行い、一致した行動を取ることができるように、知識を開発,統合,維持,共有,適応,適用する必要がある」というナレッジマネジメントの重要性、そして基本原則(知識の性質,価値,焦点,適応性,共有された理解,環境,文化,反復)は、ナレッジマネジメントの位置付けや役割を改めて考える良いきっかけとなる。


2. ISO 30401の活用方法

 効果的かつ全体的なナレッジマネジメントシステムの実施のため、2つの組織活動を提案する。

①ナレッジライフサイクルを意識した変更プロセスの組み込み
 知識自体は変わっていくモノである。また、知識自体が変わらなくても周囲の環境が変われば、その価値は相対的に変わっていく。ISO 30401では、網羅すべき「知識開発」の4つの段階が示されている。筆者が関係付けした知識開発段階を図2に示す。
 この知識開発の段階を変更プロセスとして確立し、維持し、継続的に改善していくことが提案の1つである。


②知識の流れを支援する活動及び振る舞い
 ナレッジマネジメントシステムに含めるべきモノとして、ISO 30401では異なる種類の知識の流れを支援する活動及び振る舞いが示されている。筆者による関係性を含めた知識の伝達及び変換活動を図3に示す。
 ISO 30401では暗黙知/形式知,SECIモデルには言及されていない。「どの用語が使われるかはあまり重要ではない」と附属書Aで記述されているが、実質的にこの部分がそれに該当する。知識の伝達・変換を澱みなく流す活動の確立,維持,継続的な改善が、提案の2つ目である。


 ISO 30401では、知識を連続体として理解することの重要性が指摘されている。ライフサイクルを意識しながら継続的に知識を「変換」させることが、知識喪失のリスクを低減し、知識による組織の価値創出を促進する。

3. ISO 30401の今後

 ISO 30401については、Amendment (追補)が提案されている。箇条3で定義されている用語の一部に対する変更と用語の追加が提案されており、Draftが2021年6月10日に公開された。日本からもコメントを提出済で、ISOでの審議が待たれる。
 いわゆる「Withコロナ」の環境で、従来とは異なるナレッジマネジメントが求められている。日本ナレッジ・マネジメント学会は、2020年6月6日にミッション・ビジョン・バリューを発表して様々な研究活動を行っており、2021年1月からはDX連続講座を開始している。ISO 30401や関連規格についても学術的な立場での貢献を続けていく。興味・関心のある方の参加を歓迎する。
 日本ナレッジ・マネジメント学会HP   https://www.kmsj.org/



 

【執筆者情報】
 日本ナレッジ・マネジメント学会
 理事/ISO等標準化研究部会長
 齋藤稔




【規格情報】

ISO 30401:2018 ナレッジマネジメントシステム-要求事項
《原文・対訳版》