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色見本を使って色をみる

第1回
様々な分野で活躍する色名帳

 色を見たとき、私たちはその感動を声に出す。薔薇の花を見たときの「わーっきれい。すてきな薔薇色!」。この言葉から皆さんは色を想像できるだろうか?

 今の時代、情報伝達はカラー写真や動画でのやり取りが氾濫しているので、言葉だけで色を伝えることは少ないと思うかもしれない。しかし、画像における色情報は極めて危ういのが現状である。
たとえば、同じデータの画像でもスマホで見るのとPCで見るのとでは色が違って見えたり、テレビで紹介された動画をPCで見たら色が違って見えたり、通販で買ったら思っていた色と違ったりする。
もちろん技術は日進月歩で変貌している。そう遠くない将来、正確な色を表示できる伝達機器の出現が予想される。
一方、2015年だったか、ネット上で表示された画像の横シマ模様のドレスの色が「金色と白色」か「青色と黒色」というのが話題になった。異なる色に見える理由について、当初様々な理由が言われたが伝達機器の問題ではなく、“人の色に対する関する感覚の問題だ”と言うのが専門家の意見であった。

 人は色を見たとき、その場の周囲の状況から照明の光の性質や周囲にある他の色の様子などの情報を収集し、自分の心理的状況なども含めて対象の色を評価する。たとえば、日中の屋外で白色に見える紙を白熱電球で照らされた喫茶店で見ると、最初はオレンジ色っぽく見合えていたものが「紙は白色だ」という記憶や周囲の色から照明光がオレンジ色であることを認識し、次第に紙が白く見えてくる。
これは“色恒常性”といわれるもので周囲の照明光の色を修正する機能であり、このように、人には他にも様々な明るさや色の補正機能を持っている。

 伝送された情報の受け手は限られた情報から送り手の環境を推測する。風景写真のように空の様子や植物、広範囲な景色が写っている場合などは推測しやすいが、肌や背景の景色などが無いドレスの一部分が切り取られたような情報では、正しい推測が出来ず誤認をしてしまうのである。前例のドレスの例では、受け手の年齢など属性や注目する部位の違いによっても見え方が変わると言われている。

 それではどうやって正確な色を伝えれば良いのだろうか。その一つの答えが色見本を使用する事である。薔薇の花の色を伝えたいとき、多数の色見本が集められた色見本帳の中から目の前の薔薇の色と最も近い色見本を選びだし、その色見本を伝えたい相手に見せることができる。
また、その色見本の番号や色名を伝えれば相手も同じ色見本帳を使ってその色を見ることが出来る。双方が同じ色見本帳を基準として色の見えの補正が行われ、同じ色の見えを確保することが出来る。
JIS関連でこのような色見本帳は『JIS Z 8102 物体色の色名』に準拠した「JIS Z 8102:2001準拠 JIS色名帳[第2版]」(以下、JIS色名帳第2版という。) と『JIS Z 8721 色の表示方法-三属性による表示』に準拠した「JIS Z 8721準拠 JIS標準色票 光沢版 (第9版) 」 (以下、JIS標準色票第9版光沢版という。) がある。


 『JIS Z 8102 物体色の色名』という規格は1957年に制定され、1961年、1985年、2001年に3度の改正を経て現在に至っている。
この規格では、【色を系統的に分類した命名法による系統色名】と【慣用的に用いられる慣用色名】が規定されている。系統色名は、“赤”や“青”といった基本色名と“明るい”や“うすい”といった修飾語を組み合わせた日本人にとってもなじみやすい命名法となっている。なじみやすい系統色名であるため具体的な色が容易に推定できる。
とは言っても言葉から連想する色は人それぞれであり、厳密さを要求するには無理がある。そこで対策として、色の数値的表現である「三属性による(色の)表示」による区分境界が規定されているので、測色計など機械測色で用いられる数値的表現である「三属性による(色の)表示」と系統色名との対応付けが可能となっている。また、「JIS標準色票第9版光沢版」や後述の「JIS色名帳第2版」を使用する事で色を目で確認しながら系統色名を利用することが出来る。

 「JIS色名帳第2版」は現行の規格に基づいた系統色名481色の代表的な色を定め、その色見本が横方向に色相、縦方向にトーンの順で3ページに分けて貼付されており、一目で全体を見渡すことが出来る。
未知の色をこのチャートと比較し、最も近い色を探し出す。見つけた色の系統色名がその未知色の系統色名となるのである。
他方、類似した未知色が同じ系統色名となることもあり、これは色名レベルでは同じ色であることを意味する。逆に系統色名が与えられた時、色名帳を見ればその色名がどんな色かを確認することが出来る。ちなみに、冒頭の色名「薔薇色」は慣用色名で系統色名「あざやかな赤色」と規定されている。

 他にも、たとえば、医薬品の業界では薬の混同、誤認といった問題が起きることがある。同じような形状、色のものは混同してしまう恐れがあるということである。機能上大きさや形状を変えることが出来なくても色を変えることで識別が容易になることがある。市場から錠剤を収集し、系統色名を付与し、系統色名ごとの度数を調べることで、市場の錠剤の色分布を検討することが出来る。効能ごとの色の分布から誤用を防ぐ色の選定やユニバーサルデザインを考慮した色の選定をすることも出来る。色名帳があればその場で色を確認しながら色選定が出来る。

 また、商品のカラーバリーションに系統色名を使うと同一色相で濃淡のバリエーション、同一トーンで色相のバリエーションといった色選定もわかりやすくでき、商品紹介に系統色名を使うことで高齢者などに対する色の伝達もしやすくなる。

 このように「JIS色名帳第2版」は色彩調査から色彩デザインまで広く利用することが出来る。

 最後に一般的に色名において、①色名は色と1対1で対応するものではなく、色のグループの名称であること。つまり複数の色に同一名称がつくことがある。色名帳の色票色は代表色で有り、その周辺色は同一色名として容認される。②色名の境界は本来、単一的なものでなく隣接する色名域は互いにオーバーラップするものである。つまり単一色に複数の色名が付くことがある。この規格では実用的便宜の為、単一的に境界線が規定されている。ことを留意して使用していただきたい。

【執筆者】
一般財団法人日本色彩研究所
研究第2部 常務理事
小林 信治