色見本を使って色をみる
第2回
様々な分野で活躍する標準色票
色の表示する方法は、色見本によるもののほか、文字表示として色名によるものと数値によるものがあります。数値と文字記号を使った表示の代表的なものは「JIS Z 8721 色の表示方法-三属性による表示」に準拠した「JIS Z 8721準拠 JIS標準色票 光沢版 (第9版)」(以下、「JIS標準色票」という。) です。「JIS標準色票」は、マンセル値あるいはHVC値と呼ばれるものと互換性があり、また三属性による表示と色見本をリンクさせるものです。
「JIS標準色票」が「JIS色名帳」を含む他の色見本帳と大きく違うのは、一定間隔に並んだ目盛りに応じた色見本が掲載されていることです。これは“重さに「秤」”が、“長さに「ものさし」”があるように、“JIS標準色票が色の「ものさし」”として機能するということです。「ものさし」ですから当然のように色を測ることができます。未知の色を「JIS標準色票」の中の色と比較して同じ色か最も近い色を探します。
「JIS標準色票」では、色見本の並びが常に連続していて他の色見本のようにいきなり飛んでしまうことがありませんので容易に探し出すことができます。後はその目盛りを読み取るだけで色の測定、つまり数値化ができます。逆に数値から色を探すこともできます。たとえば、「JIS Z 9103図記号―安全色及び安全標識―安全色の色度座標の範囲及び測定方法」では黄色を三属性による表示 (マンセル値、HVC値)で7.5Y 8/12としています(表1)。7.5Y8/12と言われてもなかなかどんな色かわからないのが普通ですが、「JIS標準色票」を見ればその値の色見本が掲載されているので色を直接確認できます。また同規格の中では青は2.5PB3.5/10とされています(表1)。「JIS標準色票」にはこの色見本は掲載されていない(※)のですが、2.5PB3/10と2.5PB4/10が記載されているのでその中間の色だとわかります。
※「JIS Z 9103図記号―安全色及び安全標識―安全色の色度座標の範囲及び測定方法」の冊子版規格票には、上記の黄及び青を含むいくつかの色見本を貼付してあります。
表1:一般材料の参考色の色見本
(出典:JIS Z 9103:2018 図記号―安全色及び安全標識―安全色の色度座標の範囲及び測定方法 表JA.1抜粋)
色が連続して配置されていることを利用して色の範囲を表現することもできます。例えば、全国の主要都市には景観条例なる規制があります。この条例は各地の実情に併せて建物の大きさや色彩などを規制しています。色彩の規制には使用が認められる色の上限や下限が三属性による表示によって決められていて、指定された範囲内の色の使用が認められています。条例の手引き等には色見本が印刷されていることありますが、境界付近の判断には印刷色の正確さに不安があることから「JIS標準色票」の使用を推奨しています。また、例えば、パンなどの焼き色の濃淡変化を「JIS標準色票」で数値化し、その軌跡から数段階の色見本を作ることによって、対象製品独自の焼き色スケールを作成するなどして生産管理に活用するなどもできます。果物の収穫タイミングの判定や牛肉の格付け判定などにも活用されています。
第一回目では、先に「JIS色名帳」を紹介しましたが「JIS標準色票」はおよそ4倍の色が掲載されていますのでより細かな色の違いを見ることができます。そのため景観をはじめより細やかな色彩表現が要求される様々な分野、様々な製品の色彩設計においてわずかな色の違いを実際に目視しながら検討することができます。このように「JIS標準色票」は工学な色彩計測と感覚的色の見えの架け橋となる数少ない色見本です。
【執筆者】
一般財団法人日本色彩研究所
研究第2部 常務理事
小林 信治