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第2回「繰返し除菌JIS」インタビュー(後編)

「繰返し除菌JIS」インタビュー

第2回
「繰返し除菌JIS」インタビュー(後編)

 2021年3月に制定されたJIS Z 2811:2021(繰返し除菌性試験方法)
 この規格は「繰返し除菌」効果の試験方法を定めたものですが、どのような特徴があるのでしょうか?
 後編では、JIS開発の経緯や消費者にとってのメリットなどについてお話を伺いました。

JIS開発の経緯

JSA(以下「J」):
このJISの成立の経緯を教えてください。
射本氏(以下「射」):
先ほどお話しましたとおり、除菌という言葉は昔から色々な業界で使われていて、一般消費者にも意味内容はともかく、単語に関しては、意外と知られている言葉と言えます。
ただ、JISにおいて、抗菌の試験方法はありましたが、除菌の性能評価の規格はありませんでした。特に衛生環境が求められる場所に関して、除菌という単語を改めて整理をして、そのような製品の性能の訴求に繋げる、これはひいては、一般の方々への衛生環境の提供に繋がるのではないか、という想いが背景にありました。
J:
「繰返し」というのは今回のJISのキーワードのように思います。
高麗氏(以下「高」):
この名称については、色々な議論がありました。当初「持続」という単語も候補として検討されたのですが、この規格が、こす(擦)りなどの機械的な刺激に対する耐久性試験ではなく、製造直後の初期性能を評価するための試験方法規格であることに立ち返り、また、「細菌数を減少させる効果が続く」ことも表現できる単語であることから、最終的に「繰返し」が選ばれることになりました。
射:
先ほどもお話したとおり、今回の繰返し除菌の考え方は、使用環境において、「特に衛生的な環境が必要な場所」が対象です。
一般論にはなりますが、「掃除の回数が減る」とか、「菌が繰返し付いていても、衛生度が継続する」というものも含めた繰返しのイメージをしています。「1回菌が付いてしまったらもう効かない」のではなく、「ある程度の期間除菌性能が続く」というのを見ようとしています。
例えば、先ほどご質問のあった「スプレー」ですが、こちらも優劣ではなく、吹き付けた瞬間はもしかしたら表面において除菌性能を持っているかもしれませんが、一回拭いたらとれる性質の場合、除菌性能は残りません。
製品としてもそうですが、加工表面の性能を評価するという意味で、1回ではなく、ある程度性能が続く、ということを除菌の修飾語として付けました。「除菌」は、「繰返し除菌」を定義するために定義したと言えます。
J:
実践的な規格であるということですね。
射:
そうですね。もちろん、使用現場の汚れの度合いなどによっても、効果などは変わってくるとは思いますが、製品の性能評価のスクリーニングという位置づけですね。
そこから少し踏み込んで、ある程度性能が続くところを評価する試験方法を作った、ということです。
J:
除菌加工の仕方について、このJISでは指定があるのでしょうか?
射:
樹脂製品であれば練り込みでもいいですし、製品の表面の性能が確保出来ていれば方法は問われません。

消費者へのメリットなど

J:
この規格ができたことで、一般消費者にどのようなメリットがあるのでしょうか?
射:
JISの本質は、統一的な方法論で、様々な製品を横並びで比較できる、というところにあると思います。今回、「除菌」という定義を明確にし、それを統一的に評価できる、というところが先ずはあると思います。繰返し除菌という意味では、メーカー目線で考えるならば、特に衛生が求められるところに、メーカーが自社製品を提示することになるのかもしれませんし、それを何らかの形で表示すれば、消費者も理解できたり、安心すると思います。
つまり、メーカー側にとっては、消費者への啓発活動にも寄与すると思います。もちろん、メーカーや製品が乱立するなどの可能性もありますが、より「除菌」という言葉が浸透していって、消費者も正しい用語、正しい性能の理解に繋がることは大きいと思います。
J:
最近マスクのJISもでき、JISに基づいて試験をした、などを表示しているメーカーも出てきています。今回のJISも見た目で分かるような工夫(マークなど)がされる可能性はあるのでしょうか?
射:
JISマーク認証という形では無いと思いますが、このJISを使って、業界認証を行う議論がなされているのは事実です。マークなども今後の可能性としてはあるかもしれません。
高:
メーカーに聞いたところでは、「今回のJISで『指標、ものさし』ができたことで、この指標をクリアすべく、技術開発が進むだろう。」とのことでした。これにより、消費者にとって選択肢が増えれば、それはメリットになるのではないでしょうか。
また、一般の方だけでなく、地方公共団体、交通機関など、調達をする側にとっても、これまでは要件を個社がバラバラに定義をしていたため、適切な製品を選びにくいという課題がありましたが、JISとして一つの評価項目が示されたことで、整理もしやすくなり、メーカーも公平な競争ができ、消費者も誤った選択をせずに済む、というところも期待できると思います。
J:
最後に今回のJIS開発で苦労された点などお聞かせください。
射:
そうですね、抗菌製品はこれまで幅広く訴求されているので、そこに優劣をつけてはならないという部分は気を付けました。先ほど高麗先生もおっしゃったとおり、環境ごとの適切な加工というものがあって、過度な加工が必要のない場所もあります。除菌は抗菌よりも優れているということではなく、あくまで種類の違いとして共存させることが重要でした。そのためには、誤解の無いような定義を作る必要があり、かつ、既存の抗菌規格とかけ離れないように既存規格の方法論を踏襲しつつ作る、という点に気を配りました。
J:
JISの中でも新しい、今まで無いような概念を作るのは大変なことなのですね。本日は貴重なお話をいただき有難うございました。


【話し手】
 工学博士
 徳島大学名誉教授
 日本防菌防黴学会名誉会員、高麗微生物研究所 所長
 高麗 寛紀



【話し手】
 工学博士
 大阪大学大学院工学研究科 博士課程修了
 一般財団法人日本繊維製品品質技術センター 神戸試験センター センター長
 射本 康夫


 細菌、かび、ウイルスを用いた微生物試験業務に従事。
 微生物試験に関連したJISやISO規格の制定に携わる。
 ISO/TC38/WG23コンビナー、ISO/TC61/SC6/WG7エキスパート。