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第3回JIS Y 2001の概要③(全3回)

JIS Y 2001(貸出福祉用具のメンテナンス工程の管理に関する一般要求事項)制定にあたって

第3回
JIS Y 2001の概要③

1. 改善と是正の違い

 マネジメントシステムをよく理解していれば、改善と是正の違いを有効的に活用しているはずだが、JIS Y2001で初めて規格を目にした者で、苦情、対処、改善、是正について、明確に理解している方は少ないかもしれない。
 端的に説明すると、回答や対応を要求する意見が苦情であり、苦情に対して取り急ぎの対応を行うことを対処という。苦情や問題が発生していない状態で効率向上や事故予防対策を実施することが改善であり、苦情や問題が発生した場合に再発防止策を講じることを是正という。

 福祉用具を利用する人は、身体的な問題を持っていることが多く、使用する福祉用具に不具合が発生した場合、その福祉用具が使えないと、生活ができなくなるケースが往々にみられる。
 そのため、「取り急ぎ」という名目で、不具合のあった福祉用具の同等品を、交換によって提供することが多い。貸出福祉用具の流通においての問題は、苦情に対する対応が、この「同じ商品あるいは同等品との差し替え」という対処で済まされており、再発防止策を講じていない、つまり、是正処置がされていないままになっていることで、同じ問題が再発するということである。
 この同等品との交換は「対処」であって、是正処置ではないという認識を持つことが重要である。
 問題が発生した場合は、同じ問題が再発しないことが重要であり、そのためには記録に基づいて原因を究明し、対応策を検討しなければならない。
原因を究明するためには、運用している作業工程の基準となる文書の見直しが効率的と考えられるが、文書とその文書に基づいて実施している記録がなければ、原因を究明することが非常に困難になってしまう。

 対処や改善も含め、是正のために再発防止の策を講じる際には、行った判断の記録を保持することが重要であり、この記録の文書は、分析やスパイラルアップ(※1)の検討に利用することができる。
 特に、苦情に対して改善や是正を行う場合、行った改善や是正が適切であったかどうかを判断するレビューによって、その改善や是正の策が効果的であったか否かを評価することが重要となる。
 また、苦情、発生した苦情の原因究明、その原因が再び発生しないことを目的とした是正を確定させた判断理由、これらの記録がないと、適切なレビューを行うことができない。改善の場合も、改善するという判断に至った要因が明確であり、どのように改善されることを目的としたのかを記録で残しておかなければ、同じく、適切なレビューを行うことができない。
 「レビュー」を簡単に説明すると、是正の場合は、問題が再発しない状態になったかどうかがポイントとなり、改善の場合は、求める結果に至ったかどうかがポイントとなるということである。このレビューによって、求める達成基準に満たない場合は、継続あるいは新たな対応策を講じることとなる。
 ※1 改善が奏効しあって継続的な改良・向上に結びつくこと。「善循環」「好循環」とも言う。

 

2. JIS Y2001の活用

 有償無償を問わず、継続的にメンテナンスを行う場合、一定品質の担保が必要と考えられる。製造のフルオートメーションによる作業工程とは異なるため、最初にプログラミングしておけば一定品質が保てるわけではない。
 つまり、継続的なメンテナンスを一定品質が担保された状態で行うためには、メンテナンスマニュアルの保持だけではなく、その各マニュアルの運用ルールや人材育成を主とした、様々な文書の作成と活用をルール化し、曲解や誤認識することなく、そのルールに従った作業を行うことが有効手段となる。

 一般的なマネジメントシステムを、当該工程に当てはめて実施することは可能だが、対象を「貸し出す福祉用具のメンテナンス作業工程」に絞り、具体的な要求事項が列記されているJIS Y2001に則ってシステム構築を行えば、新規参入事業者にとっては、最低限の品質を確保した状態での参入がしやすくなる。
 既に事業を行っている場合は、今まで指標がないという状態で、企業モラルやJIS Q9000シリーズのようなマネジメント規格の読み替えに則って実施してきた品質の担保を、貸出福祉用具のメンテナンス工程に絞って指標として明確化されたJIS Y2001の要求事項に則って実施することで、実際に行っている品質管理の必要性や、ともすれば、それらにかかる必要経費の正当性を訴えやすいという考え方もできる。
 日常生活に支障をきたしている人が使用することが多い福祉用具は、安全性については徹底してレベルを高く保つ必要があることを踏まえると、品質の担保は欠かすことができない。
 品質の伴わない安価なものほど危険なものはないということは誰もが理解していると思うが、言い方を変えれば、品質を確保するためには、コストをかける必要があるということである。

  JIS、それ自身では法的強制力はないが、JISを順守していることで、一定品質を保っているということはできる。しかしここで、順守している証明をどのように行うかという問題がある。
 一般的に知られている方法は、JISマーク表示制度という仕組みに則って、認証審査を受けるという方法があるが、全てのJISに認証システムがあるわけではない。
 このJIS Y2001も現時点ではJISマーク表示制度の対象ではないため、適合していることを表明する方法としては、自己適合宣言という手法がある。しかし、自らを評価することの信頼性に対する疑念を持たれることを鑑みると、JISマーク認証のような、第三者の認証機関などに評価を求めるという手法がより有効的と考えられる。

  JIS Y2001に基づいた認定登録制度として、福祉用具を主対象とするJNLA登録第三者試験所である一般社団法人日本福祉用具評価センター(以下、JASPECとする。)が発足させた「あんぜん整備認定制度」という民間認定登録制度がある。
 本制度は認定登録をJASPECが運営、また、この認定プロセスの重要な一要件である「検査要求事項に基づく検査」の実施を、外部第三者機関(現在は一般財団法人日本品質保証機構(JQA) )に委託することで、検査の公平性・透明性を高めている。
 この認定登録制度を活用し、JIS Y2001の要求事項に適合していることの表明を行うことで、確かな信頼を得ることができると言える。
 JIS Y2001を新たな制約として受け取るのではなく、供給者と消費者の信頼の架け橋に必要な指標として、また供給者の必要経費の根拠として捉え、この要求事項に則って作業工程管理を行ってもらいたいと考えている。


図1:あんぜん整備認定制度

 

 

【執筆者】
西山輝之(にしやまてるゆき)
1970年大阪府生まれ、龍谷大学法学部卒。一般社団法人 日本福祉用具評価センター(JASPEC)事業部部長。
介護保険制度施行以前より、福祉用具専門相談員として従事。福祉用具貸与事業所管理者、福祉用具卸(販売・貸与・メンテナンス)業の関西支社長職を経て、現在、JASPECの研修事業並びに臨床評価事業に従事。
・車いす安全整備士養成講座運営主幹、座学実技講師
・経産省受託事業:ロボット介護機器コンソーシアム安全ワーキング参加、人体型ダミー開発、ロボット介護機器評価表作成
・文科省受託事業:リカレント教育プログラムの開発「介護における車椅子シーティングに関する技術習得のための分野横断型リカレント教育プログラムの開発」委員参加及びメンテナンステキスト作成
・JIS Y2001原案作成委員会事務局主担当

福祉用具関連規格・書籍
JIS Y 2001:2022
貸出福祉用具のメンテナンス工程の管理に関する一般要求事項
JIS T 9201:2016
手動車椅子
JIS T 9203:2016
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【38】JISハンドブック
JIS HB 38 高齢者・障害者等 2022