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第2回 JIS Z 8210 案内用図記号の変遷

図記号と規格

第2回
JIS Z 8210 案内用図記号の変遷

 第2回では、テーマを2020東京オリパラ、ジェンダー関連図記号そして世界の図記号のバリエーションに絞って、案内用図記号の変遷を述べる。

1. 2020東京オリンピック・パラリンピックへの対応

 2017年の改正は、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、国際整合性の確保のために6項目の図材を変更するとともに、2015年より公益財団法人エコロジー・モビリティ財団で検討された41項目から15項目の新規図記号を追加したもので、大きな改正となった。オリンピック競技種目ピクトグラムのような華々しさはないものの、オリパラ開催時に情報のインフラを支えるとともに、2020年以降も役立つことを目途として作成された。また、この時、JIS Z 8210とは異なる形でISO図記号となった温泉図記号も検討され、理解度試験の結果を踏まえて、国内用には従来の図記号を、国際的に対応する場合はISOイメージの図記号を使用することができる、JISでは珍しく併記の形をとることになった。そして2020年の追補3は、2020東京オリパラに間に合うよう、トイレ、授乳室関連と、カームダウン・クールダウン図記号を追加したもので、これらの図記号は新国立競技場でも採用されている。


図1:2020東京オリパラ対応図記号

2. ジェンダーに関係した図記号の変化

 2002年に発行されたJIS Z 8210には、ベビーカーをエスカレーターに乗せることなどを禁止する「ベビーカー使用禁止」が掲載されている。それから11年後の2013年、国土交通省では、ベビーカーが利用しやすい環境を促進させるために協議会を設置し、設備の充実とともに、ベビーカー使用者が安心して利用できる場所や設備を明示する図記号を作ることになった。その際、すでにある「ベビーカー使用禁止」図記号から禁止を示す赤円と斜線を削除するだけでもよかったのだが、問題になったのが、ベビーカーを押しているスカート姿の女性で、「このままではベビーカーを押すのは女性というイメージを固定してしまうのでは?」という意見が出て、最終的に中性の人がベビーカーを押している姿に変更された。その後、2020年に授乳室の図記号を再検討する際も、男性も利用できる授乳室が増えてきていることから、「授乳室(女性用)」「授乳室(男女共用)」の2通りの図記号を作って、男女ともに安心して使えるようにした。
 そして、同じく2020年、共生社会という広い視点で図記号を見直したとき、トイレの男女区分に様々な問題があることがわかってきた。一つはトランスジェンダーの人が性を意識しないで利用できる設備がなかったこと、もう一つは夫婦間あるいは親子間をはじめとして介助が必要な場合の異性介助が気がねなくできるトイレがなかったことだ。もちろん、いままでの「多機能トイレ」は解決手段の一つではあるが、誰でも利用できる一方で、障害のある人から「使いたいときに使えない」という指摘が多く寄せられていた。そこで生まれたのが男女共用トイレの発想だ。設備的には介助のために二人入ることができる少し広めが理想的で、男女共用トイレを表示する図記号に色彩を使うことは特定の性をイメージさせるので望ましくない。また、性別に関わらず利用できるので、図記号の男女間の仕切り線は不要だ。このようなアイデアでできあがった「男女共用お手洗」図記号は、今までと見た目はほとんど変わらないが、色彩による精神的なバリアを取り除き、性を意識しないで利用できる、まさに共生社会にふさわしい図記号となった。


図2:左からベビーカー禁止の変化、授乳室(女性用)と(男女共用)、お手洗(男女)と(男女共用)

3. さまざまな世界の図記号

 2021年現在、ISO/TC145図記号委員会には20か国のPメンバーと32か国のOメンバー、その下のTC145/SC1公共案内用図記号委員会には15か国のPメンバーと21か国のOメンバーが参加している。ではSC1のPメンバーがすべて国際規格のISO7001:Public Information Symbolsを使用しているかというと、その対応は様々だ。例えば、世界の中でも、最もISO7001を導入していると思われる中国は、「GB/T10001 標識用公共情報図形記号」という名称の規格で、ISO7001に準拠しながらも数多くの独自の図記号を加えている。また、デンマークはISO7001と共にDS 2301-1という国内規格を有し、体裁はISO7001に準拠しているが、中身はデンマークらしい丸みを帯びたデザインとなっている。
 一方、韓国はKSA 0901という国内規格を有していたが2013年にKS S ISO 7001に変更、英国もBS 8501というISO7001の基となった図記号集を有していたが、2019年にBS 8501を廃止し、BS ISO 7001として、両国とも全面的にISO7001を採用した。
 このように、世界各国の対応は様々で、図記号もそれぞれ異なるが、それでは理解できないか、というとそうでもない。その理由は、(人の形に例えて言えば)骨格がしっかりしているからで、そこにどのような肉付けをしようが、理解度に差は生じない、むしろ地域性が出て好ましいともいえる。ISO7001には、「図記号が理解できる範囲であれば、国や文化の違いで、ある程度のグラフィックの変更が許可される」ことが明記されており、デザインの一貫性を維持することで国際レベルの理解度の向上を図る、まさに標準化の理念が述べられている。
 ちなみに日本はJIS Z 8210原案作成時のポイントとして次の3点を挙げた。
・幅広い利用者にとって、見やすく、わかりやすい図形であること
・図形間に整合性があり、スタイル上の統一がとれていること
・審美性において、国際的にも評価される水準にあること
 要は、それぞれの地域でそれぞれの文化性を発揮しながら、国際的にも共通理解の得られる造形を保つことは、まさに1964年東京オリンピックの際にデザイン専門委員会のディレクター勝見勝が唱えた「国際シンボルのリレー」とも一致する、図記号標準化の望ましい姿といえるのではないだろうか。


図3:トイレ図記号の比較

【執筆者】
児山啓一(こやまけいいち)
1950年岡山県生まれ、千葉大学工学部工業意匠学科卒。株式会社 アイ・デザイン代表取締役。
主に空港や鉄道の公共サインを専門とするデザイン事務所を主宰する。
  ・JIS案内用図記号のデザイン原則及び試験方法JIS委員会委員、同分科会主査
  ・ISO/TC 145/SC 1 案内用図記号 国内委員会委員
  ・2021年8月に書籍『世界ピクト図鑑』(ビー・エヌ・エヌ)を出版

図記号関連規格・書籍
JIS Z 8210:2017
案内用図記号
JIS Z 8210:2017/AMENDMENT 1:2019
案内用図記号(追補1)
JIS Z 8210:2017/AMENDMENT 2:2019R
案内用図記号(追補2)
JIS Z 8210:2017/AMENDMENT 3:2020
案内用図記号(追補3)
JIS T 0103:2005
コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則
JIS HB 60 図記号 2020
JIS Z 8210:2017 案内用図記号データを販売しております。詳細は こちら をご覧ください。 その他の図記号データを販売しております。詳細は こちら をご覧ください。